第49話  人と獣 分かり合える日

黄貂キテンは目の前にいる小谷周平に視線を向けながら、自らのら変化について問いかける。


「これは、お前が行ったことか」


黄貂キテンは小谷周平に問いかける、自らの変化と周りの変化について。


「僕は黄貂キテンさんの闇を払うことはなんとか成功しました

でも、周りの皆さんの変化はきっと」


そう、小谷周平はあくまでも黄貂キテンの人間に対する憎悪の除去のみに異能を使用していた。


それは、魂にこびり付いて中々取れなくなった汚れを落すように小谷周平の異能によって綺麗に取り除かれていることに変わりは無いが、討伐隊のへの変化にまで影響を与えたものでは無い。


「では、いったい何が起こっていた」


黄貂キテン本人も相当に不思議なのだろう、今の今まで争いあっていた勢力が一堂に返しながら、自分を慈しむように集まっていることが。


「これは私の私見ですが、恐らくは―――」


木崎は小谷周平の行った事と、自分への変化そして周りの状況を見て推論を立てたようで皆へ自分の立てた推論を話始める。


「周平君の異能によって徐々に黄貂キテンの過去の記憶と母親の思いが流れ込んで来ました、それは憎悪とはかけ離れた非常に強力な愛情で、憎悪が晴れるにしたがって愛情は強くなり、気づいた時には自然と涙が溢れていました」


大槻や猟友会のメンバーそして他のSAT隊のメンバーも一様に木崎の意見に同意する。


彼らもまた、木崎同様に非常に強く温かな愛情に包まれていたのだ。


「それほどまでに、この青年の異能が強力ということか」


黄貂キテンはその影響について小谷周平の異能の力だと思ったようで彼へ尊敬にも似た感情を抱きつつあった。


「いや、違いますよ黄貂キテン、これはあなたの力です」


木崎は黄貂キテンに対してそう返す。


この一連の出来事は自らが起こし、そして自らの愛情でここにいる皆の魂の方向を変えたのだと。


「そうか、傍迷惑な話だな、まったく」


黄貂キテンはそう言うと頭を深々と下げ、今まで憎んでいた人間に対して懺悔を述べる。


「この度は大変迷惑を掛けた、申し訳なかった」


黄貂キテンまるで伏せでもするかのように、姿勢を低くしてこの場にいる誰よりも低く頭を垂れながら謝罪の言葉を述べた。


「我々は良い。だが、黄貂キテンそこで寝ている少女へは目が覚めた後にしっかりと伝えてくれ。自らの贖罪とこれからについて」


大槻はそういうと木にもたれ掛かり意識を失っているみことへ目をやる」


「ああ、そうだな」


黄貂キテンは短く大槻の言葉に返答をしてみことへ視線を送る。

それは、初めて彼女と出会った時とは違い慈愛に満ちた視線であった。


「では、ひとまず和解も出来た事ですし、この場から帰るとしますか

みことさんもしっかり休ませたいですし。」


小谷周平の提案に一同同意を示し、木崎はみことを担ぎあげ黄貂キテンもその後ろをついて歩く。


「ここからならベースキャンプが近い、そこで休憩してくれ幸い簡易ベッドは設置済みだ」


大槻の申し出に木崎は感謝を述べて、SAT隊が使っているベースキャンプを使用する事にして大槻を先頭として歩いて行った。


一行がたどり着いたベースキャンプは、戦争映画なので見る野営キャンプのそれであり、まさに戦場最前線といった様相である。

         

霧崎みことは、そんなSAT隊のベースキャンプ内に設置してある一つのテントで簡易ベッドに横になっていた。


「うっぅぅん」


みことは軽く伸びをしながら目を覚まし変わっている目の前の風景に目をやる

そこには全体を深い緑いろに囲まれて、薄い毛布に包まっている状況を整理しようとした。


「ようやく起きたか」


その声は、ここ数時間で幾度と聞いたそれであった。


「あら、ずいぶんと可愛い体になったのね」


黄貂キテン


そこには、身体のサイズが小さくなった黄貂キテンがみことの頭の上らへんに座り話しかけて来ていた。


「此度は貴殿には色々と世話になった。多大な迷惑もかけてだな、その―――」


黄貂キテンは今までの威厳のようなものを完全に失っておりたどたどしくみことへ謝罪と感謝を述べようとしているようだ。


みことは黄貂キテンが言い切るまで静かに待っている様子でそのまま静かに聞いている。


「すまなかった、お前を傷つけてしまった、人間を食ってしまった。

取返しが付かない事をした。」


黄貂キテンはこの町で起こった事件について記憶はあるようでみことへの攻撃と町民への被害について謝罪をしているがそれだけでは足りないだろうと考えているようすであるが、償い方が分からないといった雰囲気である。


「恥ずかしい話だ、これほど長く生きて来ても人一人への謝罪も上手く出来ない、

我は小さき存在だな」


「そんなことないわ、あなたの気持ちは伝わる、でも―――」


そう、それだけではダメだろう。

今回、いやそれ以前から黄貂キテンは憎悪に充てられていたとは言え多くの人間へ被害を出してしまっていた。


「霧崎みこと、これはお前にしか頼めぬ。これ以上被害を出さないように、

この我を、黄貂キテンをこの場で亡き者にしてくれ、それが我に出来る

償いだ」


「ダメよそんなの、絶対に認めないから」


「死に逃げないで、償い方はそれだけじゃない、しっかりと殺めた人の分も生きてその分を生き続けて罪を返して行きましょう」


みことは非常に優しい表情で黄貂キテンへ告げる、死では無く生で償えとそれは

死より辛いだろうが、その道を進めとそう黄貂キテンを揶揄する。


「そうか、ありがとう。我はまだ生きて良いのだな贖罪を果たすために」


「えぇ、もちろんよ」


黄貂キテンはそう言うとベッドから降りみことへ頭を垂れる。

深々と彼女への最大限の経緯を表すように、それは長く頭を垂れ続けた。




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