第3話 銀髪の少女
宿屋に着いた俺達は部屋を取ろうとするが部屋が1部屋しかないというハプニングが起きた。
仕方なくその部屋を借り寝る時俺は外にいようと決めた。
ドアを開けると二人で生活するには丁度いい広さの部屋だった。
しかしベッドは一つ。
やっぱり俺は野宿か。
「取り敢えず風呂に入って来て下さい」
正直に言おう。
匂いが気になる。
彼女が女だから柔らかく伝えたが恐らく気づいているだろう。
「……分かりました」
部屋ごとに風呂がついていて助かった。
俺は壁にもたれて彼女が出てくるのを待つ。
ガチャ。
浴室の扉が開き中から銀髪の少女が顔を覗かせた。
「……服がありません」
「あ…はいっ」
声が裏返ってしまった。
そういえば服が無かったな。
今すぐに買ってくるか。
「すみません…服が無かったので直ぐに買ってきます。風邪をひくといけないのでもう一度シャワーを浴びてて下さい」
「分かりました。色々とありがとうございます……」
俺は直ぐに服屋を探し女性用の服を買った。
「買ってきました。どうぞ」
ドアを少しだけ開け、隙間から服をあげると直ぐに姿を現した。
「ご丁寧にありがとうございます……」
彼女に見惚れてしまった。
少し服が大きくぶかぶかなのが中々にあざとく最高だった。
「少しサイズが大きかったですね」
「いえ、お気になさらず」
そろそろ彼女について色々と聞くか。
「単刀直入に聞きます。貴方はなんであんな所にいたんですか?」
周りには街は無く、街がどこにあるかすら分かっていなかった。
恐らくここら辺に住んでいるわけじゃないだろう。
「実は――」
そこから彼女について色々と教えてもらった。
○○○
彼女の名前はルカ。
平凡な家庭に生まれ平和な日々を送っていた。
特にお金持ちというわけではなく、生活に制限がある中でも楽しく暮らしていた。
そんなある日の事だった。
村に盗賊が襲ってきたのだ。
過去にそんな事は無かったので盗賊の襲撃を対処する術がなかったのだ。
村の住人は逃げ回る一方、しかし盗賊の猛攻により、次々と蹂躙されていった。
盗賊はルカの家へと押し入り父をルカの目の前で殺した。
残されたルカと母。
母はルカを生き残させる為に自らを犠牲にしてルカを逃した。
ルカは背中を押された後、決して止まる事は無かった。
母の断末魔が聞こえてもなお走り続けた。
国境を越えてもなお走り続けた。
どこまでも走り続けた。
そしてとうとう疲れ果てて身体が動かなくなり三日間もその場に留まり続けたのだ。
そして俺と出会ったということだ。
「そんな事が……」
簡単に聞いていい話じゃ無かったな。
「すみません。何も知らないのに」
「いえ、気にしないでください」
本当は気にしていないわけがないだろうな。
村のみんなと家族を殺されたんだ。
そう簡単に許せるわけがない。
沈黙が連なる中二人のお腹の音が響いた。
「……」
「……」
「……取り敢えず何か食べましょうか」
「……お願いします」
俺達は食堂へと向かった。
メニューに目を通すと美味しそうなメニューが沢山あった。
「私は少しでも構いません」
「沢山食べましょう。ずっと食べていないんですよね、お金もありますし。まあ人のお金ですけど」
「ありがとうございます…」
俺は取り敢えず頼みまくった。
頼みまくったとはいえテーブルが埋まるほどの量の食事が届いた。
「頼みすぎたな……」
「ですね…」
「取り敢えず食べましょうか。ではいただきます」
食事に手をつけようとした時、ルカは俺の食事の挨拶を聞いて首を傾けていた。
そうか、この文化は日本だけだったな。
「いただきますって言うのは俺の地域の文化で食事に対する感謝みたいなものなんです」
「なるほど…ではいただきます…」
俺もいただくとしよう。
ビーフシチューのような見た目をした料理を口にする。
美味っ!!
これは美味い!!
確かに俺も今朝から何も食べていなかったな。
だから余計に美味しく感じるな。
俺は勢いよく食べ過ぎて喉に引っかかってしまったので水で流し込む。
ふとルカの方を見ると彼女は涙を流していた。
「……」
確かに涙を流すほど美味しい。
ろくに食事を取らずによくここまで頑張ったのだ。
「美味しいですね」
「…はい…本当に…」
俺達はあっという間に食事を完食し、部屋に戻った。
そして、俺も風呂に入り少し休んでいたらルカがウトウトしているのに気付いた。
そろそろ寝る時間か。
相当疲れ果てたのだろう。
「じゃあそろそろ寝ましょうか。俺は外で寝ます、それではお休みなさい」
「……」
部屋を出ようとすると腕を掴まれた。
「…?」
「……」
えっと〜…。
「ど、どうかしましたか?」
「この部屋で寝てください……」
なんだって!?
そんなの俺もこんな美少女と同じ部屋で寝られるのなら寝たいさ。
でも彼女は疲れているのだ。
俺の私利私欲に付き合わせるわけにはいかない。
本当は俺と寝たくないはずだ。
俺に助けられたからその恩返しだろう。
「そんなことしなくて大丈夫ですよ。自分は外でも寝られますからゆっくりと休んでください」
「……嫌だ」
「嫌って……」
「じゃあ私も一緒に外で寝ます」
「風邪をひきますよ?」
「…はい」
「変な人に襲われるかも知れませんよ?」
「……はい」
「…俺が貴方に変な事をしちゃうかもしれませんよ?」
「………はい」
ここまで言っても引かないとは中々強情だな……。
「分かりました。俺もこの部屋で寝ます。だからゆっくり休んでください」
「分かりました」
もしかして一人が怖いのか?
そういうことならここまで引かないのは頷けるな。
そして俺達は眠りについた。
寝る直前まで一緒にベットで寝ようと言われていたが流石にそれは出来ないと言ったらしょんぼりとして『そうですか……』とベットに入ったのだった。
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