第36話 君のハートを金縛り

 今日はルドウィン領で熊退治だ。

 オーガベアという種類らしい。


 餌となるモンスターの数が激減して人里に降りて来るようになったらしい。

 地元の冒険者に任せてもいいのだが、最近討伐をしてなかったので自発的にやる事にした。


「オーガベアの巣穴はここで間違いないんだな」


 案内役の地元の猟師に聞いた。


「へい」


 俺の目の前には洞窟が穴を開けていた。


「じゃ、行って来る。点火イグニッション


 点火の魔法を灯りに洞窟に入る。

 洞窟は獣臭い臭いが充満していた。


 あれだな。

 毛皮の塊が見える。

 俺に勘づいたのだろう。

 オーガベアは立ち上がり臨戦態勢を取った。

 オーガベアは4メートルほどの巨体で頭には二本の角。

 毛皮は血塗られた様に赤い。

 目が灯りを反射して赤光を放った。


 お触り魔法で秘孔魔法・金縛り拳を発動。

 オーガベアーは一声吠えると呪縛を解いた。


 そよ風をナイフの形にして飛ばす。

 ナイフは毛皮に阻まれ筋を付ける事無く弾かれた。

 秘孔魔法・滅魔点穴を突く。

 オーガベアの魔力が徐々に減っていくのが魔力感知に感じ取られた。


 オーガベアは最後の力を振り絞り腕を振りかぶった。

 やばい死ぬかも。


 早く魔力よ、無くなれ。

 思考加速も掛けていたので、物凄くスローモーションになった。


 魔力感知は前より数段磨かれている。

 俺にはオーガベアの心臓を動かしてる魔力の流れがはっきりと分かった。

 あれを止めるんだ。


 秘孔魔法・金縛り拳、ハートストップ。

 オーガベアの心臓が止まる。

 オーガベアは攻撃を止めて胸をかきむしった。


 オーガベアが大音響で吠える。

 洞窟に吠え声が反響した。


 心臓の金縛りは解けない。

 魔力が無くなりかけていると金縛りも解けないようだ。

 よい発見をした。


 オーガベアが力なく崩れ落ちた。


「勝ったぞ。俺の勝ちだ」


 洞窟を出ると心配そうな顔で案内役が俺を見つめた。


「心配は要らない。倒したぞ」

「それでは運搬を手配しやす」


 オーガベアは金貨30枚にもなった。

 意外に高いんだな。


「ねぇねぇ、お兄さん。オーガベアを討伐したって本当?」


 討伐の代金を受け取りに来た冒険者ギルドで、艶っぽいお姉さんにそう言われた。


「ああ、事実だ」

「今晩付き合わない?」

魔力感知マナセンサー思考加速オウトアクセル幻影イリュージョン


 俺は透視眼鏡魔法を発動した。


「ちょっと何よ?」


 お姉さんは気色ばんだ。


「ふっ、Cランクだな。アイナ達とは比べるべくもない」

「なんだって」

「隠しても分かる。少し垂れ気味の乳房に、少したるんだお腹。ぴちぴちの美少女とは比べ物にならない」

「何よ。ちきしょう」


 お姉さんは怒って去っていった。

 受付嬢を透視眼鏡魔法で見る。

 巨乳なのにウエストが細くたるんだ所がない。

 冒険者に貢がせる事を至上としているだけあって、武器の手入れは怠らないって所か。


 受付に来た女冒険者を見る。

 美乳で筋肉質の体は美しい。

 やっぱり冒険者の体はこうでないと。

 さっきの艶っぽいお姉さんは討伐をそうとうさぼっているな。


「何よ」


 俺の視線に気づいた女冒険者が少し険のある口調で俺に問うた。


「いや、良い体だと思って」

「褒めてるの」

「ああ、強いんだろう」

「嬉しい事言ってくれのじゃないの」


「腹の傷も美しさを損なってない」

「何で知ってるのよ。あんたとパーティを組んだ事があったっけ」

「いや、見えるんだ」


「へぇ、達人だとでも言いたいの。これは一手ご教授を願わないと」

「秘孔魔法・金縛り拳」


「くそう、拘束魔法かい。参ったね。動けない降参だ」

「秘孔魔法・解除拳、秘孔魔法・強化点穴、秘孔魔法・流魔点穴。強化しておいてやった。一日ぐらい少し強くなれるはずだ」

「ありがと」


 女冒険者は去って行った。


「見てたわよ。Fランク魔法使いとは思えない実力ね。オーガベアを倒すぐらいだから納得だけどね」


 受付嬢がそう言った。


「君に口説かれるなら、しっぽり行くのも悪くない」

「あなた、女を見るとき裸にしているでしょ」

「なぜ分かった」

「顔に出ているわよ。この助平さん」


「これじゃ脈無しだな」

「ええ、好色爺いみたいな人とは付き合えないわ」

「振られたようだ」


 こんな事もあるさ。

 俺にはアイナとモーラが居るからいいんだ。

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