人間の屑だってダンジョン攻略したっていいじゃない
@sanryuu
第1話
くたばった。
原因はついぞ思い出せんが、まあそんなことは最早どうでもいい。
で、くたばったってのに、気が付くと汚らしくて陰鬱な部屋に、俺は居た。
意味が分からなかった。
馬鹿な鳥みたいに何度もきょろきょろ周りを見渡しても、夜だからか、真っ暗で何も見えやしない。窓はあるらしく、そっちに目をやって外を見ても、月は雲に隠れているようで、何も見えやしなかった。
顔を顰めて、イラついた時の癖でポケットから煙草を出そうと無意識にズボンをまさぐるが、ポケットの中には自慢の百円ライターも、ましてや財布もハンカチも無くなっていた。
焦った。百円ライターが無くなろうがどうでもいいが、財布が無くなるのは不味い。あの中には免許証や、先日入った給料の三分の一が入っているのだ。
古今東西、どんな物が無くなろうが、金さえ残っていれば誰しも安心できるのだ。逆に言えば、金が無いとわかるや、どんな奴でも狼狽するって訳だ。簡単だな。
無心になって俺が寝かされていた襤褸布染みた布団の中を探していると、不意に自分の手が目に入った。ちみっこくてつるつるな、色白の幼児染みた手が。
血眼で闇の中を見つめていたから、いつも間にか目が闇に慣れてきて、薄ぼんやりとだが周囲が見えるようになっていたらしい。
初めは幻覚かなんかだと思った。
だがいくら見つめても、頬を張っても、俺の手はちっちゃいままだった。
多分、この時の俺はさぞ間抜けな顔をしていたに違いない。写真を撮って見てみたかった気もするが、残念ながら今の俺は文無しだ。
しばらく俺は茫然と座り込んでいたけれど、やがてため息を吐いて天井を見上げた。それは受け入れたっていうより、諦めとか、現実逃避に近いんじゃないかと俺は思う。
天井の染みを数えている内に、少し心に余裕が出来たような出来ない様な…。まぁともかく、自分だけじゃなくて周囲にも多少なりとも意識が向くようになった。
で、周りを見ると、今の俺と似たり寄ったりの恰好をした屑ガキが、何人も押し込められて窮屈そうにしながら、死んだように眠ってやがった。
俺はこう思ったね。
おいおいおい、転生したら(なぜかそういう確信があった)もっとこう、すげぇ裕福な家庭に生まれて、「まぁ何て可愛らしい子でしょう!この子はきっと逞しい子に成長するワ!」「もちろんさ、何たって君の産んだ子なのだからネ!」何て会話が聞こえて、次の日には親馬鹿極まる両親が、俺を褒めそやしながら甘やかしまくるもんじゃねーの?
テンプレは外せばいいってもんじゃねぇんだぞ!
しかしいくら訴えても、現実は変わってはくれなかった。
俺、再びのフリーズ。再起動には時間がかかるため、しばらくお待ちください。
そんなアホみたいなことを考えている内に、いつの間にか俺は眠っちまったらしい。
再び意識が覚めたのは、耳をつんざく糞喧しい婆の起床を促す金切り声に、耳と脳を凌辱された時だった。
♨
訳の分からん体験から一月と少し。
隙あらば喧嘩を吹っかけてくるクソガキ共の眼球に指を突っ込んで何とか撃退しつつ、本やババア(孤児院の経営者、およそ考えうるどんな存在よりも邪悪な糞野郎。とっととくたばっちまえ!)からの情報により、この世界の事が概ね分かってきた。
この世界はいわゆる魔法があった場合の現代というIFの世界ってやつだ。
魔法という糞たれな物がある以外、概ね前の世界と変わらない。
魔法!魔物!全くワクワクするよな。
これが創作だったならな!
ざっけんじゃねぇ!
俺は思わず頭を抱えた。そんな俺の様子に偶々近くに居たババアが喚いたが、俺は気にもならなかった。
そりゃそうだろ?
何せ現代日本じゃよほど運が良くない限り、いや悪くない限りか、暴力沙汰なんてお目にかかるような物じゃない。まぁ人によるだろうけど。
俺は中流階級出身の、典型的没個性成人男性型日本人だったから、やっぱり暴力には縁が無かった訳で。
まあ何のかんの言った所で境遇が変わるわけじゃない。しゃーない、切り替えてけ、の精神で何とかやってこうや。
それによく言うだろ。悪い面だけじゃなくて、良い面も見て行こうぜ、てな。
気持ちを切り替えた俺はババアの金切り声を無視し、早速町の図書館へと足を運んだ。
何でかっていうと、あのまま孤児院に留まってたら確実にババアに仕事を割り振られていただろうし、俺と同い年にしてすでにギャング見習いみたいなことしてるガキ共から襲撃されるだろうからさ。
図書館は良いぞ。一次的な避難所にしても良し!勉強するのも良し!司書の目を盗んで本を売ぱらって小遣いにするも良し!良いとこしかない。
どうしてみんなやらないのだろう?不思議で堪らないといつも思う。
生憎今日はそういう事が目的で来たわけじゃないからしないけれど。そういえば最近金が足りない気がしてきたなぁ~…やっぱ2,3冊くらいちょろまかしとくか!金はあればあるだけいいしな!
なんてことを考えながら、俺は目当ての本を手に取った。本のタイトルは『魔法使い入門』。さっそく俺は栞の挟んであったページを開き、読み始めた。
この本は魔法を使い始めた子供に読ませる本の筆頭と銘打ってるだけあって、クソガキにも分かりやすく読めるように挿絵がついていたり、専門用語が出てきたら逐一注釈が付いてたりと、マジでスゲェ読みやすい。
何処の世界にも、こんな力がモノを言う世紀末な世界にも、少しでも世界を良くしようとする物好きはいるらしい。
俺はありがたく思いながらぺらぺらとめくりつつ、本に書いてあった内容を実践したりした。指先に火を灯すとか、コップ一杯くらいの水を出すとかね。
著者曰く、魔法というものは想像力と固定概念にとらわれない自由な発想が胆だって言っていた。
幸いにして
普通図書館の中でこんなことしたらすぐに叩き出されるだろうけど、生憎こんなしみったれた町の図書館に、逐一そんな事を注意する奴なんざいない。
そもそも図書館を利用する奴がまずいないから、俺はやりたい放題できるってこった。
そうこうしている内に、本も終わりが近づいてきた。
最後の章の題名は『固有魔法について』。
固有、その単語に興味をくすぐられた俺はすぐに次のページをめくった。
内容自体はものすごく少なくて、ほとんどが固有魔法持ちの過去の人物の名前を上げるばかり。ただ最後の考察のとこで、固有魔法はその者が強く望んだ力が発現しやすい可能性がある、と書いてあった。
なるほど。つまり日々の積み重ねが固有魔法への道ってこったぁな。
納得した俺はそれから毎晩寝る前に祈るようになった。
どうか楽してババアやガキどもをぶち殺せるような魔法が発現しますように、てな。
祈りが通じたのは、その習慣を始めてから2年後の事。つまり俺が5歳を迎えた時だった。
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