第14話 突然の訪問②
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「ほほう、ここが副部長の住む家かぁ。中々に趣深い」
「そんなに見ないでください。…………軽蔑しますよ」
「どぅえええええ!?」
家に通したものの人を招き入れる準備をしていたわけではないので、とりあえずリビングの方にいてもらう。自分の部屋か悩んだが、部長がろくなことをしないと思ったのでやめた。
「あまり種類はありませんが、ジュースとお茶どっちが良いですか?あとコーヒーもありますけど」
望が聞くとリビングのほうから「ジュース!」「私はコーヒーをもらおう」と聞こえてきた。
「それにしてもこんな暑い日にわざわざ家まで来なくても良かったのに」
そう言いながら二人の前にグラスを置く。
まあ、半分は皮肉だ。
「それについては私から話そう。文芸部のLINEで伝えることも考えたのだが、直接言った方が確実だと思ってな」
「はあ…………」
僕も腰をソファに下ろし、二人と向かい合う形に座る。
どうやらかなり訳アリの話のようだ。
「さっそく本題だが、文芸部内での三年生を送る会の企画を君にしてほしい」
ふむ。
「―――――部活の皆なら自分から言わなくても企画しそうですけど」
僕は思案を巡らせながら答える。
この部活に先輩のことを嫌に思っている人はいない。それどころか尊敬しているだろう。そんな彼らなら自発的に三年生に対しての会の一つや二つ、企画してもおかしくはないと思うのだが。
「それなら良いんだが、確実なものにしたくてね。こちらが楽しみにしているのに何もなかったら悲しい。それに君が企画してくれるなら真夜も喜ぶ」
「そうですか?…………わかりました」
別段断る理由はない。
それどころか望が彼女に言われずとも誰かが企画していたと思う。
「真夜も大変なんだな。これは」
「うう、何も言わないで」
望の言葉に相川先輩はなぜか僕を遠い目で見ると、今度は部長に同情の言葉をかけている。
「でも、それこそ文芸部LINEでもよくないですか?他の部員も見ていることですし」
質問をぶり返すようだが、望は改めて聞いた。
特に文句があってのことではないが、いつになく積極的な先輩方は何か考えがあるのだと思ったのだ。
望の質問に相川先輩は一度逡巡した後で、少し気まずげにいった。
「それはな、こういうことを自分達から言い出すのは本人としては恥ずかしいものなんだよ」
「そういうもんですか」
「そういうものだ」
でも………、と僕は続ける。
「なんというか、先輩にもそういうところがあるのは新鮮ですね。知りませんでした」
「変だと思うか…………?」
その言葉に相川先輩は、恥ずかし気に顔を俯かせた。
「いえ、可愛らしいと思いますよ」
「なっ!君からの申し出は嬉しいが私にも彼氏がいてな」
一瞬にして、クールな顔がトマトみたいに赤くなる。
こうしてみると先輩も女子なんだなと思う。
「いや、そういう意味ではないです」
さすがに告白と受け取られてはいけないので、すぐさま否定する望。
理津に聞かれでもしたら怒られそうだな。
「うっ、そ、そうか。失礼した」
なんでちょっと残念そうなんですか。
相川先輩は顔を逸らすと視線をきょろきょろさせながらバツが悪そうに答える。
「君はあれか、自分の好意の外の人間には躊躇なくそういうことが言えてしまうタイプなんだな(これでは真夜がかわいそうだ………)」
「はい…………?」
最後の方はうまく聞こえなかった。
何か悟った風だったので特に追及はしなかったが。
「そういえば明日は部活ですね。先輩方は勉学に専念しなくても良いんですか?」
「うむ、まあ部活くらいの時間は割くさ」
静かにこちらを見つめる先輩の瞳はどこか寂しさを孕んでいる。
「文化祭で私たちは引退だからね」
相川先輩が寂し気に笑う。
そうだ。
三年生の先輩方は文化祭を最後に本格的な受験勉強に切り替わる運動部ともなれば、その時期はさらに早いだろう。
現に相川先輩はバレー部を夏休み前に引退している。
「私は特に満足に顔を出していなかったからな。今回くらいはきちんと皆にあっておきたいんだ」
「そんな風に言われたから、断れませんよ。ぜひ来てください。みんな待ってますから」
「君は本当に良い後輩だな」
慈母のような瞳で彼女は僕を見る。
きっと、相川先輩の彼氏さんはこういうところに惚れたのだろう。
「私を置いて行ってはないかーい?私だって先輩なんですが」
一人置いていかれた部長が寂しそうに、ぐいっと、相川先輩に近づく。
「あー、はいはい。今までお疲れさまでした先輩」
「君は本当に生意気な後輩だよ!?」
部長の叫びが家に響く。
いつも通りの対応をする望であったが、先輩達との時間が段々と少なくなっていることも自覚していた。
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