第46話 救う覚悟

 黄貂キテンと奇襲に対してみことは咄嗟に討伐隊の前に出てキテンの攻撃を受け凌ぐ。


「待って、あなたの思っている事が誤解よ、だからこの人達を攻撃しないで。」


みことは、討伐隊へ攻撃を仕掛けた黄貂キテンを受け止めながら話しかける。


「討伐隊の皆さんも少し待って下さい。」


みことは、背中側に居る討伐隊へも語りかけ、黄貂キテンへの攻撃を行わないように促す。


みことに止められた黄貂キテンは一度その場から離れ全身に蒼白い稲光を輝かせながらこちらを伺っている。


みことが再び黄貂キテンへ語りかけようとした次の瞬間、頭に鈍い鈍痛が響いた。


「オメェ、何様だ、こんな化物庇いやがって」


服装を見るに猟友会のメンバーであろう、一人がみことに対して猟銃のストック側で頭側部目掛けて殴り付けたようだ。


みことは、先の黄貂キテンからのダメージもあってか少し飛ばされよろめきながら地面に倒れ込んだ。


「そうだ、そうだ、化物庇って俺達に命令して一体何様なんだ、オメェは」

討伐隊の方々から罵声が聞こえてくる。


それは、全てみことに対してのものであり、それは徐々にエスカレートしていく。


「やはり、醜いな、人間」


「全てここで食い殺し終わらせるとしよう」


黄貂キテンもまた、この場にある悪意に当てられてかより好戦的になっていた。


「お前こそここで終わりだ化物」

猟友会のメンバーの一人はそう叫び声を上げながら黄貂キテンに向かって猟銃から発砲した。


「ダメ待って、彼を、黄貂キテンを撃たないで。」


みことは、銃声を聞くやいなや重い体をなんとか動かして黄貂キテンと討伐隊の間に割り込み攻撃を辞めるように嘆願する。


「だから、オメェは何様だって言ってんだろ」

「邪魔だからすっこんでろ」


そう言う猟友会のまた別のメンバーから更に追い打ちをかけるようにみことは一撃をもらってしまう。


普段のみことならブチ切れて叩きのめしていただろうが今日は違った。


みことは、ゆっくり立ち上がり再度両者の間に立ち再び話しかけようとした瞬間。


バン。


一発の乾いた銃声が響いた。


「みことさん!」

周平がみことに駆け寄り、木崎は討伐隊に向かい銃を構える。


そう、あろうことか。


みことは討伐隊のメンバーから撃たれてしまったのだ。


「小谷君、みことさんを連れてこの場は引いて下さい、後ろは私がなんとかします」

そう言って木崎は討伐隊を睨み、この場からの一時撤退を進言する。


「いえ、まだよ。木崎」


みことは、薄っすら脇腹辺りから血を流しながら立ち上がり黄貂キテンを見つめる。


「大丈夫よ。私は」


黄貂キテンは何か期待しているのだろうか。

黙ってみことを見つめ返す。


「あなたは何があっても救うから、決して見放さないから安心して」


そう言って、みことはゆっくり黄貂キテンへと近づいていく。


「構わねえ、こいつらごと、全員殺っちまえ。」


猟友会の誰かが叫び声を上げ、SATと猟友会の混成討伐隊は一斉に銃を構える。


「一体何をしている!!お前達は」

今にも、一斉に射撃が行われそうな、その瞬間に一際大きな声が響いた。

その声の主である大槻は般若のような形相で近づいて来る。


「藤堂、貴様が居てなんて体たらくを晒している。

民間人への暴行、ましてや発砲など言語道断、許される行為では決してない。」


大槻はこの場にいるみこと達以外に対して強烈な怒りを覚え、凄まじい剣幕でまくし立てる。


「いや、こいつらが化物ん庇うから」


猟友会の中の一人がボソリと呟く。


自分達は悪くは無いのだと、悪いのは化物を庇った方だと。


「それが、人を、民間人を撃っていい理由になるか?断じてそんな事はない。」


大槻はどこからか見ていたかのように話を続ける。


「本来、撃って良い者も、撃たれて良い者も存在しない。だが、それでも撃たなければならない時がある。」


「それは、神に逆らってでも信じ抜くと決めた己の正義と愛おしい者を守り通そうする覚悟だけだ、決して悪意や憎悪、憎しみの類いではない。」


大槻はどこか自分に言い聞かせているように討伐隊へ向けて話した。


そして、少しの静寂が辺りを包み一瞬時が止まったかのように感じられたのも束間、大槻は次の命令を討伐隊に命じる。


「これより、我々は黄貂キテン討伐に向け一時の休息にはいる」


「これはキテン討伐の為に必要な休息である、各自速やかに下山しベースキャンプにて、30分の仮眠をとるように」


大槻の命令は予想だにしないものであった、目の前に目標がいるにも関わらずにだ。


「おかしいぜあんた、目の前に化物いるのに尻尾まいて帰るってか。」


「藤堂、命令違反者を拘束しろ」


藤堂と呼ばれた男はすぐさま、猟友会の一人を無理化し大槻に報告する。


「他に命令を聞けないものは?」

さすがに誰一人手を上げたりはしない。


「よろしい。では、速やかに下山」


大槻の号令に合わせて討伐隊は山を下っていく。

そして、一瞬ではあるが確かに大槻はみことへ目配せをしその場を去って行った。

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