第37話 ご指名です

「大変ですわ」

「モーラどうしたの」

「そうだよ。そんなに慌てて」


「王女から秘密裏に来るように、お呼びが掛かりました」

「慌てる事はないだろう。モーラは貴族なんだし、お偉い人と付き合いの経験もあるはずだ」

「違うのですわ。ヒロをご指名です」


「えっ、俺? 断れないよな。でも、ご褒美がないとやる気が出ない」

「では、わたくしの頼みという事に致しますわ」

「やった、エッチ券1枚ゲット」


「その代わり、粗相のないようお願いします」

「ああ、分かっているって」


 俺は黒塗りの馬車に乗せられ、知らない場所に連れて来られた。

 馬車が停まったので降りると立派な邸宅だった。

 扉の前には胸当てを着けて大剣を背中に背負った女戦士が待ち構えている。


「ついて来い」


 偉そうにあごをしゃくって方向を指示された。

 少しムカッときたので無言で後を付いていく最中に、魔力感知と幻影魔法で女戦士の裸を想像する。

 ボディビルダーのような体だ。

 筋肉が美しい。

 魔力感知で体のシルエットを割り出しているから正確なはずだ。

 意外に巨乳だな。


 おっと、女戦士が扉の前で止まった。

 女戦士がノックして声を掛ける。


「プリシラ様、ヒロをお連れいたしました」

「通して頂戴」

「かしこまりました」


 扉を開け中に入る。

 部屋の中には丸いこぢんまりしたテーブルが置かれていて椅子が3脚置かれていた。

 そのうちの一つには王女と思われる女性が座っている。


「ヒロです。お呼びだそうで」

「こら、無礼者。王女様からの呼びかけを待たんか」

「レッタ良いのです。呼びつけたのは私ですから。プリシラと言います。第3王女です。今回お呼びしたのはある人物を暗殺してほしいのです」


「断れないのでしょうね」

「そんなことはないですよ。ですが、ルドウィン領は改易になるかと」

「それじゃ断れませんね」


「誤解のないように言っておきますと、ルドウィン領の改易は財政破綻です」

「ちっ、モーラの奴。もっと頼ってくれてもいいのに。ちなみに、何で俺なんですか」

「学園で魔法戦無敗だそうですね。極悪呪術師ジャガルを始末したのもあなたですよね」

「ああ、あの呪術師。有名な奴だったんですか」


「金貨1千枚の賞金首です」

「あれっ、賞金貰ってない」

「賞金ならモーラヒルドが申請しました」


 くそう、それで俺に王女からお呼びが掛かったのか。

 モーラの奴、下手を打ったな。


「受けて頂けるのでしたら、あなたに褒美を与えてもよいかと思っています。なんでも言って下さい」

「じゃ、おっぱいをもみもみと」

「そこに直れ、成敗してくれる」


「何でもって言ったじゃないか」

「レッタ、おやめなさい。ヒロ、あなたの不敬罪を許すのを褒美に致します」

「分かりました。褒美はそれでいいです」


 まあ、褒美は要らないさ。

 ルドウィン領の税金をなんとかしてくれるよう、モーラと話が付いているんだろうな。

 それだけで褒美は十分さ。

 モーラからも褒美は貰ったしな。


 資料を渡され、俺は読み始めた。

 ターゲットはロナル伯爵。

 資料によると麻薬事件の首謀者のうちの一人らしい。

 ただ、確たる証拠はないと。

 状況証拠だけだ。


 俺は転移でロナル領まで飛んだ。

 詳細な地図もあるのでロナル伯爵の邸宅まで迷う事はなかった。


 さて、鉄柵を越える方法がないな。

 ロープを掛けて隠蔽魔法で忍び込むか。

 だが、少し登りづらそうだ。


 力技の方がいいな。

 秘孔魔法・強化点穴。

 俺は鉄柵を無理やり捻じ曲げ中に入った。


 隠蔽魔法を掛けて邸内をうろつく。

 執務室の扉にそよ風の錐で穴を開けて中を覗いたがいない。

 いったいどこにいるんだ。


 仕方ないので待機室のメイドを見張る。

 メイドが何か用事を言いつけられたらその後をついて行こうと思う。


「あの部屋に連れ込まれた女は二度と出られないんだって」

「そうなの気をつけないと」


 メイドの言うあの部屋というのが怪しいな。

 待機室には紐に繋がれて呼び鈴が幾つもある。

 このうちの一つがあの部屋に繋がっているはずだ。

 どれだろう。

 行ってない部屋は地下室だけだな。

 俺は気づかれないようにこそっと地下室の呼び鈴を鳴らした。


「ひっ、あの部屋だわ」

「私はごめんよ」

「メイド長、お願いします」


「仕方ないですね。噂なんて大抵は真実でないものです」


 メイド長に地下室に案内してもらう。

 地下室の入口は書庫にあった。

 ある本を倒すと棚がスライドして入口が現れる。

 そんな仕組みになっていたのか。

 王女の密偵も大した事がないな。

 このぐらい見抜けよと言いたい。


 地下室の扉の前にメイド長が立つ。


「お呼びでしょうか」


 しばらくたって返答があった。


「呼んでないぞ」


 伯爵と思わしき人物は、縛られて猿ぐつわした女性とセックスしていた。

 縛られた女性の縄の食い込みまで、魔力感知で分かるから間違いないはずだ。

 他にも男がいたが、伯爵が見て興奮する性癖じゃなければ、セックスしているのが伯爵だろう。


 俺はドアの隙間からお触りの手を侵入させ、伯爵の心臓を金縛りにした。

 伯爵が倒れたようだ。


「伯爵様、しっかり」

「まずい卒中だ」

「治癒師を呼ぶんだ」


 ドアの向こうは大騒ぎになった。

 うむ、これでミッションコンプリートだな。


 急いで侵入した鉄柵の所に戻り、曲げた鉄柵を元に戻して終わりだ。

 終わりだが、確実を期すため、伯爵死んだか確かめる事にした。


 翌日。

 各種ポーションを持って伯爵邸を訪ねた。


「伯爵様に買い取ってもらいたいマナ・ポーションがあるんですが」

「伯爵様は忙しい。また来るように」


 これじゃ死んだか分からないな。


「治癒のポーションも都合つきますよ」

「そうか。帰った、帰った」


「眉唾ものですが、死者蘇生のポーションもあります」

「なに、本当か。ちょっと待て」


 ビンゴ。

 少し待たされて俺は治癒・ポーションを死者蘇生と偽って売りつけた。

 伯爵は死んだと見て間違いないだろう。


 後は王女の密偵に任せておけばいい。

 さあ、モーラとお楽しみだ。

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