第49話 文化祭(二日目)
1
文化祭という記念すべき日を漫画やアニメのイメージに落とし込んてみると、ハプニングやラブコメ展開の目白押しな場合が多い。
けれど、現実はそうでもなかった。
「八番テーブル。品出し終わりです。次、二番テーブル!」
「皿洗いはどうなった!?手空いてる人がやるんじゃなかったの?」
「そんなやつ誰もいないだろ!みんな手いっぱいだよ!」
「埒あかないから列に時間待ちの看板だして!時間は…………三十分で」
世話しなく行き来するクラスメイト達と客達。そう。私たち二年二組の出し物である「喫茶店」はありえないほどの賑わいを見せていた。
一般客への公開が行われている一日目以降は客の足取りもいくらかは和らぐと思われていたが、そんなことなかった。前日に入れなかった学校の生徒も噂が噂を呼び、午前中から長蛇の列。
まあ、宣伝効果があったと言えば聞こえはいいが、完全にキャパオーバーだ。
「生クリーム切れた!誰か買ってきてくれー!」
「こっちもあとちょっと!」
「じゃあ、僕買ってくるよ。何か他にある?」
望が厨房の方に聞くと、どの担当もかなりかつかつのようだ。数が多くなりそうなのでメモをとる。
「おっけ。量多いから少し時間かかるかも。なるべく早く戻るからそれまで持ちこたえて!」
「「「了解!!!」」」
厨房を出て真っ直ぐに昇降口に向かう。スーパーまでは学校から一番近いところでも五分ほどかかる。それからみんなに頼まれた品を揃え終えて帰るとなると往復で二十分はかかるだろう。
(……………………執事服だけどいいか)
二日目になったためメイド服の呪縛から解放された望は今執事服を身にまとっている。この格好で買い出しに行くのはかなり恥ずかしいのだが、言い出してしまった以上文句は言えない。
「あっ、ごめん!」
曲がり角を曲がったところで丁度誰かと鉢合わせてしまう。
「その声は…………副部長じゃないか」
ぶつかったのは見た目だけなら十人中十人が清楚だと思う少女、夜桜真夜だった。文芸部の部長であり三年生だ。
「部長!こんなところでどうしたんですか?」
「まあ私は出店を回っていたところだよ。君は?」
「あぁそうでした。僕はちょっと買い出しに。では」
急いでいることをアピールしながら望は足早に立ち去る。
「あ、副部長!用が済んだら部室に顔を出してくれ!部の活動もあるからな!」
僕の背中に先輩は大声で言った。
2
買い出しが終わると、段々と客の数と厨房の回転率が釣り合ってきて余裕が出てきた。そろそろ十二時。交代の時間だ。
「じゃあ少し抜けます。部室に顔を出してこないといけないので」
「ああ、わかった」
実行委員の谷口の了承を取ると望は図書室に向かう。部室といえばここしかない。
本来ならば交代で部誌の配布をしなければならないところをクラスの出し物が忙しくてつい忘れてしまっていた。先程部長に言われて初めて思い出したくらいだ。
図書室に入ると数人の生徒が文芸部の出し物である部誌を眺めている。
係の部員と交代すると受付の椅子に腰を掛ける。こうしてゆっくりするのは久しぶりな気がする。
部誌は文化祭ということもあって普段よりもボリュームを増して、上下巻に分けられている。表紙の絵を担当したのは漫画研究部を掛け持ちしている藤堂君だ。それぞれ女の子が可愛くポーズしているイラストが綺麗に描かれていて映えている。
「これって、読んでも良いんですか?」
「はい。どうぞ」
きちんと接客の業務も全うしつつもここ一日半の仕事に比べてはだいぶ楽だ。
少し手持無沙汰だったので部誌を手に取って、眺めてみる。
思えば直前は凜のことで一杯一杯で完成した部誌を読むのは初めてかもしれない。
「あ、あった」
自分の作品が載っているのを見つけるとつい頬を緩めてしまう。
他にも上手い人はたくさんいる。その中でも自分の作品が他の人に読まれて面白いと思ってもらえたらこれ以上嬉しいことはない。
(部長のはどこだろう)
自分の書いた文章を読んで悦に浸ると次は部長の小説を探す。
確かいつもの純愛物の作品とは変えた三角関係を題材とした内容だとかなんとか。
部長の書く作品のことだからどんな内容でもきっと面白いだろう。けれどいつもと違うというのは別の意味でそそられる。
僕は部長の作品を見つけるとゆっくりと読み進めていった。
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