二学期 「文化祭編」

第31話 転校生が来た!?


 体育祭という二学期における二大イベントの内の一つが終わったことで、学校の雰囲気も落ち着くかと思ったが、そんなことはまったくなかった。

 

 文化祭。

 二大イベントのもう一つが直前にまで迫っていたのだ。

 

 有志の出し物をする際には、先だった手続きが必要になるし、部活ごとにできる活動も限られている。


 何かと慌ただしさを感じるのがこの九月中旬である。

 

 「おいおい、聞いたか?」

 

 辰海が教室に入るや否や、鼻息荒く声をかけてくる。

 近い、近いよ。


 「何かあったの?」

 

 「転校生だよ!てんこうせい!」

 

 「へえ」

 

 「お前、冷めてるなぁ。もっとないのかよ、こう」

 

 「何があんだよ。何もないよ。それで?うちの学年?」

 

 「いや、一年って話。今日顧問の先生が言ってた。一年の担任してるからさ」

 

 辰海の所属するサッカー部の顧問はまだ若いが、生徒の間でもそれなりに評判のある先生だ。去年までは三年生のクラスを持っていたが、今年からは一年生の学年主任を務めているらしい。

 

 「へえ、一年なんてまだ入学して少ししか経ってないだろ。随分急だな」

 

 今はまだ九月。一年生が入学した四月から数えても半年くらいしか経過していない。辰海もそこが気になっていたようで――――

 

 「そう!そこなんだよ、色々と問題の出てくる二年生ならともかく一年生が転校なんて、何かあるとしか思えないだろ?」

 

 「いやいや、何を期待しているんだよ。大抵そういうのはやっぱり同姓だった、とかでガッカリするんだよ。主にお前が」


 周りに興味を持つのは良いが、あまり深追いしすぎると後悔するのが世の常だ。

 

 「うーん。同性ってのはあまり期待したくないが、フィジカル強そうなら部活に勧誘すればいいしなぁ」 

 

 「いや、ポジティブすぎるだろ」

 

 

 「――――――藤巻先輩ってこのクラスですか?」

 

 「え?」

 

 教室の端、扉の前から聞こえた自分の苗字に思わず望はそっちの方を見る。

 すると、一人の女子生徒と目が合った。


背丈は女子にしては高めで、少し茶の混じった髪は、The最近の女子って感じで可愛げに結われている。

やけに新しい制服だと思った。

 

 「僕が藤巻だけど…………きみは」

 

 「先輩会いたかったです!」

 

 望が言いかけた言葉を遮って、謎の彼女は望に飛びついてくる。

 

 「え、ちょ、なに!?」

 

 胸の中に頭をこすりつけて、幸せそうに微笑む女の子。

 猫みたいなその行動に望の頭は真っ白になる。

 

 「望、いつの間に愛人を!?」

 

 「辰海、ふざけている場合!?ごめん、本当に誰だかわからない!」

 

 彼女を無理やり自分から引きはがす。

 よく見るとその制服は一年生を示していた。

 

 「凛、橘凛です。会えてうれしいです。藤巻先輩」

 

 彼女の名前は橘凛(たちばなりん)と言うらしい。

 辰海がこちらへ視線を向けるが、望は首を傾げるジェスチャーをする。

 名前を聞いた後でも、いまいちぴんと来ない。 


 「あ、いたいた。急に走っていかれると困るよ。まだクラスにも紹介していないんだから」

 

 「あれ、前田先生」

 

 辰海が反応する。

 廊下から走ってきたのは前田先生。先程話していたサッカー部の顧問。


 「ってことは?」

 

 「はい。今日からこの高校に転校してきました」

 

 望が視線を彼女に戻すと、女子生徒は察して説明してくれた。

 

 「先生、すみません。ついはしゃいでしまって、今度から気を付けます」

 

 「…………あ、ああ。そうしてくれ」


 こうもしっかり謝られては先生としても来てばかりの転校生に強くは言えないだろう。先生は視線をこちらに向ける。


 「それで辰海に藤巻。お前らはどうしたんだ?」

 

