20:00
「お願いっ。」
と、瑠愛さんは私の目の前で手を合わせ、何度断っても頼み込んでくる。
天「…嫌です。」
瑠愛「お願いだよー…。天ちゃんの腕が1番しっくりくる細さなんだよ…?」
天「…ムダ毛あるし、…ちょっと傷あるし。」
瑠愛「大丈夫大丈夫!光で飛ばせばある程度は見えないから!」
天「でも…、2人には見えますよね?」
瑠愛「そうだけどー…、そんなに恥ずかしい?俺もあるよ?」
瑠愛さんは自分の腕を見せて少し残っているふわふわな腕毛を見せてきた。
私は別に恥ずかしいわけじゃない。
けど、どうしても見せたくないのは私の左腕に傷跡があるから。
それを見たのはひぃ兄くらいで他のみんなは気づかれないようになるべく目立たないようにメイクで隠してきた。
今年の初め頃につけたこの切り傷は深くは出来なかったからだんだんとは薄くなってきているけど、やっぱりまだ視界に入れたらすぐ分かってしまう濃さの跡が残っている。
だからどうしても嫌と言っているのに瑠愛さんは妥協をしたくないらしく、悠さんがいる家に戻ってきたのに私にずっと頼み込んでくる。
天「…あの、ちょっと2人だけで話してもいいですか?」
私はずっと瑠愛さんのそばで私の許諾待ちをしていた渡辺にこの腕を見られたくなくて、そうお願いしてみると瑠愛さんは渡辺を別室に移してくれた。
瑠愛「二の腕まで出すの恥ずかしいかな…。やっぱり、同級生の男女だと気まずいものがある?」
天「そういうことじゃなくて…、ちょっとあんまり人に見せたくなくて…。」
私は自分の頭が言葉に追いついていないのを感じつつも、自分のニット下からご要望の左腕を出して瑠愛さんに傷を見せる。
天「…こういうのあるので映像に残るのも、渡辺に見られるのも嫌なんです。」
思い切って私がそう言うと、瑠愛さんは急に自分のスウェットを脱いでとても綺麗な腹筋を見せてきた。
瑠愛「仲間だね。俺もあるよ。」
と、瑠愛さんは腹筋の割れ目に沿うようにまっすぐお腹の端から端まである傷を私に見せた。
瑠愛「これ、いつの?今もしてる?」
天「…夏入る前くらいのです。今はしてないです。」
瑠愛「……天ちゃんって肌少し荒れてるよね。」
瑠愛さんは腕にある傷よりも私の手のひらに指を這わせて、甘皮が剥がれている部分を指差す。
天「冬だと肌が荒れやすくて。」
瑠愛「それにしても、妙に針穴みたいなかさぶた多いけど。」
天「ここ最近、ずっと作業したまま寝ることが多かったので寝ながら刺しちゃったんだと思います。」
瑠愛「俺には嘘つかなくていいよ。琥太くんにもお兄さんにも言わないよ?」
天「…ただの興味本位です。」
私はひぃ兄にバレてからカッターから針に持ち替えて体に残りにくい傷で生きてる感覚を得ていたけど、瑠愛さんは物知りみたいで隠し通せなかった。
瑠愛「好奇心旺盛なのはいいこと。だけど、自分の体に傷をつけちゃうのはあまりオススメしないよ。」
天「ごめんなさい…。」
瑠愛「謝らないで。天ちゃんは悪いことしてないよ。したくなったらいつでも俺の家来て夜中にポテトフライ食べようよ。」
そう言って瑠愛さんは私をそっと抱きしめて部屋の暖房よりも心を温めてくれる。
瑠愛「このシーンは今日のとこは辞めとく。俺も納得したの撮りたいし、天ちゃんも嫌だろうから違う人探すね。」
天「…はいっ。」
瑠愛「うん。気持ち落ち着いたら今日は撮影辞めてのんびり映画鑑賞でもしよっか。」
私が瑠愛さんの背中にボロボロと涙を落とすけれど、瑠愛さんは気にせずずっと私の震える背中を撫で続けてしつこくお願いしたことをたくさん謝ってくれた。
こう言うところを悠さんは好きになったんだろうなとふと思ってしまうと、私はまた誰もそばにいないことを痛感してまた別の涙を流してしまった。
環流 虹向/天使とおこた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます