自称:学園一の名探偵のお叱りを受けた退魔師は式神少女の救出に向かう feat 藤原千方
一番ヶ瀬環は学園一の名探偵である(自称)。しかし、ぼさぼさのロングヘア―と着崩した制服の姿を見ていると決してそうは見えない。しかし彼女には特殊能力があった。実は環はネコと会話する能力を持っていたのだ。中津宮地域に点在する地域猫ネットワークから情報を仕入れ、シャーロック・ホームズシリーズ全巻を通読して鍛え上げた灰色の脳細胞で事件の真相を看破する――彼女はそう信じていた。
一番ヶ瀬環は楠木葉名の依頼を受け、すぐさま猫笛を吹き地域猫を招集し、買い出しに行った古河遊聖の足取り調査を行った。
数分後!一番ヶ瀬環の灰色の脳細胞の繊細な演算が、古河遊聖がサボってることを看破したのだ! すぐさま環は遊聖に買い出しに向かうことを促すため遊聖の居場所に向かったのだ!
――中津宮学園、校門付近。
「篝の奴、帰りが遅いな……もしかしてジャヌコで道草を食っているのか?」
古河遊聖はお使いにやった篝の帰りが遅いのを気にしていた。篝は式神とはいえ多感なお年頃である。平凡な地方都市である中津宮であってもジャヌコやヌタバなど刺激的な店が多い。篝はそれに引っかかってしまったのではないか? 遊聖はそう考えていた。
「あっ! いたいた! 古河遊聖くん!」
するとぬるっと、自称:学園一の名探偵こと、一番ヶ瀬環が遊聖に向かって駆け寄ってきた。
「一番ヶ瀬パイセン!? 」
環が自分に向かって駆け寄ってくる姿を見て、遊聖はびっくりした。中津宮学園でも屈指の個性派生徒が自分に向かって走ってくる姿を見てただ事ではないと思ったからだ。
「もう、こんなところで油を売っていてどうしたの~?葉名ちゃんが心配していたよ~」
環はそのまま遊聖のサボりを嗜めた。遊聖はバツの悪そうな顔をした。
「い、いや、それはその……実はのっぴきならない用事がありましてね……決してサボりではないんですよ」
遊聖はとりあえずテンプレ的な言い訳を環に返した。
「お料理クラブの今回の料理はマカロニグラタンだって聞いたよ~、美味しいマカロニグラタンを食べたいんだったら材料から厳選しないとダメじゃない~」
環の言葉に遊聖は返す言葉もなかった。なぜなら実際に自分もそう感じていたからだ。
「今後、気をつけますんで許してください……一番ヶ瀬パイセンの分のマカロニグラタンも用意しますんで、なにとぞご慈悲を……」
「ぷぷっ……遊聖くん、何その態度~」
遊聖の態度に環は思わず噴き出した。遊聖も思わずつられ笑いをしそうになる。
しかしその笑顔は長く訪れはしなかった。突如、遊聖の周りの空間がセピア色になり時間が停止したような状態になったからだ。当然、一番ヶ瀬環の動きも停止している。
「結界を張られた……これは高度な術者の仕業か?」
退魔師である古河遊聖に気取られずに結界を構築するとはただならぬ術者に相違ない。
「どうした……葛葉姫のお守り役よ、結界を張られたのがそんなに珍しいのか?」
遊聖がふと聞こえた声に視線を向けると、そこに藤原千方の姿があった。
「藤原千方……何しに俺の前に現れた? 答えろ」
緊迫した空気が結界の中に流れる。
「まぁ、焦るなよ……今日はお前にご注進しようと思ってな……実は俺の手足たる四鬼がお前の式神が土蜘蛛とか言う妖魔に廃工場に拉致されて尋問されてるのを見たんだ」
「……お前、篝の場所を知っているのか?」
「言ったはずだろ……今日はお前にご注進しに来たってな。それともこの藤原千方を信じられないのか?」
「何が目的だ?」
「当ててみろ……伊勢志摩旅行をプレゼントしてやる」
「お前の考えそうなことなど分かっている……共倒れが狙いか」
「ほう、面白い考えだな……まぁ、今回の俺は善意で動いているんだがな」
そう嘯くと千方は破顔した。
「お前の言うことは信じられるかよ……まぁ篝の行方を教えてくれてありがとうな」
「他人の好意は素直に受け取ったほうが人生は得だぞ……」
そう言うと藤原千方は姿を消した。それと同時にセピア色の世界が色を取り戻していった。
「あれ、遊聖くん……どうしたの? 心なしか数分間の記憶が飛んだような気がするけど……」
一番ヶ瀬環がいつもと変わらない表情で遊聖を見ていた。完全に結界が解かれたのだ。
「一番ヶ瀬パイセン……世の中あまり気にしないことがいいこともありますよ……じゃあ、マカロニグラタンの買い出しに行ってきますんでよろしく……味に期待してくださいね」
そう言って遊聖は急いで篝が囚われている場所に向かって駆けだした。
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