まだ午前中だというのに、

 まだ午前中だというのに、もう太陽がぎらぎら照りつけている。今日もまた暑くなりそうだった。

「これでいいかなあ?」

 れのんがきれいな石を見つけて拾ってきた。折戸は彼女の掌にある丸っこくてすべすべした自然石を摘まみあげると、目の前でひっくり返したりして、ちょっとの間それを吟味した。形も大きさも、申し分ないように思えた。

「いんじゃね」

「どこに置くの?」

「どっか隅っこでいいだろ。ここ、そのうちまたなんか建てるだろうし」

 ふたりは全焼したアパートがあった空き地の片隅まで歩くと、地面に石を置いた。

 墓標である。折戸が成仏させたあの猫の。折戸はドラッグストアで買ってきた猫用のおやつを袋から取り出すと、石の前に供えた。それからふたりして手を合わせる。

 昨夜、あのあと警察に通報したが、以後どうなったのかは定かでない。危険な悪霊に対処した時点で折戸の仕事は終わっていた。事が済んだら顔を見せにこいと言っていた北室とも、もう会うことはあるまい。

 今回の件を警察は未解決事件として処理するのだろう。霊界データバンクのほうは、会社が担う通常の業務をひとつ片づけたにすぎない。一般の多くの人々へは、経緯も結末も明かされぬまま。それで、終わりだ。

「あのにゃんこ、虹の橋にいけるかな?」

 とれのん。

「どうかねえ……猫に九生ありとはいえ、こっちで派手に暴れたからな」

 動物霊の処遇は死後の世界でどう扱われるのだろうか。人間と同じく閻魔天の法廷で裁かれることはないと思うが、折戸はそのあたりのことをよく知らない。

「ね、学校まで乗っけてってよ」

「あいよ」

 れのんはこれから部活動の練習があるのだという。彼女はテニス部所属。いまは夏休みのはずだったが、どうりで学校指定の芋ジャージを着ているわけだ。

 社用車の軽四で円島女子商業高校の正門前まで乗りつけると、れのんを降ろして折戸はそのまま仕事に戻った。彼は今日からまた、霊界データバンクの地域巡回スタッフとして通常業務に就く。

 市井でさまよう幽霊たちを捜し出してチェックするだけの、取るに足らない仕事。折戸が携わっていた昔と比べれば命の危険もなく、平穏な日々といえる。

 とはいえ──

 今朝、事務所で二日ぶりに会った後輩の針村孝士は、仕事が溜まっているとぶーぶー言っていた。同僚の寺石麻里には報告書の出来が悪いと叱られ、支社長の中田からは警察へこちらの情報の一部を漏らしたことをねちねちと突かれた。

 下っ端はつらい。こっちはこっちでいろいろある。

 折戸はふと思いついた。

「あー、癒やされてえ。猫でも飼うかあ──」

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