第14話 怪物の群れ発生
剣十郎の元から帰ってきた賢也は、長期休暇からの復帰をするために出社していた。
「おはようございます」
上司に挨拶をする。
「帰ってきてたのか。龍崎」
「はい。復職しようと思います」
「そうか。じゃあ、手続きしてこい。あぁ、あと復職するのなら、うちの専属ハンターになるんだな」
「はい。そうさせてもらいます」
上司に挨拶すると、総務課に向かおうと歩き出した。
賢也が事務所を出た所で声を掛けられた。
「賢也さん!」
呼ばれた方に振り返ると優がいた。
「よう。優。久しぶりだな」
「戻ってらしたんですね」
「あぁ、昨日帰ってきたんだ。元気だったか?」
「はい。あ、それが賢也さんの武器ですか?VRと同じ剣なんですね」
優は賢也の背にある剣を見て尋ねた。
「最近のハンターは、銃が主流だって聞いてましたけど」
「そうだな。でも、銃は怪物になかなか当たらないらしいよ。というか、厳しいだろうな」
既に怪物と戦った賢也は経験から語った。
「そうだ。賢也さん、そのぅ、前にも聞きましたけど、登録してもいいですか?」
「え?あぁ、マイハンターか。いいよ」
「良かった。まだ活動出来ないって言ってたじゃないですか。だから、まだ登録してなかったんです。SOS飛ばしても迷惑かけてしまうんじゃないかと思って」
優は喜びながら、スマホを触り出した。
「登録完了です。よろしくお願いしますね」
「任されたよ。じゃあ、総務に行ってくるな」
笑いながら、賢也は優と別れ、総務課に向かった。
「技術課の龍崎です。長期休暇の復職と専属ハンターの登録に来ました」
「龍崎さんですね。では、こちらへどうぞ」
賢也は、総務の担当者に連れられ打ち合わせコーナーの席に座った。
「長期休暇の理由は、ハンターの力をつけるということでしたね」
パソコンの画面を見ながら担当は続ける。
「はい、これで復職の手続きは完了です。明日から正式に出社お願いします」
担当者は淡々と呟きながら、操作している。
「あとは、専属ハンターの登録ですが、今、わが社には7人の方が、登録されています。明日、出社された時にご紹介しますので、10時にこちらまでお願いします」
「分かりました。では、明日からよろしくお願いします」
賢也は、手続きを済ませ、その日は、帰宅した。
家に帰ると、ライセンスにメッセージが届いていた。
『龍崎さんが討伐した怪物の死体が見つからず、討伐の確認を取ることが出来ませんでした』
「どういう事だ?確かにあの怪物が死んだのは確認したんだけどな」
ライセンスを見ると、討伐数が1体のままだった。
「まぁ、討伐数が1体のままなのは、別にいいけど。死体が見つからなかったのは気になるな」
嫌な感じがしながらも、その日は寝ることにした。
翌日、会社の専属ハンターの面々と顔合わせをするために総務課へ向かった。
「失礼します」
賢也が総務課へ入ると、すでに7人のハンターが集まっていた。
「初めまして。今日から専属ハンターに加わった龍崎です。よろしくお願いします」
賢也が挨拶すると、嫌そうな顔をしたハンターが口を開く。
「また、新人が増えたのか。どうせ何も出来ないんだ。大人しくしてろよ」
(何だ。この人は会って早々、文句言ってくるとは)
「おい、何を言ってるんだ。諸井。俺は武井。一応リーダーをやらせてもらっている」
「で、そっちから秦、天谷、臼井、守屋、津吉だ。俺がDランク、Eランクが3人、Fランクが3人だ。君を入れてFランクは4人だな」
「秦です。僕もまだ成り立てなんで新人同士よろしく」
「よろしくお願いします」
「君は剣を使うのか。ここの皆は、銃を使うから怪物が来た時は、気を付けて。流れ弾が当たったら危ないから」
「はん。俺が撃ち殺してやるよ」
「諸井!いい加減にしろ!」
脅迫する諸井に武井が怒鳴る。
「あ、大丈夫です。気にしないで下さい」
賢也の余裕な態度に諸井が更に食って掛かる。
「こいつ!喧嘩を売ってるのか!」
「諸井!」
「ちっ。覚えてろ」
「本当にすまない。秦にもああいう態度で困っているんだ」
(ここ大丈夫なのか?)
