第13話 免許皆伝と怪物強襲!
剣十郎の元で修行を始めて、半年が経過していた。
「賢也、もうお前は四候闘剣術の全てを学び、修得した。私が教える事はもう何もない」
「ありがとうございました。師匠のおかげで強くなれました。ここに来て本当に良かったです」
賢也は、剣十郎に礼を言うと、
「まだだ。最後に私と手合わせしなさい。私を倒す事が出来れば、免許皆伝をやろう」
「さあ、構えなさい」
剣十郎は構えを取る。剣十郎との手合わせは、剣技の修得の前に行って以来、2度目となる。
「今度は負けません。行きますよ!」
賢也も構えを取った。両者共に隙が全くない。
(前の時とは大違いだな)
剣十郎は、賢也の成長ぶりに感心した。
「行くぞ!」
前に手合わせした時と同じく剣十郎から仕掛ける。間合いを詰めた剣十郎は、突きを放つ。賢也はこれをギリギリで横に動き躱す。剣十郎はそのまま横に薙いだ。賢也は、その攻撃を竹刀で受け止める。受け止めた竹刀を押し返し、賢也が斬りかかる。剣十郎はこれを後ろに下がって躱した。賢也は深追いせずに、その場に留まり構え直す。
剣十郎も構え直し、二人が同時に動く。
「「飛燕!」」
二人の声が重なった。その直後にドンッという音が鳴り響く。二人の放った飛燕がぶつかり合った音だ。
飛燕を放った後、二人は、すぐに動いていた。
二人の距離は一瞬で詰まり、斬り結ぶ。互いに一歩も引かず両者の力量は、同等となっていた。
「本当に強くなったな。賢也よ」
「これも全ては師匠のおかげです」
鍔迫り合いをしながら、口を交わす。
「でも、まだまだこれからですよ!」
賢也は、突然後ろに下がった。剣十郎は、体勢を崩す。その一瞬の隙を逃さず、賢也は前に出る。
「氷雨!」
剣十郎は2撃目までは防いだが、最後の3撃目の突きを左足に受けてしまった。だが、賢也は、剣十郎に当たった瞬間の感触に違和感を感じていた。
「まさか、私が攻撃を受ける事になるとはな」
そう言いながらも、剣十郎は涼しい顔をしている。
「攻撃は当たりましたけど、硬気功でダメージが0じゃないんですか?」
「分かったか」
ニヤリと笑みを浮かべながら、剣十郎は答えた。硬気功でガードされたとはいえ、3ヶ月前の初手合わせの時とは比較にならない程、賢也は強くなっていた。
このまま手合わせを続ければ、どちらも只では済みそうにないと感じ取った剣十郎は、構えを解く。
「これまで!」
「ふぅ」
賢也は、一息つく。剣十郎を倒す事は、出来なかったが、攻撃を当てることが出来たことに満足していた。
「賢也。お前に免許皆伝を授ける。これからも精進しなさい。もし、お前が良ければ、このままここに残り後を継いでくれないか?」
剣十郎は賢也を後継者にと考えていた。
「ありがとうございます。光栄です。でも、後は継げません。帰って家族を護らないといけないので。本当にすみません」
「そうか。そうだとは思っていたが。仕方ない。まあ、今日はもう遅いから、帰るのは明日にして、ゆっくりしていきなさい」
残念そうな剣十郎を見て、本当に申し訳ないと頭を下げた。
帰り仕度を済ませた賢也は、これまで世話になった道場の掃除をしていた。剣十郎に何か出来ないかと考える。
「うーん。師匠に何か出来るかなぁ。一番いいのは後継者になることなんだろうけど。代わりの後継者を探すといってもなぁ。誰も知り合いなんていないしなぁ。そうだ。剣だ。あの試作品のダマスカス鋼の剣を師匠にもらって貰おう」
修行の間に剣が完成し、梶から送られて来たのだ。その時、試作品で作っていたダマスカス鋼の剣も一緒に送られて来ていた。これを記念に渡そう。
掃除が終わると礼をして部屋に戻った。
次の日、朝起きると既に剣十郎は起きていた。
「おはようございます。師匠、お世話になったお礼というのもあれなんですが、この剣を貰っていただけませんか?」
「ほう。これは前に持って来た剣だな。見事な波紋だ。良いのか?」
