第15話 過去編2
「…………………見つけた」
無機質な声が聞こえてきて、僕は飛び上がった。
「あー、また見つかっちゃった!りつちゃんかくれんぼ強いね!」
近くの公園に来ていた理津と望は、かくれんぼで遊んでいる。
この公園はあまり広くない面積の中に結構な種類の遊具が置いてあり、二人のお気に入りの場所となっている。
「…………………ん」
「え?次は僕?絶対無理だよ。りつちゃん隠れるのも見つけるのもうますぎて見つけられないよ」
彼女の目を見て、僕は答える。
二人でやるかくれんぼにも限界があり、どちらかが必ず鬼と逃げを担当しなければならず、別ゲーム感がしてしまうのだ。
「…………………見つけたらプレゼント」
「え、ほんと!?なになに!?」
プレゼントという響きに目を輝かせる僕。
「…………………見つけたら、教える」
「うん!わかった!約束だよ?」
すっかりりつちゃんに乗せられてやる気満点。
腕なんか回して準備運動。
「じゃあ、数えるよ!いーち、にーい、さーん、」
目を閉じると視界は真っ暗になり、音だけが聞こえる。
りつちゃんは僕が目を閉じたのを確認して、静かに動き出す。
「―――――にじゅうはち、にじゅうきゅう、さんじゅう!よーし、頑張るぞ!」
全部で三十秒数え終わると、僕は目を開けて歩き出す。
この公園で隠れられるところは限られているし、難しいところは理津ちゃんが良く隠れるのでほとんどわかっている。
「―――――あれっ、りつちゃん見つけた!」
望が目を開けてすぐのところ、ジャングルジムの物陰に理津は隠れていた。
「…………………見つかった」
りつちゃんはワンテンポ遅れて顔を出すと、とてとてとこちらへ歩いてくる。
初めて自分が彼女を見つけられて本来なら喜ぶところなのだが、望の胸中はそれよりも疑問があった。
「そんな簡単なとこにいたらすぐ見つかっちゃうよ?いつもならもっと難しいところにいるのに」
いきなりのイージーゲームにわけがわからず、彼女に聞いてみる。
いつもなら遊具の傍じゃなくて公衆トイレの裏とか木の隙間なんかに隠れては、鬼の望がギブアップするパターンなのだが、今回は違った。
りつちゃんは僕の質問には答えずに近づくと、
「見つけたから、プレゼント。…………ちゅ」
彼女はそう言って口づけする。
「……………交代。今度は私が鬼、見つけたらプレゼント」
「何がもらえるのか、楽しみ」
今までのかくれんぼにひとつ要素が加わっただけで、全然違うゲームみたいになった。僕は今まで以上に必死で隠れるようになったし、見つけるのも全力で探し回った。
けれど、りつちゃんは僕がどんなところにいても見つけ出して、かくれてしまう。
「また、見つかっちゃった」
これで望が見つかるのは四回目。
「………………じゃあ、今度のプレゼントは、望のほうからキス」
「うう、でも…………」
「はやく、はやく」
可愛さ全開で催促してくるりつちゃん。
「わかったよ。んちゅ」
僕は迷いに迷って、りつちゃんにきすした。
「…………………ん、ほっぺ?」
「今日は、それがげんかい…………」
僕はりつちゃんの頬に口づけをする。
いつもならマウストゥマウスなのだが、自分からとなるといかんせん恥ずかしい。
「…………ふふ、でも嬉しい」
りつちゃんは僕の手を取って、走り出す。
優しく包まれた手のひらが段々と熱を帯びていく。
「…………今日は楽しかった。また来ようね」
「う、うん」
今日のりつちゃんはなんだかテンションが高くて。
結局、「何かいいことでもあったの?」と聞く僕の質問に彼女は答えなかった。
正確に言えば、答えてはくれていたけれど、彼女の言う答えはどうにも僕には納得のできるものではなかった。
それだったら、いつもと同じじゃないか、と。
「…………望と一緒にいるから。楽しい」
無口・無表情幼馴染でもはしゃぎたくなる時くらいあるのだ。
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