第42話 霊獣黄貂

 みことは、町長宅の使用人の方の言う神社へ足を延ばしていた。

神社は町の西の外れに位置しており、鬱蒼と生い茂る林の中に数百段はあろうかと言う階段を上った先に位置していた。


みことは、神社へ続き階段を登りながら今回の事件と都市伝説の関係性について

思考を巡らせていた。


―――今回の事件、もし都市伝説に登場する獣と犯行を行った者が同一だとすると

獣は有に数百年の時を生きて来た事になる。

そんな生き物が存在するだろうか、仮に異能を有していたとすればそれは寿命を延ばす異能や自己蘇生いわゆる不死鳥のような存在なのだろうか。


もし、それがここで霊獣と言われている黄貂キテンなる存在であるならば果たして打ち倒しても良いものか。

そもそも、町長の話では獣は子供を産んでいる。

それならば、都市伝説の獣は母親で、現在事件を起こしているのはその子供なのだろうか。


なら、祭られている霊獣黄貂キテンはそのどちらが祭られているのだろうか。

それに町長はあからさまに話したくない様子であったが、一体それは何なのだろうか―――


考えながら歩いていると、既に階段は上り切っており、目の前には厳かな神社が佇んでいた。


「お邪魔しまーす。」


みことは境内の横にある、神主の自宅?のような建物のチャイムを押したが誰も出てこなかった為、ドアを引いてみた。すると鍵は掛かっておらず申し訳なかったが時間もさして無い為、そっと中へ入って行った。


「これは、これは、珍しいお客さんだ。

勝手に入っては罰が当たりますよ」


みことの後ろからとても優しそうな声が聞こえて来た。


「あっ、すみません。チャイムは鳴らしたんですけど。」


「そうでしたか、失礼しました。少し林の方で作業をしていたもので」


「こちらこそ、勝手に入ってすみません」


みことは、珍しく平謝りをし声を掛けて来た男性に神主と話がしたい為この神社を訪れた事を告げた。


「そうでしたか。それは良かった。私が神主を務めております

宮路ミヤジと申します。」


みことは宮路へ再度挨拶と自分の正体を明かしホテルでの事件と都市伝説そして

霊獣黄貂キテンについて尋ねた。


「そうですか。ホテルではそんなことが。」


宮路は非常に残念そうにしながらホテルの惨状を確認しみことと向き合い話始める。


霊獣黄貂キテンと都市伝説の獣の子は同一であると考えてます。

この神社での伝承も同じ内容ですし。

そして、今回の事件の獣ですが、恐らくは同一の可能性が高いかと」


「そうですか。」

みことはどこか、影を落とすような表情を浮かべて返事をした。


「皆さんの話を聞いて、霊獣黄貂キテンはどちらかと言うと人の味方のような感覚があったんですが」


みことの言葉に対して神主である宮路が言葉を続ける。


「霧崎さんの感覚は正しいですよ。霊獣黄貂キテンは母親の知った人間の憎悪に抗い我々の味方でおろうと努め、全てを克服した後に再びこの地へ栄華をもたらすとされています。」


「そして、お祭りは霊獣黄貂キテンが人の負の感情を克服出来るように一緒に成って戦っているよ。と伝える為のものですから」


宮路神主の言葉に何故かみことは目頭が熱くなり泣きそうに成っていた。


「霧崎さんは、お優しいんですね。」


「そして、霊獣黄貂キテンと同様の力をお持ちのようだ。だから、彼と共鳴し感覚的に同調しているのでは無いでしょうか。」


宮路はみことに対して意味ありげに言葉を重ねてくる。


「どういう事ですか。」


霊獣黄貂キテンは霧崎さんの言う異能を持って生まれたものです。

そして、今も間違えなく生きていますよ。」


「伝承の獣が実在するんですか」


みことは確かに都市伝説の獣とホテル事件の犯人との関連性は疑っていた。

ただ、それは獣に成る異能を有した人間が都市伝説を行くようして行っている可能性を考えてであった。

その為、都市伝説を探って行けば犯人に行き当たるかもと考えての行動であった。


その為、伝承の獣が実在しているとはにわかには信じられなかった。


「えぇ、生きてますよ。だから、町長も話ずらかったんでしょうね。

これは、この町では町長と私のみ、いやその一家にのみ口伝される事ですから。」


「じゃ、霊獣黄貂キテンは一体何処...」


みことが言い切る前に外からは、狼の遠吠えにも似た何者かの叫びが聞こえてきた。


「話は後程ゆっくりと、彼が町に」


宮路はそう言うとみことを外へ促し、一緒に遠吠えの聞こえて来た方へ走り出して行った。


二人が遠吠えの聞こえて来た辺りまで来るとそこには血だらけになって倒れている一人の女性の姿があった。


「少し遅かったようですね。」


「すぐに救急車を」


宮路は救急車を至急手配するように携帯を取り出すがみことはこれを制止した


「木崎、二人目の被害者が出た。一人目と同じく重症の為

そちらへ転送する。」


みことは先程の遠吠えが聞こえた時から、木崎へ電話を繋ぎイヤホン越しに通話をして状況を説明していた。


「転送を至急、周平の異能で治療を」


みことは木崎に状況と対応を伝えるとすぐさま自身の異能を展開、二人の前には事前にホテルに仕込んでおいた転送のマーキングとなるぬいぐるみが被害者の女性と入れ替わるように出現した。


「間近で見ると凄まじい能力ですね」


神主はみことの異能を間近で見て驚愕の色を浮かべている。


「ホテルには警察も待機していますし、被害者は大丈夫でしょう。

私も一度...」


みこと最後まで言いかける途中で背中に悪寒が走る感覚がした。


慌てて振り向くとそこには、身の丈の倍はあるであろう体高の巨大な狼の様な獣がこちらを見つめ立っていた。


黄貂キテン!!」


宮路神主の言葉に獣は驚いたのか林の方へ走り去っていった。


そして、我に返ったみことは一目散に黄貂キテンと呼ばれた獣を追いかけて行った。



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