第32話 再戦の狼煙

 みことは、屋上で待ち構えていた高輪真に向かい

ゆっくりと歩を進め始める。


どこか、ここら辺一体の空気まで張り詰めるような

緊張感があたりに一面に広がっていく。


高輪真との前回の戦闘では、みことは正直完敗している。


一度は命を落とすほどに。


小谷周平がみことの側でなければ。


もし仮に、あの場で高輪真タカナワシン側に付いていたら。


もっと強力な洗脳を受けていたらと考えると

それはもう、恐怖以外の何物でも無かった。


 みことは、間違い無く来るであろう高輪真タカナワシンとの再戦に向けて色々と考えを巡らせていたが、あの時研究所で撃退出来たのは、まさに奇跡であったとしか言えなかった。


もしもの話をしても仕方がないが、もし彼女があそこで退散しなければみことの死は確定していただろう。


小谷周平の異能が死者蘇生という、ある種、

最強の異能であったことも、正直運が良かったとしか言えない。


それほどまでに、高輪真タカナワシンの異能は群を抜いて強力であった。


 恐らく、高輪真タカナワシンの異能は"解放"と言う言葉と使用された感覚、体験から魂を含む様々な所有権を本人より解き放ち新たな所有者を決める事が出来るのだろう。


その為、肉体から魂が解放されれば魂と肉体の所有権は分離されてしまい、その者は死に至る。


肉体の内部と外部で分離するように解放すれば宗教団体壊滅事件のような犯行も可能。


きっと、所有権をどこが持っているかや誰が有しているかも任意に決められるのだろう。


魂まで作用する異能は少なく、また目に見えない概念や事象を操る異能もかなり少ない。


小谷周平の異能の解明が出来ていなかったら、解放のワードと体験、そして小谷周平の話のみでは、

ここまで高輪真タカナワシンの異能に対して、考えが及ばなかったであろう。


多くの異能者と関わりのある、みことや工藤所長であってもほとんど出会った事のない異能者である事は間違えなかった。


「お久しぶりですね、霧崎みこと。」

高輪真タカナワシンはみことの姿を見ると、以前にも増して殺意のこもった表情でみこと達に話かけて来た。


「よく此処まで来ましたね。」

「わざわざ、自分の命を捨てる為に。」

高輪真タカナワシンはみことに対して前回絶対的に優勢な立場であった為前回の撤退がそもそも、許せないのであろう。


本来であれば、既に小谷周平は自らの手中にあり、今実行している計画は別の目的に使われていた事だろう。


それ故に、霧崎みことの存在は高輪真タカナワシンにとっては絶対に抹消したい対象となっていた。


「自分の命を捨てるために来るわけ無いでしょ。」

とみことは語気を強めて高輪真タカナワシンへ返事をする。自分は確実の殺せるとみこと自身より上と言わんばかりのもの言いにかなり頭に来ている様子であった。


「ここへは、あなたを倒し、今起きている事件を解決する為に来たの。」

みことは、改めてここへ来た目的を大声で伝えた。


これは、高輪真タカナワシンへの口上と言うよりは自分に向けた覚悟や気合を入れる為の言葉のようにも感じ取れる。


そして、みことは大きく息を吸い込み集中力を高め自身の異能の感覚を研ぎ澄ましていく。


検査の後、小谷周平は異能力の測定は外では出来ないのか?と質問を投げかけて来ていた。


検査は病院の闘技場で行った為、小型のスカウターの様なものがあれば敵の異能も測定出来るのでは無いかと。


正直、どこでも出来るのあれば、これほどありがたい事は無いが現状そこまでの、測定装置の小型化は出来ていなかった。


そもそも、測定は複数台の異能量測定器を対象の異能者へ照射する事で求めているので一台では出来ないし、持ち運べる大きさでもない。


ただし、測定が完了している異能者は傍にいる場合は、概算値であれば監視カメラの映像から推定は可能。


そして異能を発動したみことの東京アクアシティの監視カメラ映像による異能推定値はSS900であった。


そこから、傍に写る高輪真タカナワシンの魂強度を推測していく。


結果...


高輪真タカナワシン概算異能値SS2100。」


病院地下の測定チームよりインカムを通してみことへ高輪真タカナワシンの異能値が伝えられる。


ほとんど、異能を使用していない状態でSS2100、これは小谷周平のSS2000を上回る

数値であり、みことの現状の倍以上に開きのある数値である。


異能量が大きければイコール強いと言う訳では無いが、高輪真タカナワシンの異能の特性を考慮するとやはり、かなりの脅威で歩い事に変わりは無かった。


「どうしました、顔が青ざめてますよ」

高輪真タカナワシンは余裕な表情を浮かべながら、霧崎みことへ話かけてくる。


「私の異能を知って、絶望でもしましたか。

 まぁ、無理もない事ですけど。」

高輪真タカナワシンの挑発に対してみことは再度呼吸を整えて大鎌を構える。

「何度も言わせないで、それでも、倒すだけよ。」

みことは目の前の強大な敵に対して、気圧される自分を押し殺して向き合い戦い臨む。


「そう、では今度こそ確実に殺しましょう。」

高輪真タカナワシンみことの殺気と覚悟を感じ取ったのか先までの、軽い態度を改め正面から霧崎みことと相対し打ち滅ぼす気でいるのが見て取れた。


東京の真ん中で、約1300万人の命運を懸けた二人の戦いが今始まったのである。


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