「はい。是非受け取って下さい」
「では、遠慮なく貰っておこう」
剣十郎が剣を手にし、別れを告げようとした時、二人は異様な気配を感じ取る。
「何だ?この禍々しい気は?このような気は感じた事がないぞ」
「まさか。怪物なのか?」
その気配はだんだんと近付いてくる。窓から外の様子を伺ってみると、黒い獣のようなものが、山を登っていくのが見えた。どう見ても普通の獣ではない。ライセンスのカメラ機能で画像を撮る。
画像を検索にかけると、ヒットした。Bランクの怪物である。
特徴は、力が異様に強く、立ち上がると2mを超す身長らしい。
それは、道場の方には来ないようだが、どんどん山奥に入っていく。放っておくわけにもいかない。師匠であれば、問題無いかもしれないが、他の人や動物達が襲われる可能性も十分にある。
「師匠、行ってきます。あれが今問題になっている怪物です。あれから人々を護るために、師匠の元で修行したんですから。これが、ハンターとなった私の義務です」
そう言うと、賢也は、剣を持ち外に出ていった。
怪物はだいぶ山奥の方に入っていた。暫く進むと怪物の姿を捉えた。4足歩行で進んでいるが、その時点でも2m位ありそうな巨体だった。
(デカいな)
怪物に気付かれないように近付いていく。ふと怪物の足が止まる。目の前には、猪がいた。怪物に睨まれた猪は、身動きする事も出来ず、捕まれ食べられてしまった。猪を食べた怪物は、体が更に大きくなった。
食べれば食べるほど大きくなるらしい。
(早く討伐しないとまずいな)
賢也と怪物の距離が10m程になった。まだ怪物は賢也に気づいていないようだ。木々が邪魔で飛燕は使えない。近付いて斬るしかない。木の影に隠れながら更に距離を詰める。5m程になると、怪物がついに賢也に気付き、振り返った。その瞬間に賢也は怪物の前に飛び込むと前足目掛けて、剣を振る。怪物は、足を上げて賢也の攻撃を躱した。
「ガァァッ!」
賢也に対し、威嚇を上げてきた。
「巨体のくせに動きが速いじゃないか!」
賢也は、躱されたことに驚いたが、すぐに体勢を整えた。
怪物が立ち上がる。さっきの猪を食べて大きくなったため、立ち上がると4mは超えていた。
賢也の倍以上である。怪物が腕を高く振り上げ、叩きつけてきた。賢也はこれを躱す。背後の木にぶつかった。
「木が邪魔で、戦いにくいな」
怪物は、賢也に向かって反対の腕を叩きつける。賢也はしゃがんで躱した。怪物の腕が木に当たる。太い幹が折れて倒れる。賢也はすぐにその木から離れた。
「当たったら、即死だな」
怪物はゆっくりと賢也の方に振り向くと前足を降ろし、四つん這いになって、木を薙ぎ倒しながら、突進してきた。賢也はギリギリまでひきつけ躱すと斬りつけるが、突進の衝撃で、賢也は吹き飛ばされてしまった。
すぐに起き上がり怪物を見る。賢也の攻撃は、怪物の右肩を浅く斬っているだけで、大したダメージは無さそうだった。再び、怪物は賢也に向かって突進してきた。賢也は、地面を強く蹴ると、高くジャンプした。怪物が通り過ぎ止まる。
その瞬間を狙って、空中で剣を振る。
「飛燕!」
賢也の放った飛燕が怪物の左前足に命中し、ドサッと足が地面に落ちた。
「ギャアー!」
怪物の叫び声が上がる。
「これで突進攻撃は出来ないだろう」
着地すると怪物に突っ込んでいく。左前足を斬られ、怒っていた怪物は、3本の足で突進してきた。
「3本でも走れるのか、くそっ、避けきれない」
怪物に突進していたため、賢也は、回避が間に合わず突進をまともに受けて、吹き飛ばされる。
「ぐうっ」
賢也はうめき声を上げた。咄嗟に硬気功を使ってガードしたが、吹き飛ばされた衝撃までは和らげることが出来ず、動けない。
(まずい。殺られる!)
怪物は賢也に向かって歩いて来ている。怪物の間合いまであと2m位の所で立ち止まった。
(なんだ?)
