第10話 服を脱いで貰いたいんだけど、俺が一肌脱ぐ

「はぁ、困りましたわ」


 朝食が終わりティタイムになった時に、モーラさんがため息交じりにそう言った。


「どうしたんだ」

「お爺様殺害の証拠を押さえたのは良かったのですが、裏帳簿まで出てきてしまいました。使い込みが沢山あって支払いが迫っているものもあります」

「ぶっちゃけると、金が無いって事だな」

「ええ」


「一肌脱いでやるよ。本当はモーラさんに一肌脱いで貰いたいんだけど」

「ヒロ、またそんな事を言って。いい加減にしないと殴るわよ」


「軽い冗談だろう。目くじら立てるなよ」


「それで一肌とはどういう事をして下さるのでしょうか」

「マナ・ポーションを作る」


 マナ・ポーションは文字通り魔力を補給するポーションだ。

 魔力を売る行為に等しい。

 魔力は時間で際限なく増えていくが、それを売るという事は時間を、もっと大げさに言えば人生を売っているという事だ。


 俺には流魔呼吸法がある。

 この邸宅さえあれば軽い事だ。


「約束のソウル・ポーションをくれ。それと調合の魔導書だ」

「今、お持ちします」


 モーラさんは出て行き、しばらくしてメイドさんと一緒に戻ってきた。

 メイドさんは赤いポーション、魔導書、調合の材料、器材を持っている。


「じゃ遠慮なく」


 ソウル・ポーションを呷る。

 体に力がみなぎる気がした。


 魔導書を開くと調合魔法がインストールされた。


「よし、マナ・ポーションを作ろう。調合ミックス


 魔力を込めると赤色のポーションが出来上がった。

 おかしいな、10年分ぐらいの魔力は込めたのに。


 赤色が最下級のFポーションで、1年分の魔力。

 橙色がEポーションで、2年分の魔力。

 黄色がDポーションで、4年分の魔力。

 緑色がCポーションで、8年分の魔力。

 青色がBポーションで、16年分の魔力。

 藍色がAポーションで、32年分の魔力。

 紫色が最上級のSポーションで、64年分の魔力。

 こうなっている。


 俺がFランクなので赤しか作れないようだ。

 仕方ない。

 俺はFポーションを300本作った。


「感謝いたしますわ。一本が金貨3枚ですから、金貨900枚ですわね」

「感謝は言葉でなく体で表してくれたら大歓迎なんだが」

「ヒー、ロー。それ以上言ったら殴るから」

「ちょっと待て。その後に諦めるよと続けるつもりだった」

「じゃ、謝礼はなんで受け取るつもり。言ってみなさいよ」

「えーとそれはだな。この邸宅に自由に出入りできる権利で手を打とう」


 その場しのぎで言葉が出たが良い案じゃないか。


「そんなことでよろしいのですか」


「ああ、俺には物凄い価値だ」

「それだけですと申し訳ございませんので、別荘の方も自由に使えるよう手配しておきますわ」

「ありがたく使わせてもらうよ」


 鑑定石に手を置く。

 魔力、13年。階級F。余白0。

 覚えている魔法がそよ風ブリーズ呪いの藁人形カースドストロードール魔力感知マナセンサー調合ミックス


 だいぶ魔力が減ったな。

 まあいいさ、この屋敷にくれば幾らでも溜められる。


 俺は何の気なしに余っている材料から、魔石を手に取った。

 赤魔石だから最下級だな。


 Fランク魔石からEランク魔石にバージョンアップできればなぁ。

 そよ風の指で触ったぐらいではどうにもならない。

 まあ稼ぐのはポーションがあるからどうでも良いが。


 ポーション1本で金貨3枚か。

 金貨3枚だと切り詰めれば一般家庭が半年暮らしていける。

 大儲けだ。

 だが、一年分の魔力が詰まっていると考えたら安いのか。


 普通の人なら瞑想を利用したとして4ヶ月は掛かるだろう。

 この邸宅みたいに魔脈の上にない限りはな。


「眉間に皺寄せちゃって、エッチな事以外も真剣に考えるんだね」


 なぜ分かった。

 アイナはテレパスなのか。

 じゃ、裸のモーラさんを思い浮かべて。


「ギルティ」

「ちょっと待て。考えただけだろう。何で分かるんだよ」

「表情かな」

「そうですわね。わたくしにも分かります」


「ガーン、俺って読まれやすい人だったのか」


 超能力じゃなかったんだな。

 ポーカーフェイスなんて練習した事がないぞ。


「ふふふふっ」

「ほほほっ」


「何だよ笑って」

「今、無表情を作るのにはどうしたらいいのか考えたでしょ」

「そういうお顔をしてましたわ」


 もうやだ。

 考えるのやめやめ。

 助平心が表面に出たからと言って良いじゃないか。

 むっつりは辞めたんだ。

 あけっぴろげで行こう。

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