20:00

夢衣は俺にあのスウェットを絶対着て来てねと指定して、俺が持ってきたズボンの本数と今日までの日数を計算して見事色違いのスウェットと黒のパンツを履いてきた。


それにルンルンな夢衣はそのままゲームセンターに行き、俺と一緒にバスケをしたり、ダーツをしたり、エアホッケーをしたり、体を動かして楽しむ。


それを見て俺も楽しんでいると、夢衣は活動限界が訪れたのか少しふらふらとしながらベンチに座って水分補給をした。


俺もその隣に座り、少しゆるく感じた靴紐を直していると夢衣がその背中にもたれかかってきた。


来虎「疲れた?」


夢衣「疲れたけど、楽しいがいっぱい過ぎてまだ動きたいって体が言ってる。」


来虎「次は何する?」


夢衣「うーん…、カラオケ?」


来虎「腹減ってるし、ちょうどいいかも。」


夢衣「じゃあ、決定!」


そう言って夢衣は立ち上がり、俺の手を引いてすぐにカラオケブースに行き部屋を取るとメニュー表を見る前に曲を入れ始めた。


夢衣「今日は空いてるっぽいからフリーで朝越せるかもね。」


来虎「…そんなにいる気なのか?」


夢衣「だってもう少しで来虎帰っちゃうもん。」


と、夢衣は片頬を膨らませてわざとらしく不機嫌を表す。


来虎「また来るよ。夢衣も大学の課題とかやらないとダメだろ?」


夢衣「…ないよーだ。」


来虎「嘘。今回は何やるの?」


夢衣「んー…?なんだろー…?」


来虎「現実逃避しても、期日はしっかりやってくるぞー。」


俺は都合の悪い現実を放棄し始めた夢衣を横に、腹ごしらえするフードを選んでると夢衣が俺の腕に抱きついてきた。


夢衣「だから来虎となるべくいるの。明後日までずっといるの。」


と、夢衣は少し潤んだ目をしながら腕を力強く抱きしめる。


来虎「分かったよ。帰るまで一緒にいよう。」


俺は時間稼ぎにしかならないことを言って、夢衣の気持ちを落ち着かせようとすると夢衣は頭を俺の肩に置いた。


夢衣「…じゃあ、ホテルいこ。」


来虎「え?」


夢衣「汗かいたからシャワー浴びたい。」


来虎「…いいけど、何もしないよ?」


夢衣「したいぃ…。」


夢衣は肩に乗せたままの頭を動かし、俺の顔を見てきた。


そのスノードームみたいな雪が舞い煌めく綺麗な目に吸い込まれそうになった俺はぎゅっと瞬きをして意識を取り戻す。


来虎「お願いしたじゃん。恋人以外の人としないでって。」


夢衣「…来虎がなってよ。」


来虎「俺は…」


俺はまだ好きが分からない。


恋愛の定義が分からない。


夢衣の事を恋愛対象として好きなのか分からない。


でも、嫌いとかどうでもいいとかは一度も思ったことがなくて、一緒にいて楽しいし落ち着く時もある。


だからこうやって遊んでるけど、このままはダメなのか…。


来虎「俺は…、夢衣の期待に答えられない気がする…。」


夢衣「一緒にいるだけでいいよ。」


来虎「でも、夢衣は…したいんでしょ?けど、俺はそういう関係は求めてなくて遊んでるだけで十分というか…」


夢衣「私のこと、嫌い?」


来虎「好きだよ。けど…、夢衣との好きとはまた別な感じがして…。」


夢衣「私は来虎のこと、いいなって思ってるよ。だから付き合ってみようよ。」


来虎「…俺、自分が中途半端になるの嫌なんだ。」


みんなのように何か光るような才能がない俺はただ自分の恵まれた体をさらに大きくすることしか出来なくて、もらった仕事を素直にやってお金をもらっている誰でもやろうと思えば出来る人生。


だから友達付き合いとかその他の事は、中途半端にしてしまうくらいならやらないというスタンスで社会人バスケにも入らなかった。


何をやっても俺はみんなが思った以上の期待は答えられないから、夢衣と付き合うという気も起きなかった。


こういう自分を好きと言ってくれる人がいることはとても有り難いけれど、どうしても自分の気持ちが他人に追いつけない半端者でさらに嫌になるからそうならないように過ごしていたのにまた告白されてしまった。


来虎「自分がちゃんと好きって思える人と付き合いたいから、…ごめん。」


夢衣「…まだ友達でいてくれる?」


と、俺が自分でいっぱいになっていると夢衣はスノードームに雨を降らせてとても寂しげな顔をしてしまう。


来虎「うん。だから明日も一緒に遊ぼう?どこ行きたい?」


おれは夢衣の涙を自分の袖で拭きながらどうしても1日ではやりきれないやりたいことを夢衣に言われ、頭の中で整理してなるべく出来るようにプランを立てることにした。



環流 虹向/ココのさきには

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