第25話 実験
みことは、自分せ創造した刃物を木崎から差し出され左腕目掛けて
大きく振りかぶり、左腕すべてを切り落とさんばかりの勢いで振り下ろし。
と、頭の中では一瞬考えたが、実験として
いきなりそれは危険すぎる。
「木崎、安心しなさい。そこまでしないから」
と木崎を安心させてから、みことは刃物をゆっくりと
木崎の左腕にあてる。
小谷周平も固唾をのんでその様子を見守っている。
そして、木崎の左腕に乗せられた刃物をゆっくり引き
切り傷をつける。
傷口は刃物の切れ味が良いのか、軽く引いただけだが
それなりに深く切れているようで、吹き出しはしないものの
普通なら驚き、慌てるレベルで流血している。
「周平さん、この傷を治して見て。」
小谷周平は戸惑いながらも、木崎の腕の傷を
眺めながら木崎の顔にも目をやり、その表情を伺っていた。
傷は正直たいしたことは無い。
木崎の表情も思って以上に大事に成らなかったので少し安堵した
様子さえ伺える。
それに、ここは病院であるわけだし、最悪は医師を呼べ
ばどうにでもなるはずであった。
それでも、今は小谷周平がしなければならない。
それも、普通の治療では無く異能の力を使って。
木崎の心配も恐らく自分と同じだろう。
問題は治せるかどうかより。
一度でダメなら何回行われるのか。
そこが、二人とっては重要であった。
正直、みことは異能の調査や研究には容赦がない。
それは、自分の異能にも言える事で、彼女はかなり
努力して創造の力を使いこなしている。
恐らく、検査結果が問題なければ、次は自分の
”置換”の異能を徹底的に調べるだろう。
その為、周囲は彼女が関わる実験の時は
気がきではない。
特に強要する訳では無いのだが、みことの普通は
一般の異常であるから、非常に苦労する。
「行きます。」
小谷周平は覚悟を決めたようで木崎の左腕の傷口へ
自分の手を近づける、みことを救った時の感覚を
思い出しながら。
木崎の左腕へ小谷周平は自らの手を伸ばしながら
自分の中に何か温かいものが湧き上がってくるのを明確に感じていた。
それは、みことの時も同じで、そして恐らくは小谷周平が初めて異能を
使用した、団体襲撃事件の際にもあった感覚と同じであろう。
明確に自分自身で感じるのはこれが初めてであった為
どこか、他人事のような感覚ではあるが、間違え無く異能を使用した
時の感覚を小谷周平は思い出し、再現していた。
そして、どことなく温かな感覚は次第に差し出した手へ集約されていく。
そして、集約されたであろう温かな感覚は次第に光へと
姿を変え始める。
そこには、みことを蘇生させた時と似た光が徐々に発生られ
当たりを照らし始めていた。
この病室は普通に照明も付いているし窓もカーテンは
明けてあり、外の天気も良く日の光も入ってくる。
そう決して暗い感じは無いのだが。
小谷周平の発する光はそれらさえも飲み込み
部屋を一層明るく照らしている。
そして、木崎の左腕にある傷はみるみるうちに
塞がり、滴り落ちている血液も見事に綺麗に成っている。
先程まであった傷口は既に、何ごともなかったかのように
綺麗に塞がっていた。
「周平さん、すぐに医者を彼の傷を見てもらいます。
あと、監視カメラの映像もお願いして」
みことは小谷周平に指示を出した。
「木崎。ごめんなさい。腕見せてくれる。」
「いえ、気にしないで下さい。彼の異能を知るのは急務です、
最善の方法と思いますよ」
彼は、いつも優しい。
たまにいたずらしたりするけど。
最終的にはいつも私の考えを理解してくれる。
いつも強引な私のやり方を。
みことは、差し出された木崎の左腕を見てみるも
先程傷をつけたとは、思えない程綺麗に治っている。
「異能を際の感覚はどうだった」
みことは傷が治っていく過程を少しでも解明しようと
木崎へ感覚的な所を聞いていく。
「小谷君が両手を出してから、少しして、傷口の周りが
少し温かくなる感覚がありました。」
「そして、温かさがなくなった瞬間に今度は光に変わり
傷口への感覚もなくなりました。」
「感覚がなくなった?」
みことは、どこか違和感を覚えて聞き返す。
「はい、温かさまでは痛みも有ったのですが、光が出てからは
痛みも消えて、傷がある感覚もなくなってました。」
「そして、しばらくすると傷口が徐々に塞がって行きました。」
木崎の感覚で恐らく重要なのは腕の感覚がなくなっている事。
特に、傷が治る前に既に痛みは取り除かれている。
そうすると、光の出現は痛みや傷を治療していると言うよりは
痛みや傷そのものをなかった事にしているのだろうか。
そして、光はその現象の具現化した姿。
それだと、死者蘇生と言うよりは回帰や事象のコントロールなどに
近い異能なのかもしれない。
そうこうしている内に、小谷周平は医師を連れて
戻って来た。
監視カメラ映像も事前に見てもらったようで、
ここで起きた一部始終を医師も知っていた。
みことも、軽く叱られはしたが、木崎の腕は医師から見ても
異常は見つけられなかった。
「周平さん、木崎にも色々聞いたのだけれど」
「はい、そうですよね、僕気づいた事があって」
それは、異能を使用している時の前後と今の感覚を
照らし合わせて分かったようだ。
「恐らく僕は、死んだ人の魂をストックしてそれを
治療とかに使えるみたいです」
???
普通はハテナだらけだろう。
彼の仮説はこうだ。
死んだ人間の魂をストック。
これは団体襲撃の際の
他の信者の魂が現在はストックされている状態の
ようだ。
そして、他者や自分に対する傷などに対して魂を
浄化させる過程で傷そのものを魂と一緒に浄化させる
事で治療を行う。
浄化させる規模により魂の数が違い木崎の腕程度なら
一人分の魂の浄化で成り立つが。
小谷周平自身やみことに行ったような死者の蘇生レベルになると
必要な魂の数は100人分が必要となる。
あの事件の詳細人数は322名。
彼自身の蘇生とみことの蘇生。
木崎の腕の治癒を含めると...
「そこまで分かったのね」
ありがとうございますとみことは小谷周平へ
お礼をし、木崎もまた安堵の表情を浮かべている。
今回の実験は小谷周平のまさかの分析力により
無事に?一回で成功をしたのであった。
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