茶道部の先輩の話。
1
はじめまして。
私、鷹園雪(たかぞのゆき)と申します。一年生です。
今日は私の所属する茶道部にいる少し変わった先輩の話をしようと思います。
それがこの人、荒井理津さんです。
「……………………」
いつも無口で無表情。何を考えているのかさっぱりわかりません。
ですが、妙な魅力を持っていると思うのです。
まず、私が部活に行くと真っ先に先輩がいます。
私も負けじと早い時間に登校するのですが、まだ一度も先輩より早く部室に入ったことはありません。
「おはようございます」
「……………………ん。おはよう」
初めて先輩を見た時、私は驚きました。
あまりに可愛くて、本当にお人形さんなんじゃないかと思いました。
今日も先輩は可愛いです。
他の部員が入ってくると、先輩は他の部員の方々からものすごく褒められます。
「おはよう、理津。今日もかわいいな」
「おはようございます!いつも美しいですね、理津さん!」
私の思い描いていた茶道部とは少し違いましたが、これはこれでいいものです。
最後に顧問の先生がいらっしゃって部活が始まります。
「理津、すごいな。そんなことができるのか」
部活の先輩が理津さんの方を見て言います。
「……………………ん」
私が先輩の方を向くと、先輩はいつも何かすごいことをしているのです。
「今日はお手玉か。何個までできるんだ?」
「……………………七個くらい?」
「いや、充分すごいでしょ。私二個までしかできないわよ」
「それって両手でキャッチボールしてるだけだろ」
先日はけん玉。今日はお手玉です。
皆さん理津先輩が何を披露してくれるのか、毎回の楽しみになっています。
けれど、そんな先輩でもおちゃめな一面があります。
「先輩どうしたんですか?」
今日の部活が終わり、部員の皆さんが部室を出ようとしたときです。
先輩が珍しくいつまで経っても席を立とうとしません。
「……………………あし」
「足?」
「……………………足、痺れた」
先輩はそう言うと、足を横に崩してあまり動かさないようにしながらも自分の身支度をしようとします。
「あ、あのっ。私が手伝いま――――」
「理津。何やってんだよ。ほら」
私がどうこうするよりも先に理津先輩はいつも誰かが側にいます。
それがどうにも羨ましくて、微笑ましくて、私はつい先輩を目で追ってしまうのです。
2
「好きな先輩だったら、もっと話せばいいのに」
「そんなに単純な話じゃないんだってばぁ」
ある日の昼休み。
私はクラスの友達と一緒にお弁当を食べていました。
「…………じゃあ、どんな複雑な話なのよ」
「だって、私が話しかけても、その、退屈させちゃうかもだし」
友達の言葉に私は顔を俯かせます。
「でも、そんな先輩いたっけ?私あんまり文化部にどんな人がいるか知らないんだよねー」
「す、すごいんだよ!綺麗で可愛くて、落ち着きがあって!それでいて茶道の所作もすごく丁寧に教えてくれて!」
「ちょ、ちょっと、がっつきすぎだって」
私はつい自分が熱くなって、大きな声で話していたことに気づきました。
周りを見ると、クラスに残っている生徒の何人かと目が合いました。
「まあ、その先輩と仲良くなりたいんだったら、勇気をもって話しかけるしかないんじゃないの?」
「う、うん…………頑張る」
「「「ありがとうございました」」」
いつも通り部活が終わり、部員の皆さんは一斉に帰り始めます。
「よしっ」
今日は勇気を出して、先輩を誘ってみよう。もしかしたら一緒に帰れるかもしれない。私は思わず走り出しました。
「あのっ、先輩――――」
私の視線の先に映った先輩は、誰か他の男の人と待ち合わせをしていました。
いつもとは少し違う雰囲気の先輩はどこか浮かれていて、そんな顔を見られるその男の人はさぞ幸せなんだろうなと思いました。
3
部活に行くといつもの先輩がいない。
「……………………あの」
振り返ると先輩が立っていました。
「ああ、すみません!扉塞いじゃって…………あの、今日はいつもより遅いんですね」
「……………………うん、寝坊したから」
「寝坊ですか…………?よくするんですか?」
寝過ごすような人には見れないけれど、何か事情があったのでしょうか。
けれど、私がそう言うと先輩はくすくすと笑います。
「……………………思い出し笑い。気にしないで」
「は、はあ…………?」
私はますますわからなくなってしまいました。
「名前、雪ちゃんって呼んでもいい?」
「え……………………え!?」
私はそんなことを言われるとは思わず、驚きのあまり大声を上げてしまいました。
「……………………嫌、だった?」
「い、いえ!あのっ、雪ちゃんでお願いします!」
私が勢いあまってそう言うと、先輩はまたにこりと笑うのでした。
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