第四章
覆盆子原さんは孤高
覆盆子原さんは孤高だ。
あいえ、ぼっちとかそういうのじゃないです。彼女、うちのクラスではまちがいなく存在感があります。スクールカーストのヒエラルキーで見た場合、かなり上のほう。底辺に近い空気のようなわたしとは、月とすっぽんです。
部活動はテニス部に所属。放課後、ラケットを持った覆盆子原さんを校内でたまに見かけます。
お勉強のほうは、ちょっと苦手みたい。定期テスト後の成績が芳しくない生徒に課せられる補習では、常連みたいですし。まあ、それに関しては、わたしもえらそうなことを言えませんが。
覆盆子原さんと同じクラスになったのは二年生に進級してからです。一学期の初日にくじ引きで座席を決めたら、わたしが彼女の真後ろの席になりました。
はじめの印象は、ちょっとこわかったかな。覆盆子原さんは口数も少なくて、どこか他人に対して壁を作っているというか。うーん、なんて言えばいいんだろう。一匹狼的な? 群れるのを好まないのは本人の自由ですから、全然いいと思う。最初に彼女を孤高と言ったのは、そんなイメージからです。
近寄りがたくて、親しいお友達が多くないのは事実。気難しそうだし、おこらせるとやばいみたいに周りからは見られてるのかも。でもきっと、知り合ってみれば普通の女の子と変わりない気がします。ううん、むしろ覆盆子原さんはやさしい性格なんだ、絶対。
たとえば先生がプリントを配るとき、まず座席の列のいちばん前に人数分を配るじゃないですか。それで順番に後ろへ回すんだけど、がさつな子だとこちらを見もせず、ばさっと腕だけでプリントの束を突き出してくる。
でも、覆盆子原さんはちがう。わざわざ身体をひねってわたしのほうを向いてから、そっと手渡してくれるんです。なにげない気配り。それがきちんとできる人なんです。いつも彼女を近くで見ているから、わたしにはわかる。
窓際の席だからなのか、授業中に覆盆子原さんのポニーテールはよく横を向いている。その窓の外を眺める彼女の物憂げな横顔に、何度かどきっとさせられたことがあります。大人びていて、同性のわたしから見てもきれいなんだもん。
正直、うらやましい。きりっとした顔立ちとか、テニスをやっているせいで引き締まったスタイルとかもあるけど、なにより自信に満ちているところが素敵だ。他人に媚びず、自分というものを確立してる。その気高い意識が外に表れているのがわかります。ゆえにやはり、覆盆子原さんは孤高なんだ。
ここまで語っていますが、わたしは覆盆子原さんの友達でもなんでもありません。ただ席が近いクラスメートのひとりというだけ。
だからあの日、覆盆子原さんのほうから話しかけられたときは、ほんとうにびっくりしました。
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