 「実はこの転校生、望の知り合いみたいなんですよ」

 

 「ええ!?ちょっと、辰海?」


 まだそうだと決まったわけじゃないんだが?というか全然見おぼえないし。  

 しかし、それを真に受けた先生はあからさまに口角を上げる。


 「そうか!それは助かる。ぜひ仲良くしてくれ!」

 

 先生は喜んで、しかもお願いまでされてしまった。

 

 「いや、僕は…………」

 

 「仲良くしてくださいね、先輩?」

 

 逡巡したところに彼女からの追い打ちがかかる。

 そのまま先生に連れられて、クラスの元へと行ってしまった。

 望と辰海は教室の外で立ちつくす。


 「で、誰なんだあのこ?明らかに望を知っている感じだったぞ?」

 

 「でも、本当に知らないんだよ。どこで会ったんだろう」

 

 望の最近の記憶を振り返ってみても、それらしい心当たりはない。

 あんな活発な子、一度でも会えば忘れるはずがないんだけどぁ。

 

 「ま、相手の思い違いって線もなくはないけど、限りなく薄いよな。望のこと元々知っているみたいだし」

 

 でも、辰巳は続ける。

 

 「今日のこと理津にはバレないようにしとけよ」

 

 「え、なんで?」

  

 「噂の転校生が望と知り合い何てことがバレたら一大事だぞ。それも相手はピカピカの一年生。これは修羅場待ったなしだ」

 

 「そう、かなぁ」

 

 あんまり、理津と修羅場になる想像ができないんだけど。

 

 「少なくとも今は、片方はともかく同時にエンカウントするのは避けたほうが良いと思うぞ」

  

 「まあ、大丈夫だよ。相手も何度も会いに来ないって」

 望は謎に自信ありげに言った。

 


 と、思っていた時期が僕にもありました。

  

 数日後。

 

 「今日から文芸部に入りました橘凛です。よろしくお願いしまーす!」

 

 いつもの活動場所である図書室に見慣れない人がいた。

 というか、転校生だった。

 

 「ええ!?部長?どういうことですか?」

 

 「聞いての通りだ。彼女には今日から部活に参加してもらう。転校してすぐにうちの部活を選ぶとは中々いい目をしている」

 

 「節穴だらけだよ!」

  

 『あ、新しい後輩か…………いいな』『少し生意気な雰囲気が良い、すごくイイ』『なんて呼べばいいかな…………?』

 

  くそぅ、この部活には変態しかいないのか…………。

 

 「何だ副部長。まさか反対意見でもあるのか?」

 

 「ありますよ!おおありです!第一、本当にこの部活に入るんですか?まだ活動内容も説明していないんじゃ」

 

 「舐めてもらっちゃこまるよ副部長。君にはこれからこの部活を背負っていくんだから」

 

 いらっとする言い方だなぁ。

 

 「それに彼女はきちんとこの部の活動内容は把握しているようだぞ」

 

 そういって、部長は凛に目で合図する。

 

 「ええっと、文芸部って小説書いて部誌を出したりする部活動ですよね?」

  

 「そうだ。その通り」

 

 「あと、ゲームをしたり、部長の無茶ぶりに付き合わされる、が入りますけどね!」

 

 これはまずいことになった。

 まさか辰海の指摘がこうもドンピシャで来るとは。

 

 「部員の皆は彼女の入部を歓迎しているようだがね。君だけだぞー、新一年生を歓迎できていないのはー」


 部長がジト目でこちらを見つめてくる。

 それに便乗してか他の部員も続く。 


 「うっ…………ああ、もういいですよ!入ればいいでしょ!入れば!」

 

 ここまでやられちゃ何も言えない。望はうなだれるようにしてため息を吐いた。


 「改めて、よろしくお願いしますね、望せーんぱい?」


 望の二学期はまだまだ波乱の展開をしていくようだ。

 

 

 

 

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