第152話 14日目⑮おっさんは甘やかされる
食事が済んでから、残してあったモツの下茹でとアク抜き処理、製塩の続きをする。食事中も煮詰め続けていた製塩用の中コッヘルの
大コッヘルではすでに何度か湯を換えながらモツのアク抜きを続けている。
塩揉みと水洗いを繰り返して十分に血抜きができた
脂が多くフォアグラに似ていると判明した
そして最後に残るのは
小川の流水で再度もみ洗いして灰を洗い流せば、アルカリの効果で表面の脂っ気が無くなり、臭いそのものもだいぶ和らいだ。
それを一口サイズに切り分けて茹でればまだまだアクは浮いてくるのでお玉で掬って捨てるのを繰り返し、アクが出なくなったら茹で上がったシロモツを引き上げる。あとは煮るなり焼くなり炒めるなり好みの方法で料理すればいい。
「この下処理の済んだモツはどんな風に料理するんすか?」
「そうだな……
「なるほどぉ。どれも美味しそうっすね」
「シロモツを煮込むなら味噌とか生姜があれば臭み消しにいいんだけど、まあ無い物ねだりしてもしょうがないからな」
何気なくそう言った瞬間、美岬がぷふっと吹き出す。
「……? どした?」
「生姜がないだけに……ふふっ」
「ダジャレのつもりで言ってない!」
「んふふ、そういうことにしとくっすよ。……モツの下処理はもうこれで全部終わりっすか?」
「ああ。長丁場だったがこれでやっと一通り終わりだ。……夕方になっていきなり降って湧いたイレギュラーな作業だったからさすがに疲れたな……」
最初から予定していたならともかく、まったくの予定外だった数時間がかりの作業は、さすがに体力的にも精神的にもキツい。かといって始めた以上、血抜きと内臓の処理までは終わらせないといけないからな。
「運ぶのも解体もモツの処理もほぼほぼ全部一人でやってくれてたっすもんねぇ。そりゃ疲れるっすよ」
「まだやらなきゃいけないことはあるんだけどなぁ…………正直しばらく動きたくない」
下処理が終わったモツは種類ごとに袋詰めまではしてある。ただこのまま常温に置いておくのはまずいので冷蔵のために小川に持って行かなければならないのだが、たったそれだけの作業が今はひどく億劫だ。終わったと思った瞬間、疲れが一気にどっと押し寄せてきてめちゃくちゃ怠くて動きたくない。
「ガクちゃんはそのまま休憩してて大丈夫っすよ。むしろゆっくりしてて。片付けとかはあたしがやっとくから。このモツは小川で冷やしておけばいいんすよね?」
「……おう。悪いけど任した」
「あい。おまかせられ」
たぶん少し休憩すれば動けるから、地面にあぐらをかいて座ったままの状態で目を閉じる。たちまち意識が
どれくらい時間が経ったか、急に両肩に手を置かれてゆっくりと上半身を後ろに倒される感覚があり、後頭部にふにょんと柔らかくて温かいものを感じた。
「……んあ?」
そのまま仰向けにされ、薄目を開くと視界の半分ほどを覆っている双丘越しにこちらを覗きこんでいる美岬と目が合い、彼女がにへらっと笑う。
「あら、気付かれないようにそっと膝枕しようと思ったのに、起こしちゃったっすね」
「…………んん、膝枕してくれてるのか」
「何気にしてあげるのは初めてっすね。ふふ、どうっすか? 可愛いヨメの膝枕」
「……これは、とてもいいものだ」
「おふ。素直っすか。なら思う存分堪能しちゃっていいっすよ」
「作業は……どうなった?」
「モツは冷蔵してるっすし、使い終わったコッヘルとかお皿は洗い終わってるし、あとは中コッヘルの塩がもうちょっと煮詰まったら
「ああもう、気持ち良すぎてますます動けなくなりそうだ」
「ガクちゃんは働きすぎっすからね。ちゃんと横にならないと疲れは取れないっすよ。このまま、もうしばらく休んでていいっすから」
美岬の微笑みと労いの言葉が、柔らかくて温かい膝枕が、俺の髪を優しく撫でる手の温もりが、癒しの相乗効果で俺の意識を再び闇に誘う。
横になると本格的に寝入ってしまうのが明白だったから、あえて座ったまま居眠りしてたんだけどな、とぼんやり思いつつも、美岬の膝枕のヒーリング効果には抗えず、俺は意識を手放した。
【作者コメント】
この後しばらくして美岬は岳人を起こして二人で残ってた作業を終わらせたりもするのですが、物語的にはここがキリがいいので14日目はここで終わりとします。
いつも誤字報告や感想ありがとうございます。引き続き応援していただけると幸いです。
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