第7話 避難場所

 小谷周平と木崎は先ほどの襲撃から、急いで逃げて来ていた。


集合場所に指定された、場所は木崎にはなじみの場所であった。


「あの、木崎さん ここは?」


小谷周平からの質問に対して、木崎は無言を貫き、そして見るからに

高級そうなマンションの自動ドアを通って行った。


とくに鍵を使った形跡はなく、オートロックのドアをくぐっていく木崎の

後を小谷周平も置いて行かれないように着いていく。


エレベーターで上層階へ。


言うまでもなく、高級タワーマンションの最上階へ向かっている。


一体どんな場所が集合場所なのだろうか。


あの時みことは、”いつも私がいる所に集合”と告げていた。


自分には全く分からなかったが、木崎にはわかったようで。

軽く笑みをこぼして、頷いていた。


「着きましたよ」


小谷周平は木崎から声を掛けられて、タワーマンションの最上階の部屋の

ドアの前に立っていた。


「さぁ、入って。」

「中でみことさんの帰りを待ちましょう」


「帰り?」

少し不思議に思った小谷周平は、思わず聞き返してしまった。


「あれ、言いませんでしたっけ?」

「ここは、みことさんの自宅ですよ」


「いや、あんたさっきから人の質問を、

完全にシカトしてたじゃん。」


「って、こんな所に16歳の少女が住んでんの?」


「良い反応ですね」


面白がっているのが丸わかりだ。

こっちの顔が本来の木崎だろうか。


「さ、中へ」


もう、なんで木崎がこの部屋の鍵を持っているかなんて聞かないでおこう。

そう思いながら、小谷周平はだだっ広い玄関を通り、40畳はあろうリビングの

ソファーへ腰かけた。


いや、落ち着かねー。


襲撃やみことが心配なのもあるけど、タワーマンションの最上階なんて

今まで立ち寄った事が無いので、木崎さんに勧められたソファーに座っていても

周りをキョロキョロと見まわしているしか出来ずにいた。


「そんなに、キョロキョロ見ていたら、みことさんに怒られますよ」


木崎さんはそう忠告をしながら、コーヒーを入れてくれていて、

いかにも高級そうなカップに入ったコーヒーを渡してくれた。


「少し、いたずらが過ぎましたか?」


「いえ、大丈夫です」


「なら、良かった。」


「それと、みことさんなら大丈夫ですよ」


木崎さんは俺の心でも読んでいるかのようにそう伝えて来た。

確かに、俺が落ち着かない最大の理由はきっと霧崎みことの安否だろう。


車を吹き飛ばしたのは、やはり異能者と呼ばれる人たちなのだろうか。

だとしたら、霧崎さんはどうなっているのか、


大丈夫なのか。


助は必要ないのか。


まぁ、自分に助けられる訳では無いけれど。

何かできる事があるかもしれない。


そんなことを、コーヒーを飲みながら考えていた。


自分ではそれほど時間がたったように感じなかったが、

車を襲撃されてから2時間程度は経過しているようだ。


「あの、木崎さん。やっぱり俺たち」


「小谷さん、勇気ありますね。でも大丈夫ですよ。」


「その勇気は、別のところに取っておいて下さい」


木崎はそう言うと、目を落としていたスマホから、玄関へ続く扉の方へ

目をやった。


そうした時、”ガチャッ”と鍵が開く音がした。


どうやら、誰かが鍵をかけてドアを開けたらしい。


「二人とも、大丈夫そうね」


たった、2時間程度会っていなかっただけで、

ずいぶん久しぶりに声を

聴いた気がした。


そこには、若干服が破れ、埃で汚れてはいるけれど、目立った外傷は見られない

みことがリビングへ入って来て、自分たちの前に立っていた。


「お帰りなさい、みことさん」


「えぇ、ただいま」


「対象は」


「最終的には撃破...されたわ」


”撃破された?”霧崎さんが倒したのではないのか。

そう思った小谷周平はみことに尋ねようとしたが


「対象から情報を聞き出そうとしたんだけれど、何者かに殺害されたわ」


「組織にはリュウ以外に複数人の異能者が存在している」


複数人の異能者、リュウと名乗る人物の異能もかなり強力であったが

いったいあんなのが何人いるんだ。


そう不安そうにしている小谷周平に対して

みことは、優しく微笑みかけくれていた、無言ではあるが大丈夫と。


そう伝えているように。


「ところで、木崎、あっちの方は」


「はい、連絡済みです」


みことは、つばさと名乗る異能者撃破後に木崎と連絡を取り、

研究所への到着の延期と現状報告を任せていた。


できる事なら、研究所からの支援も少し期待したいが、

自分の実績を考えると少し難しいか。


つばさを殺害した異能者は不明だけれど、リュウレベルの異能者であれば

私一人でどうにか出来る範囲だろう。


それに、研究所には今は異能者は私だけのはず。


他の研究所から派遣してもらうにしても、それなりの時間を要するだろうから、

このまま研究所へ向かうほうがいいだろう。


なに、あそこは対異能に対するセキュリティは万全だ。

そう簡単に侵入や破壊は出来ない。


「さて、それじゃ今日は休みますか」


みことは、軽い口調でそう告げて、木崎へ小谷周平をみはるよう指示をし

汗を流しにシャワーを浴びに行った。


そんな、のんきな感じでいいのか?


今はシャワーを覗かれるより

心配することがあるのではないだろうか。


まぁまぁといた感じの木崎さんにもあきれてしまうが

みことは、そんな事はお構いなしにシャワーから出て来て

食事の準備を始めていた。


「みことさんって、料理出来るんだ」


そう言った小谷周平は、背筋に寒気がした。


「あっ、俺死んだかも。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る