第25話 本番①

 「さあ、始まりました体育祭!!!!!グラウンド状態良、天気は晴れ、選手の活気は順風満帆!実況はわたくし、馴乃宮実子(ナレのみや みこ)が担当いたします!」

 

 放送の音が響き渡り、その後ろでは競馬のファンファーレが流れている。

 だれだ、このチョイスをしたやつは。

 

 「随分、気合の入った放送部員だね」

  

 望は応援席から見える放送席を見て言う。


 「まあな、うちの校長が力入れているみたいだよ。競馬好きだし」

 

 「校長の差し金かよ……」


 まぁ、あの校長競馬好きそうだけど。


 「去年もこんな感じだっただろ?覚えてないのか?」


 辰海が目を丸くしながら言う。結構有名な話らしい。 


 「いやまあ、元々体育祭とかあんま興味なかったからさ」

 

 一年生の頃の体育祭はあまり記憶にない。

 でも確かに実況解説が、やけに好評だった気がする。 


 「…………それに、体育祭ちゃんとやるなんて中学校までだと思ってたから。まさか高校でやるとは思わなかったよ」

 

 「それはわかる。けど、それが気に入ってこの学校来るやつもいるらしいぞ」


「へぇ。確かに、人によっては魅力かも」


他と違う。

それは別の誰かにとっては、とても素晴らしく見えるものだろう。


「それで?僕達の第一種目は?」


「玉入れだな。っと、招集やってるから行こうぜ」


 あっという間に時間は過ぎて、体育祭当日となった。

 開会式も終わり、丁度一種目目の三年男子の徒競走をしているところだ。

 

 校庭を見渡してみると、設置された主に学生が使用する放送席・応援席の他に保護者や学校関係者のスペースもあり、ちらほらと入ってきているのが見える。

 

 「高校からなんだな、予行練習しないのって」

 

 「ま、確かにそだな」

 

 

 紅白門には次の出番を待ち望む二年生の男子が整列している。

 っといっても、雑な並び順だ。係りの指示がなければ自分がどこにいるべきか把握していない者も多いだろう。とりあえずクラスのやつらと固まっている者もいる。


 「続いての競技は二年生男子による『玉入れ』!!ただの玉入れと思われる方もいるかもしれませんが、今回の玉入れは一味違います!数多くの玉の中には点数の高い玉もあり、競技をより楽しく進めていただきたいと思います」

 

 放送部員が場を繋いでいる間に二年生たちは指定の位置に入場する。

 

 「ここからは解説の竜胆さんと一緒に実況させていただきます。竜胆さんよろしくお願いします」

 

 「よろしくお願いします」

 

 放送席から男子生徒の良い声が校庭に響き渡る。ほんとそんな人材どこから見つけてくるんですかね…………。

 

 「さ、競技がスタートしました!ルールはいたって簡単、それぞれに設置された玉入れに赤白の玉を入れていただきます。小鳥遊さんこの競技のポイントはどういったところでしょうか?」

 

 「そうですね。実際玉入れの高さは3メートルなので、いかに効率良く一度に多くの玉を入れるかがポイントになると思います」 

 

 「えー、只今の状況ではほとんど同じくらいでしょうか。少し4組が優勢な気がしますが、まだまだ始まったばかりです」

 

 放送席が白熱している頃、まさに玉入れに取り組んでいる望達といえば、

 

 「予想以上にきつい!!」

 

 この競技予想以上に上下の運動が激しい。

 玉を投げるにしても手を伸ばし、視線を上に向けねばならないために体全体を使う必要があるのだ。

 

 「辰海、あとどれくらいだ?大分入ったと思うけど!」

 

 望はひたすら地面に転がる玉を拾い集め、一つにする作業に徹している。

 それを辰海が勢いよく投げ、入れる算段だ。

 

 「点数の高い玉が全然見当たらねえ!ほんとにあんのかよ!」


 辰海が言うのも納得で望が拾ってきた玉はいずれも同じ色のものばかり特別な玉がどのようなものかわからないが、このままでは勝ちは厳しいだろう。

 

 「どこにあるんだ!?」

 

 望はきょろきょろと校庭を見渡す。

 その中にひときわ他の玉とは違った輝きを放つものを見つける。

 

 「あれ―――――――かな?」

 

 「いけ、望!!」

 

 望はその玉を拾いあげると、勢いよく自陣の玉入れに放り投げた。

 

 「いけええええええ!!!!!」

 


 「ええ、試合終了。お疲れさまでした。では玉入れの集計結果を発表します」

 

 馴乃宮さんが淡々とした口調で得点を発表していく。

 

 「1組38点、2組54点、3組40点、4組62点、5組22点、6組37点、7組60点、8組35点」

 

 「ですが、2組には一つしかない点数20点の玉が入りましたので、これを換算合計74点2組の勝利となります」

 

 その瞬間、2組の男子からは喜びの声が聞こえた。

 

 「にしても竜胆さん。点数の高い玉とおっしゃいましたが具体的にはどの玉が点数の高い玉だったんですか?」


 「それはですね、ひとつだけある金色の玉です。これぞ本当のゴールデンボールです。素晴らしいですね」

 

 「私はそのネタを提案した実行委員のギャグの寒さに一言申し上げたいですが…………。ひとまず皆さんありがとうございました。選手の皆様が退場します!」

 

 

 




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