第22話 みことの過去~後編~
みことの母親は、工藤から世界には異能力と呼ばれる力が
存在しており、その力は魂による願望の具現化である事を
聞かされる。
通常は何かしらの事象により本人が望んだ形が
異能として覚醒し願望が具現化されるのであるが。
稀にみことのように生まれながらにして
異能力を有している人間も存在している。
「これから、みことはどうなるんですか」
心配そうな母親を気遣いながらも工藤は。
「これからは、政府の用意している異能者専用病院へ入院して
もらいます」
「申し訳無いのですが、面会もかなり制限されます」
制限はこれからのみことの異能力の強さや特性にも
関係しているようで強ければ秘匿性が増し、ほとんど会う事は
叶わなくなるそうだ。
正直、なにがなんだか分からず、母親はその場で泣き崩れた。
恐らく、もう殆どみことに会う事は出来ないのだろう。
直感でそう感じていた。
その夜、母親は父親とみことの特殊な力について
病室で色々と話し合った。
みことの異能力、みことの今後など。
もう彼女に会えないかもしれない。
それを知った父親は妻の話を聞き
涙を流しながら、眠っているみことの頭を
撫でていた。
それを、工藤も隣室で聞いており自分の責務と
それでも、年端もいかない幼女と両親を引き離してしまう
その罪悪感から、その目にもまた、熱いものはこみ上げる。
ただ、ここで泣くわけには行かない。
これから、彼女を導くのは自分だ。
それから、みことの病院移転は数週間後と決まった。
本来なら、異能力が判明したらすぐに実行されるのだが
工藤は出来る限り引き延ばし1ヵ月近くの猶予を何とか作りだした。
それでも、両親にとってはあまりにも短い。
それから、両親は毎日病院に泊まり込んだ。
もはや家だ。
そして、みこと転院の日。
母親は、みことが何とか抱えられる程度の
小さめのウサギのぬいぐるみを手作りして
プレゼントした。
これがきっと最初で最後のプレゼント。
直感でもう会えないと、そう感じていたから。
工藤は最後に深々と頭をさげ、みことを車に乗せ
政府専用病院に向かって行った。
みこと本人は母親からもらったウサギのぬいぐるみを
大事そうに抱えながら、そして母親や父親が一緒にいないことに
不安そうな顔をしながらも泣かずに、工藤を見つめていた。
「大丈夫。君と君の両親は僕の責任で一生守るから」
きっと、彼女に理解はされていないだろう。
両親にも聞こえない、ただ自分に課した覚悟だった。
時は流れて、みことは物心がつき色々認識していく。
ちょうど、みことは6歳に成っていた。
この病院がどういった場所でなんで自分が退屈な日々と
異能の検査・訓練を積んでいるのか。
そして、いまだに異能者の病院にいるのか。
何もなければ病院に居る必要は無いだろう。
「また、検査?」
「木崎も大変ね。こんな子供の相手をさせられて」
「そんな事は無いですよ。」
「あっ、みことさん今日はウサギさんはなしでお願いします」
みことはそんな木崎の言葉にかなり寂しそうにして
ウサギのぬいぐるみをベッドに寝かして布団をかけて上げていた。
「すぐ戻ってくるかね」
みことはウサギのぬいぐるみに語り掛けていた。
彼女は非常に優しい子なのだろう。
「なにか言いましたか。」
木崎は聞こえていたがあえて聞いてみた。
特に大事そうにしているウサギのぬいぐるみ。
「みことさん、いつも大事そうにしてますよね」
「えぇ、良いでしょ子供だし。」
「それに」
「それに?」
「とっても大事な人たちに貰ったぬいぐるみだもの
大切よ」
みことはそう言ってオペ室へ向かう。
普通はストレッチャーに乗って移動するのに
自ら歩いて自分の心臓移植の手術へ挑む。
彼女の心臓移植のドナーとなった人物は異能者であったが、
どうしてドナーとなったのか、それはまた別のお話。
そして、みことは心臓手術後にドナーとなった異能者の力も
継承している事が後に判明した。
二つ目の異能の力は”置換”。
物体を入れ替える異能力。
普段、みことはこの異能はほとんど使用しない。
もともと他者の異能であるため身体への負担が大きすぎ
異能の力も弱い。
正直、物を入れ替えるだけで実践、特に戦闘ではほとんど
役に立たなかった。
心臓移植を受け、新たな異能が宿ったことも、
理解したみことは術後の検査などを終え、拒否反応も
殆どなく、傷が完全に塞がるま普通に入院し、約1年程度で
退院していった。
それから、しばらくは研究所で異能力の使用や戦闘訓練を行った。
みことは元々格闘センスはあったようで異能を用いた
戦闘技術もすぐに身に着け、わずか10歳で実践デビューを果たした。
黒いローブに身を包み、巨大な鎌で異能犯罪者を駆逐する
その姿は、彼女が意図せずに周りからはこう呼ばれて言った。
”死神少女”と。
主に所長が話した彼女の過去はひとまず
ここまで。
「ウサギのぬいぐるみはどうしたんですか」
小谷周平はまた余計な一言を言ってしまって
みことに小突かれる。
「安心しなさい、ちゃんとあるから」
みことはどことなく明るい雰囲気で笑っているように見えた。
これから、まだ過酷な戦いが続くのだがどこか、
心が温まる感じをこの場にいる全員が共有していた。
「それにしても所長。少し話過ぎじゃない」
所長は苦笑いをし、木崎も笑っていた。
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