第10話 研究所

 移動はみこと宅の駐車場に止めてあったSUVのベンツだった。


いったい誰の所有物なのだろうか。


みことは運転できないし。


そんな事を小谷周平が考えている内に、木崎は運転席へ。


小谷周平は、それに続いて助手席に乗った。


みことは、後部座席にのり早朝にも関わらず、

どこかへ、電話をかけていた。


ここから、研究所までは3~4時間程度。

順調に行けば8時には到着できる計算になる。


先日の襲撃から、もしかしたらと考えていたが

今回の移動はそんな事は無く、気づいたときには3人とも

無事に研究所へ到着していた。


それも、拍子抜けするほどあっさりと。


研究所は、かなり山の奥にあり、道も曲がりくねっており

中々簡単に辿りつけるような場所には見えなかった。


「お久しぶりです。所長」


みことは車を降りると早々に目の前にいる初老の男性に挨拶をする。


「本当に久しぶりだね。みこと君」


そう、あいさつを返す所長は非常に優しそうな顔をしており、

みこと達を温かく迎え入れてくれた。


研究所の外観は真っ白で、所々に窓らしきものが見て取れるが

さほど多いわけでもなく、窓のない部屋も多いように見て取れた。


それにしても、研究所と言う場所はなぜこうも、白色中心の建物ばかりなのだろうか

研究所は白で無いといけないと何か条例でもあるのではないかと、


そう思わせる程に、研究所の類は白色が多い気がする。


そして、一行は研究所の中へ足を踏み入れた。


なかは、思っていた以上に明るく、入口のエントランスは3階付近まで、

高い吹き抜け構造と成っており、圧迫感が無く、どこかの美術館にでも

訪れたかのような感覚にすら、させてくれる。


みことと木崎はみなれた空間なのだろう、特に気に留める事も無く

所長の後ろをついて歩いていく。


小谷周平は、研究所の中のようすが気になるようで、

辺りをキョロキョロと見まわしながら、

3人に遅れまいと後に続いて歩いて行く。


時折すれ違う職員からの挨拶に軽く、会釈を返しながら三人は

研究所のエレベーターに乗り、5階へ向かう。


5階は基本的には研究施設と言うよりは、職員の宿泊施設や事務室、応接室の類が

並んでいるフロアーであった。


その、フロアーの一番奥に所長室があり、

3人は所長に続いて部屋へ入っていった。


「わぁぁぁ」


と、部屋に入ると同時に小谷周平が驚いた様子の声を上げていた。


「急に、大きな声出さないで」


みことにそう言われるも、小谷周平の行動も無理はない。

所長の後に続いて部屋に入ると、大柄の男が椅子に腰かけており

こちらを向いているのだから。


「そう言わないであげなよ、みこと君。最初に言わないと誰でも驚く」

大柄の男は、顔に似つかず、温和なしゃべり方で話かけてきた。


「改めて、自己紹介を。 所長の工藤隆三郎だ。よろしく小谷周平君」


みことは小谷周平の横で、クスクスと笑いながら、

二人のやり取りを見ていた。


そうか、この工藤隆三郎とい名乗る男も。


「異能者なんですか?」


「ふふっ」


工藤所長は不敵に笑い、先程まで案内をしてくれていた、

人物の姿を消した。


そう。


彼は親類縁者の死の際に、死ぬのを代わりたい強く願い。

魂の奥にある、彼の変身願望と重なり願いが覚醒し、異能に目覚めた。


彼の異能は、自分若しくは他者の身代わりを作り出す事。

身代わりは彼の指定した範囲で彼の指示通りの動き。

また、異能以外はほぼすべてコピーする事が可能。


潜入や調査などにはもってこいの異能で、人体実験も彼の

異能であれば、被害を出さずに実施可能であり、

薬の研究などへの協力も行っている。


まぁ、彼が本当に望んだ死者の身代わりは出来ないのだけれど。


「とにかく、無事に辿りつけてよかった。」


工藤所長はそう告げると、3人をソファーへ座るように促し、

自分もみこと達の近くのソファーへ腰を下ろした。


「逐次、木崎君から報告は受けていたけれど、さすがに襲撃頻度が

 多かったから、心配したよ」


「ありがとうございます。久ぶりの護衛でしたから、私も少し手惑いました」


みことはしっかりと話ている。


小谷周はまた、余計な事を口には出さなかったが考えていた。

そんな、彼をよそに工藤とみことは話を進める。


二人の会話は今後の話だろうけど、前後が分かっている人間でないと

恐らく理解できないであろう程に抽象的であった。


「まずは、宿泊する部屋に彼を」


みことがそう告げると、所長室のドアが開き職員が数名入ってきた。


「小谷君は彼らに部屋まで案内してもらって少し休んでいてくれ。」


そう、所長に言われるがまま、小谷周平は職員の後ろをついて歩き

自身が泊まるであろう部屋へ入っていった。


「それで、彼の...は」


「まだ、確証はないが...本当なら」


みことは、小谷周平と出会う前、木崎から渡された資料へ

再び目をやる。


新興宗教団体襲撃と約300名の信者が一瞬にして死亡。


場内の監視カメラの映像から、首謀者は一名と断定。


恐らくは相当強力な異能者。


問題はこの続き。


犯行後の映像は残っており、数十分間300人分の死体が写された後に

一人の人影が写し出された。


それは、間違えなく首謀者の異能によって死亡した人物であると

断定される。


この現象が本人若しくは他者の異能である場合至急自体の解明を

急務とする。


これが、当初より私が受けた指令の概要。


もし、これが本当なら、彼はこれから。


工藤所長とみことは神妙な顔つきで今後についてを

話し合っていった。





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