第44話 黄貂の苦悩

 みことが次に目を覚ましたのは、ホテルのベッドの上であった。


「私は―――」


そう言うみことに対して木崎はすかさず白湯を出しながら、事の経緯と現状をみことへ伝える。


みことが倒れた後、木崎と大槻部隊長を含むSAT隊員はみことの身の安全を最優先し一度引き上げる方となった。


そして、黄貂キテンの力を再認識した彼らSAT隊は部隊と装備を再編成しキテン討伐へ動き出す計画のようだ。


「作戦開始時刻は?」


みことは、少しぼーっとする頭を無理やり働かせて状況を整理しようとする。


「それらについては私からご説明します」


そう言って大槻部隊長はみことの部屋に入室しながらけ話始めようとした。


「どうやって入ったの?呼んだ覚えは無いわよ」


そう言うみことに対して詫び入れる様子もなく大槻は事実だけを述べる。


「我々SAT隊は23:30時より各自持ち場へ展開、0:00よりキテン捜索及びこれの討伐作戦を実行、以後30分おきに定時連絡」


「本作戦完了は日の出前までの黄貂キテン討伐」


「霧崎さんのご活躍は伺っておりますので、是非とも我々にお力をお貸し頂ければと同じ公僕として」


完全な嫌味とみことの動き封じの為の言葉を残し大槻は部屋を後にしようとする。


「それと、この場に入って来たのはあなたの身を安じての事ですので、誤解なさらないで下さいね」


「そう、それはありがとう」


みことは、大槻が部屋を出て行くのを確認するとすぐさま木崎へ指示をだす。


現時刻は22:15分。


SAT隊の作戦開始まで時間が無い。


そんな中、みことはすぐさま、各方面へ電話をかける。

木崎もみこと同じく電話やメールでのやりとりをし情報の確認、精査を行っている。


各方面への確認、一縷の望みをかけての申し出そして捜索の協力を出し終わった頃、小谷周平へ部屋にある人物を連れて入って来た。


「みことさん。面会で神社の神主さんが―――」


「えぇ、彼ならOKよ、通して上げて」


みことは神主である宮路とホテル内の部屋で会話をする。


「霧崎さん、身体の御加減は如何ですか?」


「おかげ様でだいぶ回復しましたので、食事を軽く取った後私もすぐに現場へ向かいます」


みことは黄貂キテンを今すぐにでも捜索したい思いを押し殺してこの場に留まっているのがヒシヒシと伝わってくる。


「霧崎さん、私は霊獣黄貂キテンをどうか助けて欲しいと思っています。

彼は、何も悪くはない、生まれた時から彼は――—」


宮路はどこか物悲し気な表情を浮かべながら黄貂キテンへの思いを語ろうとしていた。


彼また、黄貂キテンに思いを寄せ彼の苦しみを理解している様子である。


「宮路さん。なぜ、あなたがそう思われるのですか?」


みことは率直に尋ねる。この惨状を目の当たりにすれば通常であれば討伐を選択し、それへの協力を嘆願するほうが自然であろうに。


「私は、彼の黄貂キテンの苦しみを一度だけ垣間見たことがありました。

まだ、幼い頃の話ですが、私が重度の高熱を出し非常に危険の状態になった際に黄貂キテンに一度会っているのです」


宮路はそう言うと、黄貂キテンとの出会いとそして彼の抱える苦しみについて

簡単にみこと達へ話をした。


それは、みことが感じ取ったものと同一であり、みことも先の戦闘で彼の苦悩を理解しそして、それから解放したいことを告げる。


「私がお礼を言うのもおかしいのですが。それでも、ありがとうございます」


「まだ、お礼は早いですよ。これからです。これからが正念場、きっと彼を黄貂キテンを今の苦しみから解放して見せます」


今の状況は決して有利ではなく、寧ろSATより早く黄貂キテンを見つけ闇を払う必要がある為、時間もない。


そんな中で同じ思いを抱く人が傍に居てくれた。


それだけで、みことは俄然やる気になっていた。


そして、部屋へはみこと達に用意された食事が次々と運び込まれてくる。


「さぁ、みんな時間ないわよ、さっさと食べて私たちも黄貂キテン捜索開始しましょう」


みことは改めて、この場にいる全員に向けて声をかける。


「ところで、みことさん。黄貂キテンの苦しみっていったい何なんですか?」


小谷周平はみことの言う、黄貂キテンの苦悩については当然分かっていない様子である。


あの場に居合わせた木崎も周平に同意するように、頷いている。


「そうね、それは彼が人の憎悪を強く感じ取ってしまう性質の異能を持っているから、そして恐らく、その異能は母親から受け継がれたものだと思うわ」


「そして、黄貂キテンの願いはその憎悪とは対局ある。

だから彼は苦しんでいるのよ、持って生まれた相反する二つの思いによってね」


みことは黄貂キテンと直接戦闘をおこなった事も相まって、感覚的ではあるものの、彼の願いと異能の本質に気づいている様子であった。


黄貂キテンはそもそも雷獣の異称であり、その力は雷や電気に由来するものであると伝承されています」


神主である宮路はみことに続いて黄貂キテンについての伝承を話始めた。


「そして、人間の身体は電気信号のやり取りによって動いている為、彼の力は

人体内で発生している電気信号をも感じ取り、そして感情さえも読み取っているのでは無いかと、そう我々は考えています」


宮路はひとしきり黄貂キテンの説明を終えるとあとは黙ってみこと達を見守っていた。


きっと彼女たちなら大丈夫だろうと、幾何の願いを込めて。


「じゃ、行きましょうか。黄貂キテンを救いに」


みことは食事を終えると、すぐさま立ち上がり号令をかける。


現在の時刻は23:45。もう討伐隊は展開されている。

そして、捜索もじきに始まるであろう。


状況は非常に不利ではあるものの士気は高く、みこと達は足早にホテルを出て行き

黄貂キテンの捜索を開始した。








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