20:00

「あーんっ、また失敗した…。」


と、七海はまたシェイカーから指を離してしまったのか、盛大に自分の腕にトマトジュースとウォッカを零す。


すると、店長と紹介されたロング髪がとても似合う美人さんなのにおでこに何故か絆創膏を貼っているさきさんが慌ててタオルで拭いてくれる。


さき「もう輪ゴムつける?」


七海「…マドラーでやる。」


来虎「俺は七海の納得したカクテルが欲しいから2万円までなら失敗していいよ。」


さき「失敗した分は貰えないよ!」


さきさんは俺の発言に驚いた顔をして今言ったことを無かったことにする。


「いいじゃん。貰えるものは貰っちゃえば?」


と、夢衣の元彼の一さんが俺の隣にいる夢衣越しに会話に入ってきた。


さき「もらえないよ。お酒ってそんなに原価かからないから1日10回までなら許す。」


七海「…ごめんなさい。」


夢衣「明日からは私と一緒に頑張ろ!」


七海「うん…っ。頑張る…。」


そう言って七海はまた作り始めるけれど、やっぱり手先が不器用みたいでなかなか1杯を完成させられない。


一「俺は姐さんのカシオレ呑んだら帰る。」


さき「あ、はーい。作るね。」


夢衣「さきちゃんのカシオレ美味しいの?」


一「色がすごい綺麗なんだ。」


夢衣「…私も飲みたい。けど、ななみんのも飲みたい。」


一「今日はななみさんのを飲みに来たんだろ?だったら待つべき。」


夢衣が好きと思うこともあって、やっぱり一さんは彼女じゃなくなっても夢衣の気持ちと周りの状況をしっかりと見定めて判断する。


そういう所が人としてちゃんと好きなんだろうなと思うけど、夢衣が俺を好きになる理由が分からない。


そうモヤモヤとした気持ちで過ごしていると、一さんはさきさんが作ったカシスオレンジをしっかりと味わい、飲み終えるとすぐに帰ってしまった。


すると、夢衣は寂しいのか俺の腕に抱きつきながらやっと完成した七海のマティーニを飲んでホッと一息つく。


夢衣「来虎は明日、何時に新幹線?」


来虎「10時くらいのに乗る予定。」


夢衣「…もう帰っちゃうんだ。」


夢衣はそう呟き、カクテルグラスを置いて俺の手に指を絡めてきた。


来虎「また来るよ。莉李のこと、家まで見送れって言われてるし。」


夢衣「いつ?」


来虎「4日かな。次の日仕事あるからとんぼ返りだけど。」


夢衣「えー…、じゃあ遊べないじゃん。」


七海「俺が来虎の代わりにいっぱい遊んであげる♡」


と、七海はやっとシェイカーから手を離せて気が楽になったのか、笑顔がだいぶ穏やかになった。


夢衣「お店始まるまでずっとね。」


七海「いいよん♡いっぱい遊ぼー♡」


俺もそこの輪に入りたいと思うけれど、それはまだ遊び足りないのかそれとも七海と夢衣が2人で遊ぶことを嫉妬しているかも分からず、また1人だけなにも解決しない時間を過ごしてしまった。



環流 虹向/ココのさきには

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