第5話 あの鐘の音を思い出せ

 反対していた地上のやつらが空に来れるのはおかしい。空のやつらが一人占めしてエネルギーを使うのはおかしい。空はどんどんと建物が増えていく。空を一人占めにするのはおかしい。かつて一つだった国は恐ろしいほどに二つに分かれた。中立派を殺す過激派がいるほどに。俺の昔の仲間だ、あの子ではない。


 地上に戻りたい空の人も、空に行きたい地上の人もいた。彼らはたいていが過激派によりなくなってしまう。それをお互いのせいにして、より憎しみを広げていった。過激派が全て悪いのか?いや、過激派が起こした事件をずっと恨み続けた俺たちも同じことだ。牢屋にいる仲間に会いに行き、何度も話し合った。何度も言い負かされた。彼らは正しいことをしたと、自分を強く信じきっていた。その強さに俺は勝つことができなかった。


 長い戦いの中、茜色の思い出は重なっていく。俺の手は染まっていく。何度も、何度も。そうして俺らが作ったこの国で、今度は孫たちの赤い目が、茜色の楽しい思い出をたくさん作っていくことを願ってやまない。


 ああ鐘の音が鳴る、響く。誰かの結婚式だろうか、お別れの鐘だろうか、この空の果てでは地の音は聞こえない。空の国の音が微かに聞こえる。出会いにも別れにも鳴るこの鐘は、地上のあの鐘にあまりにも似ている。きっといつか壊されるんだろう、その日が来るまで刻み込もう。


 俺は空の国へ帰るため、バイクに乗りこむ。空を飛んでいるが、なんの感動もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

茜色した思い出へ 新吉 @bottiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説