賢也は不思議に思った。賢也を倒す絶好のチャンスなのに、近付いて来ない。怪物は賢也の方を見ていなかった。賢也は怪物の視線の先を見てみる。1頭の鹿がいた。その鹿は、こちらに気付き後ろを向いて逃げようとしていたが、
「ガァァァッ!」
怪物の大きな雄叫びに驚き、立ち竦んでしまった。その鹿に向かって、怪物が走り出す。
「さっきの猪みたいに食べる気か!」
鹿を救おうと動こうとするが、まだ動けない。その間に怪物は鹿の元にたどり着いてしまった。
「くそっ。早く動け!」
漸く、体の痺れが取れ、怪物に向かって行くが、間に合わなかった。怪物は鹿を丸飲みにしてししまった。
そして、猪の時と同じように体が大きくなる。しかも、斬り落とされた左前足が再生していた。
「マジかよ…」
どうやら、この怪物は食べる事で体が大きくなるだけでなく、傷も癒す能力を持っているみたいだ。
(頭を斬り落とすしかないな)
既に四つん這いで4m程の大きさになっている。自分の身長の倍以上ある怪物の頭をどうやって斬り落とすか考えていると、再び怪物は賢也に向かって突進してきた。考えている暇はない。大きくなったのに動きが遅くなっておらず、むしろ、前より速い。ひとまず距離を取り突進を躱す。
突進を躱された怪物は立ち上がり振り向いていた。賢也も怪物に向け身構える。
「良し。行くぞ!」
賢也は、体勢を低くし怪物に向かって走り出す。怪物は、賢也を待ち構え、右前足を振りかぶっている。
賢也が怪物の間合いに入ると同時に、怪物が凪ぎ払って来た。賢也は、その右前足を狙って斬り上げる。賢也の剣と怪物の右前足がぶつかる。賢也はその衝撃で後ろに吹き飛んでしまう。だが、それと同時に怪物の右前足も宙を舞っていた。
「やっぱりパワーが半端ないな。足を斬り落として無かったら、ミンチになってただろうな」
怪物は、無くなった自分の前足を見ている。そして、怒り狂ったように、叫びを上げた。
「グガァァァ!!!」
再び賢也に向かって、突進し始める。
「もうその攻撃は飽きたよ。これでどうだ」
賢也は剣を構え、
「飛燕!」
賢也の放った飛燕で左前足も斬られ、怪物はバランスを崩し倒れる。その隙を逃さないよう、一気に怪物の側に駆け寄り、剣を振り上げた。
「これで終わりだぁ!」
剣を振り下ろす。怪物の頭を斬り落とし、怪物は倒れた。
「免許皆伝と同時に怪物退治とはな。良し。今回はしっかり戦えた。前みたいにまぐれじゃないぞ」
賢也は、怪物と戦えた自分に満足していた。
(師匠に感謝だな。本当に)
「とりあえず、協会に連絡だな」
賢也は、ライセンスの機能を使い、怪物の討伐を連絡した。
そして、怪物の死体はそのままにし、剣十郎に討伐の報告をするために戻った。
剣十郎の元に着いた賢也は、剣十郎に報告をした。
「師匠、あの怪物は倒しました。今度、ハンター協会の者が、死体を引き取りに来ると思います」
「賢也、無事だったか、そうか。勝ったのだな。ご苦労だった」
「はい。では、これで本当に帰ります。これまでありがとうございました!」
「あぁ、元気でな」
「師匠もお元気で」
剣十郎に別れを言うと、家に帰っていった。
翌日、ハンター協会の調査員が剣十郎の元にやって来た。
「ハンター協会の者です。龍崎さんの討伐した怪物の死体を引き取りに来ました」
「あぁ。ご苦労様。賢也の討伐した怪物の死体はもっと奥に入った所にあるから、案内しよう」
剣十郎は、調査員を死体のあった場所に案内した。
「死体はこの奥だ」
調査員は、周囲の惨状を見て驚いていた。
(どんな戦いをしたら、こんな風になるんだ?)
「凄いですねぇ」
「あぁ、私もそう思う。おや?何処に行った?」
死体のあったはずの場所には、何も無かった。
「どうしました?」
「おかしい。死体が消えている」
「えっ?本当ですか!」
「あぁ、私は賢也が帰っていった後に、死体を見に来たから分かる。ここにあったのに無くなっている。どういう事だ?」
確かに、血の後は残っている。
「うーん。どういう事なんでしょうか。とりあえず、何も無いのでどうしようもないですね。引き上げます」
「すまない。回収していれば良かったか」
剣十郎は、調査員に謝るとその場を立ち去った。
その頃、賢也は家に帰りついていた。
「ただいま!」
「パパ!お帰りなさい!」
子供たちが飛び付いてくる。そのまま抱き抱えると、リビングに向かう。
「お帰り」
綾乃が賢也を出迎える。
「どう?強くなった?」
「任せろ!何があっても護ってみせるよ」
「頼むわよ」
久しぶりに家族の元に帰り、休息を楽しんだ賢也だった。
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