第2話

 前回のあらすじ



 何事かの理由で死亡した主人公は魔法の存在するIFの世界へと転生を果たした。

 しかし、彼を待ち受けていたのは愛する家族の腕ではなく、子供に無茶な労働を強いる老院長、奪う事しか知らない孤児達だった。



 異世界の洗礼を受けた主人公は、襲い掛かる脅威を払う手段を模索する過程で固有魔法の事を知る。

 果たして彼は固有魔法を、楽して人を殺せる魔法を手に入れることが出来るのか!?こうご期待。











 何て、アホな事を思い続けて早2年、俺は一向に固有魔法を覚えぬまま5歳を迎えた。

 思えばこの2年間色々ありました。



 ある裏路地で追い剥ぎやってたら、そこがあるストリートギャングの縄張りだったり。それが原因で毎日追っかけられたり。撃退するのに必然的に鍛えられたり。



 やけにしつこく追って来てるガキに魔法を撃ったら、誤って殺しちゃったり。その死体を隠滅するのにめっちゃ苦労したり。

 殺しちまったガキのグループに殺人の疑いを掛けられて、それでまた死体の山を築いたり。



 キレ散らかしたストリートギャング全員が俺狙いで総攻撃を仕掛けてきて、死にかけてた所で別のストリートギャングが乱入してきて、血で血を洗う抗争に発展したり。



 ほんと散々な目にあったぜ。まあ殺したガキどもの資産を奪ったらそれなりの額になったから、プラマイゼロってとこかな。ガハハ!



「こらっ、シケモク!何サボってんだい!さっさと仕事行ってきな!孤児院ウチに仕事しない奴を住ませる部屋は無いよ!」



 人が物思いに沈んでるというのに、そんな事を全く考慮せずに、あまつさえ怒鳴り散らしてくる奴なんてこの町に一人しか、嘘、多分100人位いるわ。まあともかく、俺の周りには一人しかいない。



「っるせぇな~、少しぐらい過去に思いを馳せたっていいだろうが。これだから老人は…」

「何だいその態度は!それが住ませてやっている恩人への態度かい!?」



 そう言って腰に手を当ててキーキー文句言ってくるこのババアは俺が住んでやってる孤児院、〈愛に溢れる素敵すぎて昇天しちゃう孤児院〉の院長だ。

 あ、あとシケモクっていうのが俺の名前ね。この名前になった経緯は色々あったけど、ま、どーでもいいわ♂



 それにしても、ね。仮にも神の使徒の末端の分際で、何様のつもりだ枯れ木野郎。

 あ、そうそう、この世界もやっぱり宗教が力を持っていて、一番デカい宗教の名前は例の宗教と『迷宮教』っていう宗教だ。



 この世界にはダンジョンっていうものが存在する。



 ダンジョンは何百年も遥か昔にダンジョンマスターとかいうはた迷惑な存在が世界にいくつか作り出した『大迷宮』や、それに感化された馬鹿どもが作った劣化コピーの『迷宮』てのがあって、連中はその大迷宮を信仰の対象としている。



 例の宗教と敬う対象こそ違うけど、内容は似たり寄ったりだ。汝、隣人を愛せよ、だ。もちろん形骸して、殆どの奴が守ってないぞ!



 こいつはその典型例だ。このババアは組織の末端の末端。つまり一番腐敗してるとこ出身のとんでもない野郎だ。



 人身売買、麻薬取引に詐欺に密造酒の精製etc...。こいつのやってる違法行為を数えたら朝日が昇って月が出るぜ!

 子供からしたら良い反面教師だな!こんな奴に育てられちゃあ、神を敬うやつが出てくるわけないよなぁ?



