第47話 気付かない思い

 みことは、SAT隊隊長の大槻の姿が見えなくなるまでその場から動かずに見送った。


そして、黄貂キテンの方を振り返り彼に語りかける。


「大人しく待っててくれるのね」


「それが、どうかしたか」


黄貂キテンは先程のやりとりを黙って見ていた、その場から一歩も動く事なく。


「いえ、でも攻撃出来れば出来たのに少し不思議に思っただけよ」


みことは、なにか引っかかるような感覚を覚えながらも話を進めていく。


「ねぇ、一つ良い?」


みことはよろめきそうになる身体でなんとか立ち上がり黄貂キテンに問いかける。


「なんだ」


「あなた、何か期待してない?私達に」


「なにを言っている?我がお前達に期待しているだと?何を持ってそう思う」


「さっきの大槻さんを見る目、とても優しそうで少し縋るように見えたから」


「それだけで、なぜそんなに言い切れる」


黄貂キテンの先ほどの大槻の言葉を聞いている姿は何か大槻に対して

訴えるように見守っている感じがしていた、みことはそう感じているのだろう。


ただ、黄貂キテン自身はそれに気付いていないのか、それとも隠しているのか

分からないが口では強気にみことへタンカを切る。


「そう、気付いてないのね、言葉だけじゃないわ」


「では、なんだ、言葉以外に我はお前たちに見せるものなど無い」


黄貂キテンはみことへ態度を変えず強気に返答をする。

自分は決して人間に期待してなどいないと言わんばかりに。


「だってあなた、さっきから泣いてるわよ」


黄貂キテンの目からはほんの少しではあるが確かに涙が零れ落ちていた。


「そんな訳なかろう、この我が涙するなど、あり得ん」


そう言うと、黄貂キテンは全身に蒼白い稲妻を纏い攻撃態勢に移る。


「なにそれ、照れ隠し?可愛いところあるわね」


みことは、さっきまでと打って変わって嬉しそうにしながら大鎌を構え黄貂キテンへと向き合う。


二人は一瞬で姿を消し、次の瞬間にはあちらこちらで火花が飛び交っている。


「どうやら、みことさんは黄貂キテンのスピードに追い付く方法を思いついたようですね」


木崎の言う通り、みことは黄貂キテンと初めて交戦した時には反応出来ていなかった動きに確かに順応し対応出来ている。


「どうなっている、先程とは大違いだな」


黄貂キテンも今のみことの動きを疑問に思ってみことに対して質問をした。


「気になるのかしら」


みことは、どこから湧いてくるのか分からない自信と先ほどまでには無かった余裕を取り戻し黄貂キテンへ攻撃を繰り出す。


が、その打撃は空を切り空振りに終わる。


「なぜ、刃で攻撃を行わない」


黄貂キテンは先ほどからの攻防で大鎌を振るっているものの、柄の部分でのみ攻撃を繰り出しており刃は向けていなかった。


「これ以上、貴方を傷つけないためよ」


また、みことの打撃は空を切る。


「なぜ、我に攻撃を当てない?」


「さぁ?あなたが早いんじゃない。」


三度目の攻撃えおするも当たらずこれも空振りに終わる。


「いや、お前は当てないように攻撃している」


「そんな事ないわ」


また、空振りの打撃を繰り出す。


「我の目は節穴では無い、一体おまえは何がしたい」


再びみことの大鎌の柄を使って打撃は空を切り空振りに終わる。


「いえ、節穴よ、意外とね」

みことはそう言うと、黄貂キテンの腹部の傍に立っていた、そして、掌底を黄貂キテンの腹部目掛けて軽く撫でるように手を置く。


「気持ちいい毛並みね。後でモフらせてね」


みことが冗談交じりにそう言った瞬間に凄まじい音と共にキテンの身体は宙を巻い二、三回転して地面に叩きつけられた。


それと、同時にみこともよろめき倒れそうになる。


「みことさん。大丈夫っすか。」

そこには、急いで駆けつけて来た心配そうな小谷周平の顔があった。


みことは、彼の顔を見ると少し安心した表情を浮かべて小谷周平に告げた。


「あとは、任せた」


その言葉に小谷周平は強く頷き、みこととハイタッチのようにお互いの手をパチンと合わせた。


そして、小谷周平は地面に伏している黄貂キテンのもとへ向かった。


近くで見ると更に大きく感じるキテンの身体を目の前にして、足が竦む思いをしながら周平は黄貂キテンのすぐそばまでやって来た。


「この、巨体とみことさんは戦っていたのか、凄いな相変わらず」


そう、独り言を言った後、周平はゆっくりと黄貂キテンの身体目掛けて手を伸ばした。


そして、小谷周平の手が黄貂キテンの真っ黒な頭の上へ載せられた。


「悪しき魂よ、滅び隷属せよ」


周平が聞き慣れない呪文めいた言葉を言った瞬間彼と黄貂キテンは眩い光に包まれた。


「木崎、ありがとう。私最後まで見てられないかも」


みことは、重度のダメージから意識を保つのもやっとと言った感じであり、珍しく木崎に弱音を吐く。


「大丈夫ですよ、私が見守ってますからみことさんは少し休んで下さい。」


木崎が言い切るのが先か否かのタイミングでみことは瞼を閉じ、意識を手放した。


そして、そこには小さな白い獣の姿があった。

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