ねこでいい

ちえ。

ねこでいい

 きょうのごしゅじんさまは、すこし、げんきがない。


 つぶやいて、ためいきをついて、うつむきっぱなしで、そのかおがさびしそうで。

 ひょいとひざのうえにすわった。


 ほら、わらって。

 てしてし、まえあしでおねだり。

 きみに、かなしいかおをさせる、そんなちいさながめんなんて。

 ふっさふさのしっぽで、かくしてしまうんだから。


 こっちをむいたごしゅじんさまに、ふふん、とすましがお。


 きみは、そんないたずらがすきでしょう?

 だから、わらって。なかないで。



 きみのなみだをぬぐえる、おおきなてをもってない。

 きみがさびしいとき、つつめるうでももってない。


 だけどこうやって、きみがえがおになってくれるなら、ぼくは、ねこでいい。



 きみのことばは、ちょっとしかわからない。

 でも、きみのこえなら、ずっととおくからでもわかるよ。


 きみにやさしいことばをかけてあげられないけど。

 きみのすきなこえで、なくことならできる。


 ごろごろごろ。なんだって、きみのためのぼくだから。

 すりすり。きみのこと、だれよりもだいすきだって、つたわるように。



 ひっくりかえって、ごろんごろん。

 てあしをじたばたしておどったら、きみはいつもわらってなでてくれる。


 きみとおなじものをみることはできないけど。

 にほんあしでたって、かっこうよくとなりをあるけないけど。


 きみがわらってくれるなら、ぼくは、ねこでいい。



 きみのことが、ずっとずっと、むかしからすきだった。

 うまれるよりも、ずっとずっとむかしから。


 きみの、さようならのなみだをおぼえてる。

 きみにまたあいたくて、でもあえなくて。

 ぼくは、うんめいからこぼれおちてしまった。


 ぼくに、なまえをつけるなら、きっと、『おもいで』や『きおく』なんてもの。

 きみがおぼえていない、ずっとずっとむかし。

 きみと、そいとげることができなくて、そして、ねがった。

 いつかまた、きみといっしょにいられることを。


 わすれられないおもいが、たましいからこぼれおちて、きみのだいすきなねこになった。



 きみと、ならんでいきることはできないけど。

 いつまでも、きみのあしもとで、みまもらせて。


 きみのこと、せかいでいちばんだいすきなんだ。


 きみをまもるちからは、もっていないけれど。

 いつだって、きみのみかたでいるから。


 きみをえがおにできるから、ぼくは、ねこでいい。



 ぼくがほしいのは、きみがしあわせになることだけ。

 だからきょうも、きみのために、かわいいねこでいる。


 きみがしあわせになってくれるなら、ぼくは、ねこでいい。

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ねこでいい ちえ。 @chiesabu

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