「ったく、行きゃあいいんだろ行きゃあ!」

「そうだよ!分かってるんなら早く行きな!私の視界から早く消えるんだよこの穀潰し!」

「黙りやがれ、この腐れ外道堕天背信枯れ木ババア!とっととくたばっちまえ!」

「―――ッ!お、お前というやつはッッッ!!!!」



 俺はババアに中指を突き立てて行ってきますというと、ババアからのエールを背に、仕事に向けてそそくさと走り出した。



 …壊滅したストリートギャングの残党に尾行されてるとも気付かずに、まっすぐに。





 🤔





 さて突然だが、俺が暮らしている町について話そうと思う。



 この町は東京の端の方にある蟲毒町って辺鄙な町だ。別に悪いとこも無いが、かと言って良い所も無い。大きくも小さくも無い適度にさびれた町だ。



 俺が住んでるのはこの町の端っこにあるスラムの孤児院で、ババアに追い立てられて俺を含むガキどもはスラムから出てきて追い剥ぎをしたり、表の住民を脅して金をせびったりしてババアから課されたノルマをこなしている。



 孤児院のガキどもは大抵の場合十代になる前には町のマフィアやストリートギャングの下っ端になってる。今なって無くたって遅かれ早かれそうなる運命だ。



 何でそんな暴力的な金の稼ぎ方なんだ?って聞かれたら、孤児共は勉強への意欲がねぇ。それが何の役に立つのか、奴らは考えられないからだ。

 しかもそろって身なりにあんまし気を使わないし、目上へ敬うってことをしないから、雇われないのもさもありなん。

 やっぱり低学歴はダメだな!(確信)



 これであのババアが勉強を教えたり、神に対して敬虔だったりしたら多少なりともマシになってたんだろうけど、生憎あのババアは金以外に興味の無い畜生餓鬼でしかない。

 全く、自分にとって都合の良い育て方をしたガキを野に放つ方が、将来的によほど金になるというのに…。

 まああのババアに有益になる様な事なぞ言ってやるつもりなど無いが。



 もちろん俺様は社交性ってもんを持ち合わせてるし、身だしなみも可能な限り整えるようにしてるから、仕事させてくれって言ったら大概通る。



 この町はすぐそばにスラムがある事を承知で住んでいる、というよりここ以外当てのない可哀そうな連中しか住んでいないから、都会では絶対了承しない様な事でも普通に許してくれたりするのだ。



 こんな他人への意識が希薄な現代社会でも、他人を気遣える奴は存在するのだ。



 今日も俺は馴染みの大工共に混じって労働の喜びに身を委ねている。

 う~ん労働が気持ちいい。(建前)あ、やっぱり気持ち良くない。(本音)



「お前さん、何処に住んでんだ?」

「あぁ?」



 昼時になり、各々で飯を食ってる最中に、不意に土方の一人にそんな事を聞かれた。

 金の匂いを嗅ぎつけた俺はすぐさま不幸なチビ助モードに気持ちを切り替えると、いつも通り表通りから少し離れたとこですと、適当にぼかして答えてやった。

 もちろん表情も少し困った風にするとポイント倍点で、ボーナス取得率アップだ!



 そうすると大体の奴は事情を察してくれて、それ以上何も言ってこなくなるから、この答え方はすごく便利なのだ。

 このおっさんもまた察してくれたようで、ついでに同情も引けたらしくて、何と五千円札をぽんっとくれちゃったりもした。

 やはり一番金を稼げる方法は善人の同情心を煽ることだって、はっきり分かんだね。



 俺は土方の兄ちゃんに過剰なくらい礼を言うと、他の土方も集まってきた。

 そいで今しがた俺にチップをくれた土方の兄ちゃんが事情を説明すると、どいつもこいつもやれこんな子供が孤児だなんて!とか、可愛そうに、せめてこれで美味いもん食いな、とか言いながらチップを景気よく恵んでくれたぜ!



 笑いそうになった顔を隠すために俯いたら、それが連中には受けたらしくて、肩や背中を叩いて励ましてくれた。笑い出さなかった俺を褒めて欲しいね!マジで!



 心地よい幸福感の中仕事を終えた俺は意気揚々と帰路に着こうとした。



 …我ながら馬鹿だったもんさ。戦場さながらにいつ何時襲われるか分からなかった状況から解放されたもんだから、あまりにも不用心すぎた。

 夕暮れの人がまばらになったスラム街で、近道しようとして無警戒に裏路地を使うなんて!

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