第6話 球技大会
1
来る球技大会当日。
天気予報通り、見上げれば快晴が広がる絶好の球技大会日和となった。
前日に一年生の球技大会が終わり、今日の午前中は三年生が行う関係で二年生の出番は午後からとなる。
男子はサッカーとバスケットボール。
女子はドッヂボールとバレーだ。
それぞれ各クラス対抗で行われ、最終結果は各種目の順位点数で総合優勝が決められることになる。
昼休憩を終えると、各自着替えを済ませ各々の集合場所に向かう。
「一応だけどさ、うちのクラスってサッカー強いの?」
望は準備体操をしながらサッカー部所属である辰海に話しかける。
正直、どのクラスの誰が強いかももわからない。
「トーナメント表にもよるけど、まあ最下位ってことはないんじゃないか?一応、部活入っているやつもそこそこいるし」
望たちのクラスは二年二組。
全部で八クラスあるので、最後まで勝ち進めることができれば全部で三試合することになる。そこに三位決定戦を含めて行われる。
「にしても、こうサッカーだけグラウンドっていうのは味気ないよな。応援来るのか?」
望がグラウンドの方を見渡すが、そこに広がるのはただの砂地とサッカーゴールのみ。他種目はいずれも体育館や屋内で行われるので、既にアウェーな雰囲気がある。
「まあ、あるあるだ。バスケなら反対コートに女子がバレーやってるから帰宅部の奴らも多少やる気をだすんだが…………これじゃあなぁ」
よし、と準備体操を終えて屈伸の姿勢から立ち上がる辰巳。
「でも、決勝まで残ればさすがに応援に来てくれるだろ。頑張ろうぜ」
「おう!」
男子サッカー。試合開始。
2
沙也加がバレーの初戦を終えたところで、後ろからひんやりとした感触があった。
「あれ、ありがとう」
「…………(こくこく)」
振り返ると理津がスポーツドリンクを持っている。さながらマネージャーだ。
「そっか。理津はバレーの手伝い?」
「……………………うん」
「大変じゃない?大丈夫?」
「……………………うん。準決勝までで、終わり」
理津は見学ということもあって前半は女子バレーの試合の準備や先生の手伝いをしていたのだが、残りは好きに見て回っていいことになったのだ。
「そう。じゃあ、彼氏の応援しないとね」
「……………………ん」
(この表情は、恥ずかしがってる?か、可愛い!!)
相変わらず理津に甘々な沙也加であった。その甲斐もあってかこのあと準決勝にコマを進めるのであった。
3
「これって、結構勝ち進んでる?」
「結構どころか決勝行くだろ」
タオルで汗を拭きながら、辰海に聞くと真顔で答えられた。
「無我夢中だったから勝ってる実感なかった」
ほとんどサッカーへの知識がない望にとっては、試合の運び方も分からなければ、広いコートのどの位置に陣取れば良いのかすら分からない。
よって、必然的にボールを追いかけ回すことしか出来ないのだが、予想以上に体力を使う。
「未経験者でそこまでできれば頑張ってるほうだよ」
辰海はもう一度、靴紐を結び直して言う。
経験者がチームにいるだけでなんでここまで安心感があるのか。頼もしすぎる。
二年二組のサッカーチームは辰海や他のサッカー部員の活躍もあって、何とか決勝にまで上ることができた。
そのせいで他の種目がどうなっているのか全然わからないけど。
「相手は七組だ。あっちにもサッカー部員がいるけど、やることは変わらない」
いつになく真剣な表情で辰海がチームメンバーに語りかける。
「これまで通り、パスを繋いでゴールを決める。簡単だろ?」
「「「「あはは…………」」」」
グッドサインでポーズをとると、辰海は笑う。
チームメイトも辰海のテンションが移ったのか、張りつめていた緊張感も良い感じに解けた。
「あとはちゃんとカバーするよ。よし、行くぞ!」
「「「「おう!!!!!」」」」
「それでは、始めてください!」
審判の合図でゴールキックが行われた。
サッカー決勝、開始。
4
「ねえ、理津の彼氏全然活躍できてないけど、運動できるって話じゃなかった?」
沙也加はグラウンドの方を見ながら、横に座る理津に話しかける。
「…………………どうだったの?」
「ん?ああ、私?バレーは何とか頑張ったけど二位。やるでしょ?」
二人目が合うと、沙也加は両手でピースサインをとって微笑む。
グラウンドの方を見ると、先程から何度かミスをしながらクラスメイトに謝る望の姿があった。
何も下手ってわけではないのだが、沙也加の印象と理津から聞くイメージとは違って見える。
(大丈夫かしら…………まさか愛想が尽きたなんてことはないだろうけど、彼氏の失敗してる姿見たらがっかりするんじゃ…………)
「…………ふふ、むふふふふふ」
「え、なんか、怖い」
体操座りをしながら、全視線を自分の彼氏に注ぐ彼女の姿がそこにはあった。
(理津がいつもは見せたこともないような顔ですごいにやにやしてるし!!)
「…………望は、球技は苦手」
「あ、そうなの」
意外だったのは望が球技が苦手と言うことではなく、理津の口からそんなことを聞くのが初めてだということだ。
(まあ、でも…………)
「頑張っては、いるわよね。理津の彼氏」
それが沙也加なりの精一杯の誉め言葉だった。
確かに望のサッカーの技術はお世辞にも褒められたものではないが、それでも最後まで諦めずに取り組む一生懸命な姿は見ていて清々しさを感じさせるものである。
「……………………うん」
理津はただ一言頷くだけだった。沙也加の方は見ずにただグラウンドの彼方を見つめている。
(恋する乙女にはどんな姿もかっこよく映るのかしら…………)
ピーーーーーーーー!!!!
試合終了のホイッスルが鳴り、グラウンド中に響き渡る。
「「「「よっしゃああああああああ!!!!!!」」」」
その直後に聞こえる男子の雄叫びがホイッスルの音を掻き消す勢いで轟いた。
「勝った!勝ったじゃない望!」
興奮の雰囲気に当てられて、鼻息を荒くしながら喋る沙也加。
「むふふ、むふふふふふふ」
「その顔、望の前じゃ見せられないわね」
それ以上に興奮している理津を見て、かえって落ち着きを取り戻した。
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