第12話 勉強会は突然に
「ええ!この前やった模試、理津学年七位だったの!?」
廊下に張り出された順位表を見て、沙也加が言う。
学校で行われる定期テストに関しては順位を貼りだすことはないのだが、うちの高校では全国模試の順位、それも上位者のみを発表することになっている。
「へへ、すごいだろ」
「なんであんたが誇らしげなのよ」
間髪入れずに望にツッコみを入れる。ちなみに望の順位は真ん中よりちょい上くらい。
「でも、ほんとすごい!一年生の時から理津は頭が良かったけど最近は特に良いんじゃない?」
「…………………ん」
二人から熱烈に褒められて、理津は思わず恥ずかしげに顔を俯かせる。
「あ、そうだ。どうせならこの後勉強会でもしない?来週は期末テストだしさ」
ということで、勉強会が企画されたのだが。
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「なんであんたがいるのよ」
「酷くない!?久しぶりの四人なのに!」
開口一番のセリフに辰海が叫ぶ。
望、理津、沙也加、辰海の四人で勉強会をすることになった。
「そういえば、この四人が集まるのも一年生の時以来だね」
「…………………(こくこく)」
望が言うと、それに応じて理津が頷く。
望、理津、辰海、沙也加は一年生の時には同じクラス――――1年5組だった。
「沙也加だけ別のクラスになっちゃったからなぁ。かわいそう」
「別にかわいそうじゃない!」
辰海と沙也加の言い合いを見ているとなんだか少し懐かしく思えてきた。
「教室が空いてなければ図書室に行くことができたのに残念だなぁ」
「そしたら、望が普段どんなところで部活動しているかも見れたのに」
話を変えて、それもわざとらしく辰海が頬杖を付きながら言う。
それに便乗して沙也加も続いた。
提案として図書室で勉強をするのが出たのだが、望はそれに反対した。
「そんなの暇なときにくればいいだろ?それに僕たちが言ったってうるさくなるだけだ」
「いーや、そんなことないね。こちとら進級がかかってるんだそうやすやすと騒いだりしない!」
「辰海はまっさきにその心配をしろ!」
そんなやり取りを繰り広げる望だったが、反対したのは騒ぐ騒がないが問題ではなく、単に癖の強い文芸部部員とこの三人がどんな化学反応を起こすのか予想のつけようがなかったからだ。
「それで、もしここで勉強して、望が言うように騒がしくならなかったらどうするんだ?」
「いいよ。その時はジュースでも奢って図書室でもなんでも行ってあげるよ!」
「言ったな?」
にやにやとしたり顔をしている辰海には悪いが、今回ばかりは負けはないと言っておこう。こうした真面目な空間で理津や僕がふざけたことなぞ一度もない!
沙也加も勉強のできないタイプではないので、一度集中のスイッチに切り替われば問題ないだろう。
こうして勉強(大)会が開始された。
各々がやるべき教材を出して取り組み始める。
二年生期末考査の日程は文系・理系と分けられてはいるが、主となる教科は同じだ。
理津は早くも自分のペースで地学のワークを解き始めているし、沙也加も数Ⅱの教科書と睨めっこしながら頑張っている。
かくいう辰海はというと…………。
「なあ、辰海。開始早々僕の決意を鈍らせるのはやめてくれ。なんで単語から手を付ける?」
望が思わず口を挟んでしまったのは辰海のもつ英単語帳。
「あれ、なんかまずかった?」
「単語は合間の時間でできるだろ?それなら他の教科だったり、苦手なものから手を付けたほうが良い」
「確かに。なるほどなるほど」
「なんか調子狂うなぁ」
これはあっさり勝ちか?
「ねえ、理津。この問題教えてほしいんだけど…………」
向かいの席では、沙也加が分からない問題を理津に聞いている。
「…………………」
けれど、
「望。通訳」
「ええー、無理だよ。自分の言葉でならともかく難しい問題とかになるとまず僕がわからないから説明のしようがないし」
理津が沙也加に教えようとしても教科書の要点とワークの問題を照らし合わせて指を差したり、単語を喋るだけなので沙也加本人としては何をどうすればいいのかまったくわからないのだ。
「まあ、理津は昔から教えるのが下手だったからね」
あはは………、と望は過去の記憶を思い出してひとりでに笑う。。
「でも、そこなら僕でも教えられるかも」
机を挟んで身を乗り出すと、望はワークを見ながら言う。
「ほんと!じゃあ、教えて」
「えーと、ここはね。ここの公式を使って…………」
「うんうん」
望は沙也加のわからない部分を的確に教えていく。
沙也加自身も今まで理解できずにいた解き方がわかり、二人の距離は段々と近づいていく。
「…………………(じい)」
「ひゅー、熱々ですなぁ」
二人の姿を理津がじいっと、見つめていることに望は気づかない。
「それで、最初に求めた式を代入すると――――おお!!!!!」
「どうしたの、望?」
「い、いや、何でもない」
突然の大声を出した望に沙也加が疑問符を浮かべる。
「は、話を戻すね。代入した後で―――ええ!!!!!?」
「もう、なに?どうかしたの?」
「いや゛、気にしないで」
たまらず理津の方を見やると、理津は黙々とワークを解き進めていた。
(理津うううううう!!!!!)
僕は心の内で叫ぶ。
先ほどから理津は、靴を脱いでは足で僕の足を触ってくるのだ。
今日は珍しくタイツを履いているせいか、すべすべの生地がいきなり足を局所的に刺激してきて、思わず声が大きさが狂ってしまう。
理津の足は小さくて、少し熱い。望よりも体温が高くて、触られているとその部分の感覚が余計鮮明に感じられる。
「ほんとにどうしたの?」
「ちょっと、ごめん」
本気で心配してきてる沙也加に一言詫びを入れて、僕は素早く視線を机の下に下げる――――が、向かい側に座る理津の足元は特に不自然な点な見受けらなかった。
「いや、いいや。続きを喋ってもいい?」
「うん」
「ええっと、どこまで言ったっけ。そうだ、したらこの式と二つ目の式でええええええええ!!!!」
「理津、何やってんの!?」
僕はたまらず叫んだ。
「…………………」
「ん?」
僕と様子が気になった他二人も理津を見る。
けれど、先ほどまでいた位置に彼女の姿はなく、すると机の下から顔を出した理津が消しゴムを手に持って見せてきた。
「ああ、消しゴムを拾ってたのね」
「いやいや、明らかに違かったでしょ!?実際何やってたのかはわからなかったけど」
確かに声の大きさがバグるくらいの衝撃があったのだが、机の下で理津が何をしていた、までは感覚ではわからなかった。
「というかさ―――――」
と、辰海が一旦区切っていった。
「望が一番、うるさくない?」
「…………………」
この後、僕は三人にジュースを奢る羽目になった。
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