第6話 安堵そして苦しみに

………『俺』は、少し間を置いて口を開いた


「………そめかえ…しゅん……………』





男…いや秋雨さんは、はっと優しい顔になり

「そめかえ、しゅん…いい名前だな」


兄さんから貰ったその名前を褒められるのは、いつぶりだろう…しゅん……

兄さんから貰ったその名前が大好きで……大好きで……

……大好きな兄さん…母さん…父さん……

僕は、その家族3人を思い出し

………泣いてしまった…

涙を必死で隠そうとうずくまる。

でも体は、震えてしまう………

すると秋雨さんがそっと肩に手を置いて


「大丈夫…俺たちが居る……」


その優しい声に、嘘とは言えないような優しい声に僕はまた…また涙が溢れる


「う゛うぅ゛」

「もう我慢しなくていい」


悲しみを受け止めてくれる。そう思ったら僕はますます涙が出た。

悲しいから辛いからじゃなくて

すごく嬉しくて…すごく安心して


まだ『僕』のこと何も知らないのに

また『僕』は、“失う”かもしれないのに

その時は、その存在を欲してただただ泣き続けるしかできたかった。



僕は、泣き疲れて…歩き疲れて…安心して…眠ってしまった。


起きるとベットの上だった


体の痛みが和らいでいた

僕の体は、治療されており足には包帯が何重にも巻かれていた。


「よう!起きたか」


僕がボーッとしていると部屋に入ってきた秋雨さんがそう言って、肉が巻かれているとうもろこしの料理をベットのサイドテーブルにおいて、その隣に座る。


「お前さん2日寝てたんだぞ」

「え……」

「全然起きなかったから、死ぬのかと思った」

「……」

「とりあえず飯、食え」


そう言って秋雨さんは、サイドテーブルに置いてあった“謎の料理”を手渡してきた


「美味いぞほら」


僕は、それを口に運ぶ

形容しがたい味だった、とうもろこしに肉が巻かれ、口の中でとうもろこしの甘さと肉の旨みが喧嘩していた。

口には出さなかったが不味かった……

食べる手は、そこで止まった。


「随分個性的な味ですね」

多少嫌味を込めてそういった

「俺オリジナルの作品だ個性が出てるんならそれだけでその料理を食べる意味がある」

秋雨さんは、よく分からない自論を言った


「なぁ…話してくれないか?しゅんのこと」

「………」

話したくなかった…たま同情されて、見捨てられて…何度もそんなことがあった。

………1人を除いて。

僕は口を開かなかった……


「話したくないか……」

「……」

「今は、話さなくてもいい…けどいつか、話してもいいって思えるようになったら…話してくれよな」

優しい声でそう言ってくれた

心が痛くなった、こんなに優しいのに僕は裏切り続けるのか………

嫌だった…裏切り続けるなんて

初めてあって体感では1時間もなかったけど

僕は、秋雨さんに2ども救われて安堵できた。


「ちょっと待ってください……」


部屋を出ようとした秋雨さんを呼び止めて

口を開いた。


「……は…はなし……」


口を開いて言おうとしても声が出なかった

心のどこかではまだ“裏切られる”“見捨てられる”そう思っている自分が居た。


「ん?どうした?」

「い、いやあの……」


話そうとしているのに、話したいのに………話せなかった。


「無理すんなよ」


優しく微笑んで秋雨さんは、部屋を出た


言いたいのに言えない、口を開いて声を出そうにも“はなします”その一言が出なかった

怖かった…恐れていた……

あの笑顔が偽物なんじゃないか?

あの優しい声は、言葉は、嘘だったんじゃないか?

疑心暗鬼になってその日は、眠れなかった


苦しい……言えなくて苦しい……誰もいなくて……苦しい………

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