12/30

10:00

人がいない朝っぱらからずっと海辺で撮影しているけど、こんなにも時間がかかるなんて思いもしなかったな。


そんな事を考えながら私は荷物番をしつつ、さっき買った温かいはちみつレモンを飲んで体を温める。


今、瑠愛さんと渡辺は後半のシーンを撮っているっぽい。


渡辺は何度も走らされて見えない何かに追われる演技をしているけど、本当に何かいるんじゃないかと思うくらい熱演しているのが豆粒程度の大きさでも分かる。


本当にあいつって演技が上手いよなぁと改めて思い、学校にいる時とは全く違う顔を見せる渡辺の事を考えていると、休憩に入るのか2人が私の元へ戻って来た。


天「お疲れ。」


私は渡辺に冷えてる水とハンカチを渡し、衣装がこれ以上汗で色を変えないようにしてもらう。


渡辺「…ありがとう。けど、これかけてほしい。」


そう言って渡辺は衣装を全て脱ぎ、急にパンツ1枚だけになると私に汗で湯気が出ている背中を見せてきた。


天「かける…?」


瑠愛「体の体温で湯気出ちゃうから冷たい水かけてほしいの。」


天「え…、寒いじゃないですか…。」


渡辺「寒くてもそのシーンに繋がらないから消すんだ。だから早くかけて。」


と、渡辺は寒いのを我慢してるのか少し喉を締めながら私に命令した。


瑠愛「お昼になるとちらほら人来ちゃうから先撮っときたいんだ。俺、先にあっち行ってるから琥太くんは軽く走ってから来てね。」


渡辺「はい。分かりました。」


そう渡辺が返事をすると瑠愛さんは駆け足でカメラをセッティングしに行ってしまった。


渡辺「早く。寒い。」


天「…分かった。かけるよ。」


私は恐る恐る渡辺の背中に冷たい水をかけてどんどん熱を下げていくと、渡辺の背中には私にでも分かるほど鳥肌が立ってしまった。


渡辺「拭いて。そしたらすぐ行くから。」


…大変だな。


俳優さんってただ演技するだけじゃないんだ。


映像に映るもの全てに気を使わないといけないんだ。


そう思いながら私は渡辺の冷えた背中をタオルで拭き、今回の仕事を終える。


すると、渡辺は私のはちみつレモンを一口勝手に飲み瑠愛さんの元へ走り出して行ってしまった。


私は最高に味が好みだったはちみつレモンを汚されてちょっと落ち込みながら、濡れた砂浜を足で蹴っていると2人はカメラの画面に映る映像を見ながらこちらに帰ってきた。


瑠愛「いい感じいい感じ!じゃあ一旦休憩してお昼からも頑張っていこー!」


と、瑠愛さんは人が来るのと入れ替わりに砂浜を出て私たちをお昼ごはんに連れて行ってくれた。



環流 虹向/天使とおこた

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