賢也は内心では、心配していたが、
「大丈夫です。それにもしもの時は、本当に気にしないで下さい。流れ弾に当たるような事はしないので、では失礼します」
賢也は、そう言うと顔合わせの場から立ち去った。
「くそっ。あの生意気な新人、絶対許さねぇ」
諸井は、ムシャクシャしたまま歩いていた。そこに臼井が来る。
「諸井さん、荒れてますね。今度、怪物退治の時、脅してやりますか。あの新人。どうせ、ビビって何も出来なくなりますよ」
「ああ。見てろよ。その内、Dランクに上がって武井の奴も黙らせてやる」
諸井と臼井は下卑た笑いをあげながら去っていった。
癖の強いメンバーのいる専属ハンターの一員となり、賢也のハンター生活の幕が上がった。
賢也が剣十郎の元を去った日、一匹の小さな怪物が、剣十郎の山の中を歩いていた。大した力が無く、賢也の討伐した大型の怪物の気配に隠れていたため、賢也や剣十郎には気付かれなかったのだ。
その小さな怪物は、剣十郎の討伐した怪物の死体の傍にやって来た。死体の匂いを嗅いだ小さな怪物は、その死体を食べ始めた。全て骨も残さず食べ尽くした怪物に異変が起きる。みるみる体が大きくなり、それまで四足歩行だったものが、立ち上がり二足歩行に。前足だったものは腕に変化していた。指には鋭く長い爪が生えていた。賢也が初めて討伐した怪物に似た形状になっていた。
変化した怪物には一つの感情が芽生えていた。それは、賢也に対する怒り。死体となった怪物の記憶が小さな怪物の意識を乗っ取ってしまっていたのだ。
そして、怪物は山を降りていく。賢也の元に向かうために。
怪物同士は、自身の力をつけるために共食いをする習性があった。
だが、この怪物は違った。元々の小さな怪物と同種を見つけると、力でねじ伏せ、従わせた。次々と見つけては従わせ、移動し続けた。賢也の元に。
そして、この集団は人の目に止まる。だが、怪物の集団に手を出せるハンター達はおらず、とうとう、集団は100匹以上にまで膨らんでいた。
賢也は、剣十郎の元から家に帰った後は特に怪物による被害や討伐の依頼はなく、これまでと変わらない穏やかな日々を送っていた。
そんな時、怪物の群れに関するニュースが報道されていた。
「ニュースです。怪物の群れが現在、南下中です。確認された数では、100体を越えているとの情報が入っています。この群れの中心には、新種と思われる怪物も確認されており、これまでこのような例は確認されていないため、協会で対策を検討中です。既に、何人かのハンターの方が討伐を試みましたが、失敗に終わっています。一般の方々は十分注意してください」
ニュースを見た綾乃は、賢也に尋ねた。
「怪物ってあんなに集団行動するものなの?」
「知らないなぁ。でも、100匹以上だなんて、信じられないな」
「気を付けてね。あんなに沢山の怪物に襲われたら、死んじゃうよ」
「ああ、心配するな。その内、協会がどうにかするだろ。まだ九州までは来てないみたいだしな。じゃあ、仕事に行ってくる」
「行ってらっしゃい」
賢也は、綾乃に挨拶すると、仕事に出かけた。
事務所に到着すると、賢也は自分の席に座る。
パソコンの電源を入れると、メールが届いた。
「ん?武井さんからか」
メールを確認すると、今朝のニュースの件についてだった。
『専属ハンター各位へ、今朝のニュースで怪物の群れが南下している事は知っていると思う。もし、この群れが来た時の対応について、打ち合わせを行いたい』
「あの群れの対応って、来たら来たで討伐するしかないだろうに。何を打ち合わせするんだ?」
メールに対し独り言を呟いていると、斎藤がやって来た。
「よう、賢也。今朝のニュース見たか?」
「ああ、群れの話しだろ」
「そうそう。大変だな。お前」
「何が大変なんだ?」
「何がって?いや、もし、来たら相手しなきゃいけないんだろ?死ぬぞ、あれは」
「それは分からないだろ。どんな群れかも分からないけど、Fランクの群れならどうにかなるんじゃないか」
実際、賢也はFランクの怪物相手なら、たとえ200体でも1人でやれる自信があった。
「凄い自信だな。まあ、死なないように頑張れよ。知り合いが怪物と戦って死んだなんて話しは嫌だぜ」
どうやら、斎藤なりに賢也の事を心配してくれているらしい。
「死なないように頑張るよ。さて、嫌な面子の打ち合わせに行ってくるかな」
斎藤との話しを終え、専属ハンターの打ち合わせに向かった。
会議室に着くと、諸井、臼井以外のメンバーは揃っていた。
「おはようございます」
賢也は挨拶すると、席につく。
「諸井さんと臼井さんはまだなんですね」
「もう来るだろう。あの2人はいつも一緒だからな」
5分程待つと2人がやって来た。
「おい、来るかも分からない怪物どもの群れについてなんて話したって無駄だろうが」
会議室に入ってくるなり諸井が罵声を上げる。
(この人はいつもこうなのか)
賢也は顔には出さなかったが、面倒臭い人だと思った。罵声を上げる諸井に武井が、
「もし、来た時どうするんだ。俺たちはこの会社の従業員を護る義務があるんだ」
「そんなの知ってるよ!だが、あんなのが来たら、ここの8人でどうにか出来る量じゃないだろ。手出さずに、建物の中で大人しくしてればいいんだよ。他も同じ対応だから、こんな状況なんだろうが。解れよ。それくらい。それとも九州トップクラスのハンターさんならどうにか出来るのかねぇ?」
諸井は武井に嫌みを言う。怪物の群れに対し諸井は何もする気が無いようだ。
「諸井、お前の言いたいことは分かった。もういい。出ていっていいぞ。何なら、専属ハンターも辞めてもらってもいい」
「誰が専属ハンターまで辞めるって言った。こんな金になる仕事を誰が辞めるか」
諸井は、専属ハンターに出る危険手当てが目的だったらしい。実際、怪物の報償金目当てでハンターになる人もいるのだから、何も悪くは無いのだが。
「だったら少しは協力しろ」
「分かったよ。うるせぇ奴だ」
漸く、諸井と臼井の2人も席につく。
「よし、では打ち合わせを始める」
この険悪な雰囲気の中、打ち合わせを始める事が出来る武井が凄いと賢也は思った。
「まずは皆に聞きたい。諸井は戦わずやり過ごすという意見だが、戦おうと思う者はいるか?」
先ほどの2人のやり取りの後で返事がし辛い状況になっていたが、賢也は、戦う意思を示した。
「私はやりますよ」
「他は?」
沈黙が続く。
「そうか、他は誰もいないか。さすがに俺と龍崎の2人で100体以上の怪物を相手には出来ないな。では、諸井の意見に賛成という者は?」
残りのメンバー全員が手を挙げる。
「ほら見ろ。戦うなんて考える馬鹿はお前らだけだよ。よし、やり過ごすで決定。解散、解散」
諸井はそう言うと勝手に出ていってしまった。それに続いて、臼井も出ていく。
「全く。あいつらは」
武井がため息をつく。
「やり過ごす事にするつもりだが、どうしてもという時はお前達、頼むぞ」
「はい。俺は大丈夫です」
賢也は答えるが、他は誰も返事をしなかった。
会議を終え、戻ろうとした時、秦が声を掛けてきた。
「龍崎さん、凄いね。あんな群れに立ち向かおうなんて」
「いや、やらないと誰かが怪物の餌食になるだけだし、自分の手の届く範囲は護ろうって決めたから」
「そうなんだけど。やっぱり自分が死ぬのは怖いよ」
秦は素直に答えた。
「別に責めないですよ。誰だって、自分の命は大事ですからね」
そう言うと、秦と別れ、自分の職場に戻り通常業務を再開した。
怪物達はどんどん南下していく。そして、遂に自分の怒りの元にある賢也の住む地域に足を踏み入れたのだった。
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