12/23
10:00
久しぶりに呑み過ぎた俺は水をがぶ飲みしながら仕事をしていると、隣で寝ていた七海がベッドで目を覚ました。
七海「…おはぁ。ここどこ。」
来虎「妹の彼氏ん家。来週末までここに泊まらせてもらってる。」
七海「妹の方が先行ってんなぁ。」
来虎「高校の時からの付き合いだからね。」
七海「高校だと、俺たちは大学2年とかか。」
来虎「そうなるね。」
七海「…やば。ジジィじゃん。」
そう言って七海は大きく長いため息をつき、ベッドの上でしばらくうなだれた。
その感じが大学時代、溜まり場になっていた七海の家を思い出し、ふと笑ってしまう。
七海「どうした…。いい動画でも見つけたか…。」
と、七海はベッドから雪崩れ落ち、俺の隣に座った。
来虎「いや、この感じが懐かしかっただけ。」
七海「意味分からん。水。」
俺はその感じも懐かしくて自分だけのノスタルジーを感じながら、七海に水をあげる。
七海「呑み明けの水って美味いよな。あと、ヤッた後。」
来虎「舌じゃなくて喉と脳が水欲してんだよな。」
七海「あー分かるわ。」
そんなくだらない話をしながら仕事をしていると、携帯ゲームをして暇を潰していた七海がまた眠るのか携帯を枕元に捨てた。
来虎「寝る?あと1時間したら飯食べに行こうと思ってたけど。」
七海「んー…、いやどうしよっかなって。」
来虎「眠いなら起こすよ。」
七海「今のことじゃなくて今後のこと。」
そう言って七海はとろけた目と一瞬でも気を抜いたら眠ってしまいそうな顔で枕を抱きしめて俺を見てきた。
来虎「今後…?」
七海「来虎はジムっていう最高の職場があるけど、俺にはないからどうしよっかなって話。」
来虎「今って美容師やってんじゃなかったっけ?」
七海「やってるけど、なんかみんなより技術劣ってるんだよね。」
来虎「んー…まあそれは経験のあれもあるよね。」
俺は練習が足りないんじゃないかとは言えずに言葉をある程度適切に見繕ってごまかす。
七海は、とても努力家で大学と並行して美容師の資格を取るために通信の専門学校でも勉強をしていた。
けど、その努力がなかなか結果に結びつくことが少なくて一度やけを起こして酔った勢いで線路に飛び降りたこともある。
だから七海の努力が足りないから練習すればいいとは簡単には言えず、昨日も酔ったままの七海をひとりで家に帰すわけにはいかなかった。
七海「ある程度、有名店では働かせてもらってるけど、顔採用でレジ番とお見送りとたまにシャンプーするしかやることないんだよね。」
来虎「…2年働いてて?」
七海「そう。飯休憩以外は窓ガラス拭いて暇つぶしとけって。」
そんな扱いを受けてたのか…。
俺は莉李の事があったから滅多にこっちに来なかったし、七海との連絡も疎遠になりつつあったけどまた大学の時みたいに1日1回自己満の板チョコを送り合うかと考えていると、七海は体を起こした。
七海「若いから看板息子として置いてもらってるけど、これが30代40代って考えたら怖いんだよね。」
来虎「…重力で色々垂れるし、シワとかシミも出来るからね。」
七海「そう。けど、街ではスカウトなんかされないからモデルにも芸能人にもなる見込みなさそうなんだよな。」
来虎「七海の真顔はちょっと怖いから近づき難いのかも。」
七海「初めて言われた。気をつけとこっ。」
本当は七海の顔の割に何故だか幸薄そうなオーラが出てるからなんだと思うけど、そんなあやふやなことを口に出して教える勇気はない。
七海「俺自身が使えそうな仕事あったら教えて?これ、結構本気。」
来虎「分かった。あっち戻った時に知り合いに声かけてみるよ。」
七海「ありがとう。」
と、七海は不器用な作り笑顔をした。
その笑顔はひとりで悩み過ぎた後、線路に降りる前に『バイバイ』と呟いた時の笑顔と似ていて俺は七海に呼ばれたならすぐに駆けつけようと心に決めた。
環流 虹向/ココのさきには
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