第34話 救済

 「霧崎みことさん、これで勝利だと思わない事ね。」


今にも絶命しそうな高輪真は意味深な言葉を投げかける。

なにか聞こうとした時に、小谷周平のインカムに所長の

声は聞こえて来た。


「小谷くん、そこにみこと君はいるか、

 話せる状態なら。」


小谷周平は異変を感じとり、インカムをみことに手渡す。

「ごめんなさい、私のインカム壊れたみたいで」


「大丈夫だ、それよりも大変な事態になった。」

所長が言うには都内のかなりの人数が暴徒化と都内全域で

暴れ出し、襲われた人間は魂が抜けたように倒れ始めていると。


まさか、これほどまでに強力な異能とは。

時限式に自分が敗北した場合あらかじめ決めた人物に

人を襲わせるようにしていたのだろう。


民間人同士だ、非常にたちが悪い。


みことと小谷周平は高輪真タカナワシンへ一瞥をくれ現場へ急行して行った。


かく言う高輪真タカナワシンはどこか、安らかな表情を浮かべ

二人を見ていた。


「霧崎みことさん。」

ふいに発せられた言葉にみことは足を止める」


「なに?」

急いでいる為、短く返事をみことは返した。


「流石の異能ね、感服したわ。でもね

 それでも、あなたは■■■■には...」

途中で小谷周平に急かされ最後まで上手く聞き取れなかったが

今は、都内で発生している事態の収拾が急務だ。と言い聞かせて

現場へ急いで向かって行った。 


 現場へは同行してくれていた自衛隊の車両に乗り込み状況を聞きながら二人は急いで向かっていた。


自衛隊からの情報では高輪真タカナワシンが倒れた直後から都内の不特定多数が暴徒化し民間人への襲撃などを行ってるらしく、民間人同士の為、武力行使は当然出来ず、対処に手間取っている状態であった。


また、暴徒と化している人数も恐らくは数万人単位と非常に多い為、何処を中心に制圧すべきかの判断も出来ていない現状である。


みことと小谷周平も自衛隊車両で移動しながら所長達と一緒にインカムを通して会話いしているが

良い作戦が思いつかない。


これは、高輪真タカナワシンが最後に残した異能の時限発動だろう。

その為、暴徒化している民間人の魂を浄化出来れば自体は収束出来るはずだが。


魂の浄化。


「そうか、わかったわ。」

「この地獄を終わらせる方法が。」

みことはおもむろに声を上げ若干興奮気味に作戦を説明した。


「確かに理論的には出来そうではあるが。」

「どうやって暴徒を集めますか?」


そう。


みことの解決策では暴徒を一箇所に集める必要があったので今度はその方法であたまを悩ませた。


その時、ノイズ気味にみことには馴染み深い声が聞こえてきた。


「お困りの様子やね。みことちゃん」


そう、声を掛けて来たのは新堂奏シンドウ カナデ

みこと達と同じ政府側に所属する異能者で、その有する異能は”探知”であり

魂の形から特定の波形を見出して異能者やそれに類する者を見つけ出し、位置の

特定も可能な、この場に打って付けの異能者であった。


 探知の異能者の力がであれば暴徒のみを探知、その数と

場所が分かればみことの置換で一斉に場所を入れ替えられる。


 「作戦決行は東京都 芝公園。」


「そこに暴徒化した都民を集めて一斉に対処します。」

みことは、瞬時に判断し作戦の実行場所を伝え行動を開始する。

そして、今回の作戦の要となるのは...


「あとは、任せるわ。」


そう。

彼、小谷周平であった。


小谷周平は、まさか自分が作戦の要になるとは

考えておらずかなり緊張した面持ちであった。


 一行は自衛隊車両で芝公園に到着。

所長、木崎とも合流を果たした。


そして、探知の異能者である奏も到着した。

「ナイスタイミングよ奏。」


みことは、久しぶりに再会する旧友に嬉しそうに話しかけ作戦を伝えた。


「OK。かなでちゃんに任せなさい。」

奏と呼ばれた女性は胸を張りハキハキと答える。


 奏は異能を使用し民間人の魂から暴徒を見つけ出し補足して行く。


今回は新堂奏の異能を利用して非異能者と暴徒の魂を選別し暴徒化された一般人の

位置を把握する。


奏が把握した都内全域の暴徒化した民間人の総数は34800人。


23区内であれば奏の異能範囲のギリギリ内側の為全員の補足は

瞬く間に完了した。


「みことちゃん、暴徒化した民間人の補足完了したよ。」


みことは、奏からの報告を聞いてから自身の周囲に

暴徒化した民間人と同数の丸い物体を作り出していた。


そして、みことは34800個の丸い黒い球体を作り出した後に、みことは準備完了の

合図を送る。


奏はみことの合図によって、頭に手を乗せ自分の把握した暴徒化した民間人の情報を送り共有化して行く。


「暴徒化した民間人の全位置情報把握、置換の異能によって暴徒全員を

 この場所へ転送します。」

「転送後は頼むわよ。周平さん」


小谷周平はみことからの言葉に対して力強く頷いて了承した。

それに呼応するようにして、工藤所長は自分たちの周りに複製体を

作り出し、万が一暴徒が襲ってきた場合の対処へ動き出す。


木崎はこの緊迫した状況をただ見ている事に歯がゆさしか感じられず

無力感に襲われながらも緊張する、小谷周平ともしもの場合の考えて

みことを守護出来るように警戒を続けていた。


「行くわよ。」

「総員作戦を実行し、この戦いを終わらせます。」


みことの号令と共に34800個の黒い球体は一瞬にしてその場から消え

それと入れ替わるように、暴徒化した民間人が芝公園の広場へ一瞬で出現した。


「周平さん!!!」


みことは転送が成功したと同時に小谷周平へ声を掛け作戦の実行を促す。


小谷周平は今までにない程に集中していた。

今までの、皆の戦いを見て。

みことや工藤所長、木崎の活躍を間のあたりにしその姿勢に

感化されていた。


その姿は初めてみこと達が出会った彼とは違いどこか自信さえ伺うる。

そして、小谷周平の周りに眩い光が立ち込める。


光は徐々に光を強めながら暴徒化した民間人を包むように

広がって行く。


光に包まれた暴徒化した民間人は先ほどまでの狂暴さが徐々に無くなり

一人またひとりと徐々に正気を取り戻し眠るようにその場に倒れていく。


小谷周平の発する光が薄くなり、完全に晴れる頃には転送されて来た民間人は

全員正常に戻っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、」

小谷周平はかなりしんどそうにしているが、どこか晴れやかな顔をしている。


「みことさん、そして皆さん。

 暴徒化した民間人全員の正常化、無事に成功しました」


 その、小谷周平の一言にこの場にいる全員は安堵しその場に座り込み

そして、この作戦の成功を皆で分かち合い、この一連の騒動に決着を

着けたのだった。


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