第17話 プール日和②。

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 「さあて、まずはどこから行く?」

 

 「どこにしようかな。結構広いし、迷うね」


 辰海の問いかけに望が答える。

 この施設の広さはかなりのもので、アトラクションだけでもかなりの数がある。

 

 「ベタなウオータースライダー、流れるプールもありだな、あとは波のりエリアも…………」 

 

 「ああ、もう!普通に全部回ればいいでしょう?」

 

 頭を悩ませる辰海であったが、沙也加の一言で一蹴された。

 


 「――――にしても、このウォータースライダーでかいな」 

 

 望の声に他の三人もそれを見上げる。

 

 「確かに」

 

 「でかいわね」

 

 「……………………ん」


 四人が最初に訪れたのは定番のウォータースライダー。

 この施設でもひとつの目玉として紹介されている通称―――サンダースワロウ。

 しかしその名は伊達ではなく、全長三百メートルの長さを誇っている。

 

 階段を上り頂上に着くと、係員が指示を出して客を次から次へとスライダーの中に乗せていっていた。

  

 「じゃ、先に行くぞ!」

 

 すぐに望達の番になり、辰海、沙也加の順に入っていく。

  

 「僕たちも行こうか」

 

 「……………………ん」

 

 理津の手をとって望はスライダーの端に掴まる。下には水が流れていて、手を離せばいつでも出発できる。 

 

 「理津、行くよ」

 

 「…………………ん」 

 

 望にしがみ付く理津に合図を取ると、掴んでいた手を離す。すると、段々とスピードを上げて二人は滑り落ちていった。

 

 「うわああああああ!!!!!!」

 

 「……………………!!!!!」

 

 かなりの勢いで下っていくスライダーに思わず叫ぶ望。


 むにゅ。

 

 「……………………いいい!?」

 

 背中に感じる豊満な胸の感触が望の思考を奪う。

 理津はというと、目を瞑ってしがみついているせいか自分が力強く押し付けていることに気づいていない。

 

 「ちょ………、理津っ!」

  

 「……………………っ」

 

 二人を乗せた、水流はどんどん加速していく。

 

 むにゅむにゅ。

 

 押し付けられる胸と流される自分に感覚がおかしくなってくる。

 

 ―――――――ーあ、だめだこれ。

 

 ザブン!!!!!!


 トンネルを潜り、光が差し込んだ瞬間、望の視界はいきなり水中に引きずり込まれる。


 「ぷはっ、大丈夫か理津?」

 

 「……………………(ぶるぶるぶる)」

 

 長い水の旅が終わり顔を出すと、理津が犬みたいに水を払っていた。 

 

 「どっか痛いとことかない?」

  

 「……………………(キラキラ)」

 

 「そっか」

 

 楽しくて、もう一回乗りたいみたいだ。

 良かった。

 

 今回、理津がプールに行くことができたのは、この施設が屋内プールであることが起因している。

 本来強い運動のできない理津はプールはもちろん他のスポーツもすることができない。

 

 けれど、今が夏休み期間であるということと望が付いていくということで理津の両親が了承してくれたのだ。

 

 それでも、こまめに休憩をとる必要があるし、泳ぐとかはだめだ。

 

 「理津が楽しそうで嬉しいよ」

 

 「……………………?」

 

 「さ、行こう。もう一回乗るんだろ?」

 

 よくわからず首を傾げる理津の手を取って、望は辰海たちの待つ方へ、引っ張っていった。



 望は今、無になっている。

 水中の流れに、ただ身を任し全身の力を抜いていく。

 

 視界には屋内プールである天井が移り、うっすらと太陽の日が見える。

 

 「……………………」

 

 二人が今いるのは流れるプールだ。

 プール内に一定方向の水流が流れ、体を預けるだけで少しずつ流されていく。


 理津は、浮き輪でぷかぷかと漂っている。

 どことないマスコット感のある雰囲気が可愛い。


 「理津ぅ、大丈夫かー」

 

 「……………………♪」

 

 「さいですかぁ」

 

 二人仲良くプールの上を漂う。

 おのずと力が抜けてしまう。

 

 「よし、理津。浮き輪押してあげるよ」

 

 「……………………ん」

 

 望は地に足を着き、浮き輪を後ろからゆっくりと押してやる。

 水の流れと望が押したことで理津の浮き輪は少しずつスピードを上げていく。

 

 『ねえねえ、ちょっと聞いてほしいんだけどさ』

 

 「……………………ん」

 

 その時、誰かの会話が理津の耳にどこからともなくと届いた。

  

 『最近、彼氏に振られちゃったの。それもひどくない!?体重が重すぎるからだって、私平均体重なのに!』


 『ええええ?何でえ、それって彼氏が細い女の子が好きってこと?』 


 流れるプールのせいでどこからのものだかわからなかったが、その二人の女性の会話に理津は耳を傾けていた。

 

 『それで、元々好きだった子がいるとか、そんなことばっか言われて…………』

 

 「……………………っ!」

 

 「ん?」

 

 

 『ありえなくない!?それにもうその子と付き合ってるみたいなの!』

 

 『ええ!?』

 

 『あんたも付き合ってる彼氏にいきなり振られちゃうかもよー』

 

 『ちょっと、変なこと言わないでよ!』

  

 「理津、どうしたんだ?」

 

 その瞬間、乗り出した望の手が微かに理津の脇腹に触れた。

  

 『振られちゃうかもよー』 

 

 理津の頭の中で先ほどの誰かの言葉がフラッシュバックする。

 

 「……………………っ!?!?!?!?!?」

 

 「ちょ、暴れないで理津!落ちるから!」

 

 急いで体を動かし、浮き輪の上から離れようとする理津に望は驚く。

 

 

 「はあ…………はあ、はあ。本当にどうしたの?いきなり降りようとするなんて」

 

 なんとか理津を連れ出してプールサイドに避難させたのだが、そのせいで二人ともくたくただ。当分プールには入れないだろう。


 「……………………(ぷにぷに)」

 

 「ん?」

 

 理津は望の質問は聞こえてないのか、自分のお腹をつまんで伸ばしている。


 「……………………(きょろきょろ)」

 

 と、思えば今度は辺りを見渡して、自分のお腹と比べている。

 

 「もしかして…………自分のお腹が気になるの?」 

 

 「……………………っ!?」

 

 そこまで見ればさすがに望も感づく。

 

 「……………………振られる」

 

 「え?」

 

 「望に振られる」

 

 瞳を涙で濡らした理津がこちらを覗く。

 

 「いやいやいや!?え、理津を振る?僕が?ないないないない!大丈夫!大丈夫だから!」

 

 もうとんでもない慌てようで、彼女の元まで近づく。

 

 「……………………ほんと?」 

 

 「本当だよ。それにこんな可愛い彼女、ほっておくわけないでしょ?」 

 

 望は理津に跪くと、その目元に溜まった涙を拭ってやる。

  

 「……………………ん。わかった」

  

 理津は望の方を見ると、その顔を綻ばせて、安心したように笑う。

 

 「……………………望。ありがと」

 

 ちゅ。

 

 その瞬間、理津の小さな唇が望の唇に重ねられる。

 

 



 「あれは、何?甘々な電?」

 

 「いや、あれはイチャラブ爆弾だよ。今投下された」

 

 「そっか」

 

 そんな二人をいつからか、遠くから見守る辰海と沙也加であった。

  

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