第48話 母と子 受け継がれる願い

 小谷周平が、キテンの頭に手を置き異能を使用すると、辺りは眩い光に包まれた。


その光の中には、黄貂キテン似た大きな獣と寄り添うように小さな獣の姿があった。


「ねぇ、母様」


「なぁに、坊や」


「母様の身体はなんで白と黒が混じってるの?」


小さき獣は自らの母親である大きな獣は自分と違う色をしていることが不思議らしく、きょとんとした目で見つめながら聞いていた。


「これはね、人間さんの善の部分とそうじゃ無い部分をお母さんが引き受けてるから違うんだよ。」


母様はそう言って物悲しげな表情を浮かべる。


「じゃ、人間さんが悪いの?」


大きな獣は首を横に振り否定する。


「それは違うわ」


「善と悪は別々じゃないの、一緒に存在しているものなの。

だから、全て善もなければ全て悪もない。」


「お母さんは強くないから、その影響を両方強く受けて、自分では中々制御出来てないだけなのよ」


「じゃ、人間さんがいなくなれば、母様は僕と一緒の色になるの?」


「いいえ、ならないわ」


「もし、なれるとしたら、それは―――」


「お互いに清濁含めて受け入れ真に乗り越えたその時かしらね」


「だから、坊やは人を恨んではダメよ、一緒に乗り越えるように、

人を助け、導けるように、強い存在になってね」


「願っていれば、きっとで会えるから、自分一人では無くて、一緒に理想を自分の願いの一つとして、歩いてくれる人が」


「きっと、現れてくれるわ」


母様と呼ばれたその獣はそこまで言うと、静かに眠りについた。


きっと限界だったのだろう。

それから、大きな獣が動く事はなかった。


母様がなくなってから、どれくらいの月日が流れただろうか。

あれから、俺は人間を理解しようと努めてきた。


母様を奪い、それでも母様が恨むなと言った人間はそれ程までに守る価値が本当にあるのか。


幾星霜飽きること無く観察し時には交流を持った、彼らは確かに信じるに値するものもいる。


だが、それは極一部だ。


いや、極一部さえ怪し。


「化物が出たぞ」


「子供達を家の奥に隠せ」


「大事ここにいれば見つからないから」


「ここか、化物がいる洞窟は」

「早く殺してよ、こんなバケモノ」


人は残酷だ、自分達以外は殺しても心を痛めないらしい。


それでも、俺は信じたかったのだろう。

人間を?いや違う母様を信じたかったのだ。


人間を恨むなと言って、人間の憎悪によって殺された。

そんな、母様の報いに少しでもなればとそう思って耐え続けた。


「いつか出会えるから」


母様のその言葉だけを頼りに俺は信じ続けて来たのだ。


「母様が死んでから、数百年の月日を飽きること無く」


「見つかったんですか?その人は?」

気が付くとそこには俺の額に手をかざし、眩い光を放つ、少しさえない青年がいた。


彼は俺に問いかける。


見つかったかだと、自分でもどれ程の時間探したか分からない。


そんな存在が。


お前に聞かれるまでもない。


そう、聞かれるまでもないのだ。


「なぁ、名前を教えてくれるか」


「小谷周平です」


「違う、向こうにいる、俺を倒した少女の名だ」



「えっ、あぁ、彼女の名前は。」


そうか、少女の名前はみこと、霧崎みことか。


黄貂キテンは何処か嬉しそうに、みことの名前を繰り返しかみしめるように

口にしていた。



そして、その頃、討伐隊のベースキャンプでは―――


「おめぇさんよ、何泣いてるんだ」


「今更、年端も行かぬ少女を猟銃で殴ったのが響いて来たか」


「それもあるが、俺にも分からねぇ」


「ところで、そう言うお前さんもなんで泣いてるんだ?」


「えっ」

猟友会側の面々が互いに顔を見合いながら、お互いが涙している事を

不思議がりながら談笑している。


「そうか、これが黄貂キテンの思いか」


大槻はそう独り言のように漏らすと此処にいる全員に移動する旨を伝える。


時刻は深夜2時ちょうど。

あれから、25分近く経過していた。


大槻の号令により討伐隊は黄貂キテンのいる場所へ移動を始める。


だが、彼らは先ほどまでと、どこか雰囲気が違っていた。


深夜な事もあってか、山は静まり返っている。

小谷周平はそんな中で、懸命にキテンに異能を使い続けていた。


「周平君、涙が凄いですよ、大丈夫ですか」

先ほどまで、みことを見ていた木崎が話しかけてくる。


「大丈夫です。キテンの感情が流れ込んで来ているので、自然と涙が出てるだけなので」


小谷周平は自分のことは、そこそこにみことの心配をする。


「みことさんも大丈夫ですよ、少し気を失っているだけですので」

木崎はみことを木の側に寝かせ様子を伺いに来てくれたようで状況を簡単に説明していた。


「それより、木崎さんも目から涙が出てますよ」


木崎は少し恥ずかしそうにしながら涙を拭う。

どちらもキテンの感情が流れ込んで来てのことのようだ。


「あと、どれ位かかりそうですか?」

「憎悪の除去はほぼ終わりました。後は黄貂キテンの傷口を修復だけなので10分くらいですかね、作戦は成功間近っすね」


「そうか、意外と早かったな」

二人は声のする方を振り返り、身構える。

そこには、先ほど下山した大槻率いる黄貂キテン討伐隊が戻ってきいた。


「もう、そんなに時間経ってましたか?」


そういう、小谷周平に対して大槻は肯定の為、首を縦に振り木崎に警戒を解くように促す。


「そう警戒しないでくれ、我々は黄貂キテン討伐では無く共存の道を探す」


大槻はそう二人に告げ、周りに入る討伐隊の面々も異論は内容で頷きながらその場に立ちつくしている。


「どう言う風の吹き回しですか、上層部からの命令に対してあなたの一存で作戦を変えられる訳が無い」


木崎はまだ疑いを持っているようで、大槻に聞き返す。


確かに、ここにいる面々がもし、黄貂キテンとの共存を望んだとしても、そもそもの作戦を覆すには役不足だろう。


「その作戦自体が中止になったんだよ、これは警察上層部からの正式な通達だ」


大槻の言葉にようやく納得したようで、木崎は銃を降ろして警戒を解いた。


「何故だ、何故我と共存したいと言う」


お互い警戒を解いた所に、黄貂キテンが話しかけてくる、彼らのそして自分の変化を確かめる為の問いかけをしながら。


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