第230話 くっころ男騎士と捕虜拷問

 幹部会議を終えた僕は、捕虜のリケ氏と昼食をとった。場所は、先日の地下牢ではなく客室だ。まあ当たり前の話だが、牢屋は居心地が悪いからな。態度の軟化を狙っている以上、長期間収監しておくのはマズイ。そういうわけで、今朝からきちんとした部屋に移ってもらったのだ。

 まあ、流石に監視はしているがね。当然部屋の前には歩哨を立てているし、窓などから逃げ出したりしないよう改造も施した。いろいろと手間はかかるが、こればっかりは仕方ない。彼女は貴重なサンプルだし、我々の元で過ごす以上はある程度我々リースベンに好意的になってもらいたいという打算もあった。


「あ、あっ……い、いまんエルフェニアは元老院によっ合議制で、一応皇帝はおっもんの実際ん権限は……あっ、あっ、そげん浅か所ばっかりっ……!」


 食後。僕はリケ氏を尋問していた。彼女はベッドに横になった状態で僕の膝の上に頭を乗せ、その笹穂状にとがった耳を僕によって好き勝手いじられている。僕が握った耳かき棒が動くたび、リケ氏は嬌声じみた声をあげていた。


「だめだめ、あんまり深い所に突っ込んだら、鼓膜が傷ついちゃうでしょ。……しかし、合議制ね。じゃあ、きみたちに攻撃命令を出したのは、皇帝じゃないのか」


「そ、そうじゃ。あっあっ、オイは氏族長んベリンどんに命令されて……たっ、頼ん! あっ、そこっ、もっと強う……っ!」


 リケ氏はここ数日で、すっかり素直になっていた。もう一歩踏み込んでも大丈夫そうだと判断した僕は、彼女に耳かきを提案したのである。最初は恥ずかしがって拒否していたリケ氏だったが、ローストチキンと高級ワインをたらふく飲み食いさせたらあっという間に陥落した。まあ、最初からまんざらでも無さげな様子だったからな。酒が入って自制心が緩めば一発よ。

 自慢ではないが、僕の耳かきの腕前はなかなかのものである。なにしろ、僕には幼年騎士団の同期全員の耳をほじり倒した経験がある。精強なエルフ戦士も、こうなってしまえばまな板の上のコイも同じだ。すっかり快楽堕ちして、情報をぺらぺら喋るようになってしまった。


「だーめ」


 耳元で囁くようにそういってから、彼女の耳穴に息を吹きかける。リケ氏は情けない声を上げ、顔も耳も真っ赤にしてしまった。いやー、楽しいね。僕は情報が得られ、リケ氏は快楽を得られる。まったくwin-winの関係だ。

 やはり、北風と太陽作戦は間違っていなかったようだな。エルフは今までずっと苦しい生活を続けてきたから、苦痛に対する耐性はかなり高いように見える。反面、快楽耐性は濡れた障子紙以下だ。

 おそらくこれはリケ氏個人だけの傾向ではあるまい。こういう手は、他のエルフにも有効そうだな。エルフたちとの交渉には、男娼を連れていくことにしよう。……相手が蛮族だからなあ、割増賃金は必要だろうな。まったく、このところカネがいくらあっても足りないよ。困ったもんだ。


「元老院とやらは、あんまり意思統一はできていないのかな?」


「元老院は朝出た命令が夕方には撤回さるっような場所や……あっ、そこ、よか……し、従おうちゅう気にはならんで、結局自分の所ん氏族長んゆ通りに動っほかなか……あっ、う、も、もっと……」


「朝令暮改だねえ。上がそんなんじゃ、部下は大変だ。そんな環境で、君はよく頑張っていたね。すごいよ、本当に」


 恋人に対する睦言のような口調で、彼女にそう囁いてやる。まあ、前世でも現世でも僕には恋人が居たためしがないから、あくまでイメージだけどな! ……なんで恋人が居た経験はないのに、ダース単位の数の女性に耳かきをした経験はあるんだろうね、僕。

 いや、これに関しては僕は悪くないぞ。幼年騎士団の同期、あの幼馴染どもが十割悪い。訓練が厳しいぶん休憩中くらいは優しくしてやろうと甘やかしていたら、つけあがりやがって。人を何だと思ってるんだ、まったく。


「す、すごくなんかなか! オイなんぞ……」


「いいや、凄いよ。胸を張っていい。だから、今はゆっくり休め。これだけ頑張ったんだから、その権利はある」


 そう囁きかけながら、僕はリケ氏の頭を撫でてやる。毎日しっかり三食をとり、風呂にも入るようになったおかげか、彼女の髪は輝くような美しさを取り戻しつつあった。

 いや、髪だけではない。肌ツヤが良くなり、血色も良好である。わずか数日で、リケ氏はとてつもなく美しくなり始めていた。よくよく考えれば、慢性的な栄養失調状態にありながら、エルフ族はあれほど美しかったのだ。それが健康な状態を取り戻したのだから、もう無敵である。ほとんど容姿チート状態だ。エルフやばい。


「お、オイは、オイはあ……ッ!」


 リケ氏は感極まった様子だったが、僕は容赦なくその耳孔に再び耳かき棒を突っ込んだ。


「アッ!」


「ところで、君たちの皇帝について聞きたいんだけど……皇帝は、リンド・ダライヤ氏で間違いないんだね? あの、童女のような姿の老エルフ」


「そ、そうじゃ。あっあっ、あん年寄りど!」


「ふうん」


 オルファン氏の発言の裏が取れたな。やはり、ダライヤ氏は"新"の元首か。とはいえ、国内の統制は取れていない状況というわけだ。ううーん、難しいところだな。こちらと友好関係を築きたいという彼女の主張は本当かもしれないが、その方針に部下が従っているかというと怪しいようだ。

 まあ、新エルフェニア自体、すでに機能不全を起こしているように見えるからな。ほとんどゾンビみたいな国だ。場合によっては、いっそ介錯してしまう必要もでてくるかもしれない。とはいえ僕たちとしては見えている地雷を踏みに行くわけにもいかないから、介錯はエルフたち自身の手でやってもらいたいところだ。

 まあ、いわば明治維新だな。……でも、明治維新はほとんど奇跡みたいな出来事だからなあ。正直、そう上手くはいかないだろ。やっぱり、こっちからもある程度干渉しなきゃダメかねえ。あー、嫌だなあ。手とか出したくないんだけど。


「じゃあ、今度は元老院だ。元老院を構成してるのは、長老衆と氏族長だね? 彼女らの名前と性格が知りたいんだけど」


「さ、流石にそんた……オイもエルフん兵子へごじゃ。敵にそげん大切な情報を漏らすわけには……」


「そっかあ」


 僕はリケ氏の耳から耳かき棒を引っこ抜いた。そして、少し強めに息を吹きかける。


「ああっ!」


「耳垢を払うね」


 そして枕元に置いた小さな羽箒を手に取り、その特徴的な長耳の溝を羽根の先端でなぞるように優しくくすぐった。ただでさえ赤かった彼女の顔が、更に真っ赤になる。どうやらエルフは耳が敏感なようで、こうして優しく弄ってやるとリケ氏は大変に乱れるのである。


「あっ、や、や、やめて! そんたやめてっ! お、おかしゅうなっ! うっ! アアッ!? お、教ゆっ! 教ゆっで!」


「いい子だ」


 にやりと笑い、僕は羽箒を手放した。代わりに、もう一度彼女の耳に息を吹きかけてやる。


「アッ!!」

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