第5話 勝負は甘い


 球技大会。

 それは、他の体育祭や文化祭等の目玉行事の影でひっそりと行われるもの。

 一方で大会で活躍の機会が少ない、弱小部活にとってみれば数少ない活躍の場。

 

 そんな球技大会がもう目前にまで迫っていた!!

 

 「つってもなぁ、やる気があるのは外部活くらいじゃないか?」 

 

 辰海は机に頬杖を付きながら喋りかけてくる。

 

 「まあね。そういう辰海はサッカー部なのにやる気ないの?」

 

 一切やる気のなさそうな彼自身サッカー部に所属しており、聞いた限りではかなりの年数続けているらしいのだが、まったくと言っていいほど意欲に欠けている。

 

 「部活内にも個人差はあるしな。大抵意気込んでいる奴から体格の良い帰宅部に押されて足挫いたりするんだよ」

 

 「さらっと、酷いこと言うなぁ。なんかわかるけど」

 

 確かに本番前から何かとチームを鼓舞してる経験者は、終わったころにはひっそりとしているイメージはある。それよりも普段あまり目立たないやつが活躍するほうが大会としても盛り上がるだろう。

 

 2

 

 「ってことがあってさ」

 

 二人で歩く帰り道。

 先ほどの辰海との会話を理津と話していた。

 

 「もしもの話だけど、理津は何か球技をやるとしたら何がしたい?」

 

 「(…………ぽんぽん)」

 

 その場で片手を上下に動かすような動作をする。

 

 「バスケ?へえ、意外」

 

 「(…………ぱすっ)」

 

 「それでスリーポイントシュートを決めてみたい、と。なるほど」

 

 「(…………こくこく)」

 

 「でもなぁ、あれって案外難しいんだぞ。プロのバスケ選手でも確率は低いらしい」

 

 あまりバスケに詳しいわけではないが、そんな話を聞いた気がする。

 二割で入れば御の字、四割を超える人はプロの中でも少ないのだとか。

 

 「いや、でも理津のことだ。さくっとやってのけるかもしれないな」

 

 「(…………ふんす!)」

 

 両手でガッツポーズをしてやるきを見える理津。

 

 「ん?でも女子の球技大会はバレーとドッヂボールだったよな?」

 

 「…………ん」

 

 バスケットボールをやるのは男子だ。

 それに理津は球技大会も見学。やる機会はない。

 

 「………ま、まあ、もしもの話だし機会があればやってみたいな」

 

 本格的にバスケをするだけならともかく、シュートを入れるだけならば理津の体にも負担は少ないだろう。

 

 「あ、そうだ。ちょっと寄り道してもいい?」

 

 「…………?」


 「まあまあ、ちょっとだけ」

 

 「…………ん」

 

 了承も得たので、僕は理津を連れて目的地は伝えずに歩き出した。


 「ここに入ります」

  

 二人が寄り道をしたのは、ショッピングモール内にあるゲームセンター。

 かなりのスペースを確保しており、うちの学校の生徒も利用しており度々同じ制服を見かける。

 

 「お、あったあった」


 二人ともゲーセンに立ち寄る機会はあまりないので、目新しいものについ気になってしまうがお目当てのものはこれじゃない。


 「これなら理津にもできると思って」

 

 今目の前にあるのはバスケットのシュートゲーム。

 転がってくるボールを目の前にあるリングに入れるだけなので、あまり運動のできない理津もやることができる。

 

 「(…………………きらきら)」

 

 どうやらお気に召してくれたようだ。

 僕自身、ほとんどやったことがないので経験値的にはほぼ同じ。

 理津の方はもう準備万端で、台の前に立ってこちらに催促の視線を送っていた。

 

 「…………………負けたら罰ゲーム」

 

 ほほう?

 

 「いいけど、再戦はなしだからね?」 

 

 「…………………勝った方の言うことをなんでも聞く」

 

 「重っ!!」

 

 それは罰ゲームにしたら最高ランクのものじゃないですか?

 こんなゲーセンの台でやることじゃない気がするんですが。

 

 「わかったよ。手加減はなしだからね」

 

 こうして、決戦の火蓋が切って落とされた。

 

 












 ――――――――――負けた。

 

 まさか最後の最後で負けるとは。

 途中まではこちらが手数で押し切り、優勢を保っていたものの。後半も後半で凡ミスが重なってしまった。

 

 (でも、一番の敗因は…………罰ゲームをどうしようか考えてしまったことなんだろうなぁ)

 

 勝利が近づくにつれて、罰ゲームの「なんでも言うことを聞く」が脳裏をよぎってしまって手元が狂ってしまった。

 

 「まさかこれを見越して、先手を取っていたのか…………!?」

 

  理津、おそろしい娘…………!?

 

 「……………………??」

 

 どうやらそうでもないらしい。

 

 「それで、罰ゲームは何にしますか?お嬢様」

 

 僕はおどけて彼女の前に手を差し出す。

 理津はそのまま差し出された手を握ると、

 

 「…………今日は、このまま帰る」

 

 二人、手を握りながら帰る。

 たまにはこういうのもいいのかもしれない。

 

 「でも、理津さん?何やら握り方がいやらしいんですけど」

 

 「…………………(つーん)?」

 

 「え、なに、そのおとぼけ顔」

 

 

 ―――――――次回、球技大会。

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