第40話 被害者
一同は会話を中断し、部屋を出て悲鳴の場所を探す。
「アキハさんは念のため、支配人へ報告と従業員への警戒を
お願いします。」
「料理長は申し訳ありませんが私たちと館内の捜索をお願いしても宜しいですか」
みことは咄嗟の最悪の事態を想定し、ここで一番館内に詳しいであろう料理長を案内役に抜擢し避難の意味も兼ねてアキハへ支配人への報告へ向かうようお願いをする。
「「わかりました」」
二人も事態の感じ取っているようで、素直にみことの指示に従った。
「状況が読めない為、木崎はアキハさんと共に支配人への報告へ
周平さんは私と一緒に館内捜索をお願いします」
みことは、二人にもお同じように支持を出し、すぐさま館内捜索を実施するように動き始める。
このホテルは、このリゾート地でも比較的大きく、館内もそれなりの広さがある。
その中で微かではあるものの悲鳴が聞こえて来たという事は場所は先ほど居た部屋からさほど離れてはいないと考えられた。
「恐らくはこのフロアーにある多目的ホールから聞こえて来た可能性が高いかと思います」
料理長は悲鳴が聞こえるには、それ内に声が反響するなどの状況が無いといくら同じフロアーであるとは言ってもそう簡単に室内にまで声が届く事は少ないとの見解を示しフロアーにある多目的ホールへみことと周平を誘導した。
一同は料理長の後に続き多目的ホールへ辿り着き、室内へ入ろうとした。
「二人とも私の後ろへ下がって下さい。何者かが室内に残っている可能性が
高いですから」
みこと、例の如く、黒いローブに身を包み大鎌を出現させて万が一の状況に備え
慎重に多目的ホールへの入り口のドアに手を掛ける。
みことが少し力を入れるとドアはスッと開いた。
そして、ゆっくりと慎重に入室するみことの視線の先には一人の人物が倒れていた。
「小川さん。大丈夫ですか」
倒れている人物を知っているのか名前を呼び料理長はすぐさま駆け寄る。
「ちょっと待って下さい。まだ安全が」
みことの制止も聞こえていないのか、料理長は小川と呼ばれた人物の傍へ駆け寄り
安否を確認する。
そして、小川と呼ばれた人物の状況を見た料理長は顔面蒼白となり、声に成らない声を絞り出し。
「小川さん―――腕が―――」
小川と呼ばれた人物の左腕は肘の少し上あたりから下が何者かによって食い千切られたかの様に無くなっており、出血もかなり酷かった。
「周平!!!!!」
みことは状況を瞬時に把握し小谷周平に声を掛ける。
小谷周平も状況を飲み込み、すぐさま小川と呼ばれた人物の元へ駆けつける。
「うっ・・・」
小谷周平は小川の無くなった左腕部分を直視してしまい、剥き出しとなった骨や食いちぎられたかのような腕の傷を見て一瞬たじろいだが、すぐさま自身の異能を使い治療に当たる。
「どう?」
みことは周辺の状況を確認した所、犯人は既に逃亡したようでここには潜んでいないようすであった為、少し警戒を解き、治療に当たる周平に近づき状況を尋ねる。
そこでは、小谷周平の手から眩い光が出ておりその先では徐々に傷口が塞がっていく小川の腕が見て取れた。
「止血と腕の傷口の修復は終わりました」
「襲われた時に、骨折もしているようなので今はそれを治してます」
「そう、左腕が完全に戻る事は?」
みことは治療の状況を確認すると失われた左腕について小谷周平に尋ねた。
「完全に欠損した部分は僕の異能では修復出来ない見たいです」
「そう、分かったわ」
小谷周平の異能も万能では無かった。
「大神料理長、少しお話をさせてもらっても宜しですか。」
「はい、だいぶ落ち着きましたので。」
「では、支配人を呼んでそれから状況の確認と被害者について
そして今後についての話し合いを」
みことは、いたって冷静に話を進めて、携帯を取り出し木崎へ連絡を入れ
現在の状況と危険はない旨を伝え責任者クラスの関係者を自室へ集めてもらうように
伝える。
「霧崎さん、初めてお目にかかります。
当ホテルで支配人を任されており、金森と申します。」
金森と名乗った支配人は、眼鏡に白髪交じりの髪、とても温和そうな表情をしていた。
身なりが整っており、この状況でも非常に冷静でいるように感じられる立ち居振る舞いである。
「私は霧崎みことです。では、今現在館内で起きた事の詳細をお話します」
みことは要点を絞り、金森支配人へ状況を説明。
被害者の傷の具合についても話を行った。
「まずは、一命をとりとめて下さった事、誠に有難うございます」
金森支配人はみことと実際に異能で治療をおこなった周平へ深々と頭を下げ謝辞を述べる。
「それで、これからですが。」
みことは、この後の対応について話を進めて行く。
「館内に犯人が残っている可能性は捨てきれませんが、恐らくは外へ逃亡した可能性が高いかと。」
多目的ホールはラニングマシンの設置してあるスペースの前がガラス張りに成っており外を眺めながら走る事が出来るようになっていたが、そこが内側から割られており、床には外へ向かって動物の爪痕のような傷が残っていたため、外へ逃亡したと判断していた。
「その為、館内は安全と考えこれより私の異能でシールドを張ります。
そして、私は外を捜索し犯人の手がかりを見つけるように対処する。」
みことの案はもし館内に犯人が残っている場合は非常に危険であるが
当然、外へ出る前に館内捜索を実施。
木崎と小谷周平はホテルに留まり状況の確認、連絡、万が一の対応を行う。
応援も呼びたいがこのリゾート地は紀伊半島の端に位置する為
来るにしても一日空けてしまう。
その間に、犯人がさらに犯行を重ねる可能性も捨てきれない為
一同はみことの案に同意した。
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