第43話 人ならざる者の願い

 みことは黄貂キテンと呼ばれた巨大な狼を追って林に入って行った。

そこは、周囲より一層濃く木々が生い茂っており、日の光もあまり届かない為

薄暗い、とてもミステリアスな雰囲気の林であった。


こんな夕暮れ時には特に、それを強調させる。


「どこに行ったのかしら。」


みことは、林の中を走りながらぼそりと独り言をつぶやく。


「あの子、なんとなく怯えていたように見えたけど」


黄貂キテンの走り去っていったであろう方角へ向かってはいるものの

林は広く、山に面している為、いくら巨大であるとは言ってもそう簡単には見つけられるものでも無いだろう。


《なぜ、追ってくる人の子よ》


突如みことの頭の中に直接声が響いた。

それは、どこからとも無く聞こえ、とても威厳に満ちているような話方をしていた。


「あら、意外と優しいのね。

そっちから出てきてくれるなんて」


みことは、中々見つけられずにいたイライラを八つ当たり気味に黄貂キテンにぶつける。


「なぜと、問うている、答えよ」


それは、神と言うよりはどちらかと言えば、悪魔とかに近い、禍々しささえ感じられるほどに。


「良い。答えよう。」


「これは、そちらの。人間の憎悪そのものである」

黄貂キテンは自信が漆黒の毛並みを有している理由を全ては人間の責任であると述べる。


「そう。私たち人間が憎い?」


「あぁ、憎いなんてものでは無い、我の体もそうだがそれ以上に我が母を死に至らしめた、貴様ら人間の憎悪が憎くて堪らん。」


黄貂キテンはみことに対して自身の色と人に対しての感情を露わにする。


「だから、襲うの?それって楽しい?」


みことは、自分の身の丈の2倍はあろう黄貂キテンを前にしても変わらず冷静にそして、優しく返す。


「食事は必要であろう」


次の瞬間、黄貂キテンから稲光の様な青白い閃光が放たれたと同時にみことの身体は宙を舞近くの木に叩きつけられた。


「今ので死なぬか」


黄貂キテンは多少驚いた様子を伺わせる。


「えぇ、私もあなたと似たもの同士だから。」


みことは、いつものように構える大鎌を構えて臨戦態勢を取る。


ただし、木への激突の衝撃を完全には吸収出来ていなかったのか

頭からは血が流れている。

それは、黄貂キテンのスピードがみことを完全に上回っている事を物語る。


「そうか、では参るぞ」


黄貂キテンはそう言うと再び稲光を発し超スピードでみことに対して

攻撃行動を取る。


先程の攻撃から目では黄貂キテンの移動スピードを追いきれない事を知ったみことは黄貂キテンが行動する前に事前に透明な薄い膜のような物を生成し、黄貂キテンが接触した感触を頼りに戦闘を行おうとするのだが。


「っう。」


「その程度で、攻撃を防げると思うたか」


「いえ、思ってないわよ防げるなんて。」


みことは薄い膜を近接戦闘のみを行って来る、黄貂キテンへ付着させる事に成功した。


これは、膜を付着させる事により、黄貂キテンそのものの攻撃行動を鈍化させ相対的に黄貂キテンの攻撃行動を対処可能なレベルまでに落とすことを目的にしていた。


「多少、動き辛いか。だが、この程度問題ではなかろう」


「じゃ、試して見る?」


みことがそう言い、再び膜を生成し再び臨戦態勢を取ろうとした次の瞬間

何処からともなく銃声が鳴り響いた。


「みことさん、お怪我は」


そこには、大勢の警察が部隊を編成し武器を取り周りを取り囲んでいた。

みことを呼ぶ声の主はその集団の中に同行して来た木崎のそれであった。


「待って、SATがなんでここに」

みことは警察の特殊部隊がここにいる情報は入手していなかった為、驚きと

この状況が自分と黄貂キテンの関係にヒビを入れるのではないかと危惧していた。


「図ったな人の子よ」


「貴様となら、もしくはと思ったが」


「やはり、変わらぬか」


黄貂キテンはみことに対してどこか物悲し雰囲気を醸し出しながら、少し残念そうな声で呟いた。


「違う、待って黄貂キテン私はあなたを―――。》


みことが言い切る前にSATの部隊は再び発砲し黄貂キテンはその銃弾を掻い潜り

皆の前から姿を消した。


「木崎、説明して、どういう事?」


みことは一体、自分のいなかった隙に何が起きたのか把握出来ずにいた。


「それには及びません、霧崎みことさん。」


みことへ説明をしようと口を開きかけた木崎を押しのけ一人のSAT隊員が姿を表す。


「私はこの部隊の部隊長を務めている、大槻と言います。

今回の部隊遠征は偶然も重なりましたが、非公式ながら正式な命令にて行動しておりますので」


そうか、邪魔をするなと、そう言いたい訳か、みことは言葉には出さないものの

大槻と名乗った部隊長の言いたい事の真意を汲み取り、それに対して一瞥をくれよろよろとしながら歩き始めた。


「みことさんどこへ、まずは怪我の手当を」


「待ってられないわ、私は彼を―――」


みことは全て言い切る前に、意識が朦朧としその場に倒れ込んでしまう。


「みことさん、すぐに病院へ」


「いいえ、ホテルでいい」


みことは病院への搬送は断わった。


そして、自分を呼ぶ木崎の声、駆け寄るSAT隊員の姿、そして黄貂キテンの思いうをみことは薄れて行く意識の中でハッキリ反芻していた。


”大丈夫、きっとあなたの願いは叶えられる”


そこで、みことの意識は一度完全に途切れてしまった。

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