第3話 日常の一コマ②
1
授業中のあるあるなのかわからないけれど、三時間目は急にお腹がすいたり、眠くなったりするのに、四時間目になると大丈夫になるのはなぜだろう。
そんなことを考えていた。
「ええ、また作品の時代背景として―――――」
現代文のおじいちゃん先生が妙に聞きづらい滑舌で説明を続ける。
いい加減、入れ歯買おうって。
現在四時間目。
授業も折り返しということもあって、クラス内にも薄っすらと疲れが見え始めるころ。
前半は真面目に話を聞いていた僕もかなり集中力が散漫になってきた。
ちなみに列を挟んで左斜め前の席に座る辰海は深い眠りに入ったようだ。
うん?
スマホが振動し、通知が来たことを知らせる。
授業中に通知が来ることは珍しいのだが…………。
「ぶっ!!」
あまりの衝撃に思わず声を漏らす。
「ん?どうかしたかのか、藤巻くん」
先生が訝し気な瞳でこちらを見る。
あまりに大きい声を出してしまったので一瞬にして周りからの視線が集まってしまった。
「い、いえ、何でもないです。すみません…………」
「うむ、そうか。それじゃあ、授業を再開します―――」
先生は特に気にした様子もなく授業に戻ったが、当の本人は気が気じゃない。
それも―――――
(どうして、下着姿の写真を送ってくるんだ理津!?)
スマホ画面に映されていたのは、理津が肌着一枚でポーズをとっている写真。
部屋の様子から朝撮ったのだろう。
赤い上下の布地は艶やかに彼女を飾っていて、所々にあしらわれたフリルが可愛らしさを際立たせている。
なんかもう、女の子の体ってなんでこう滑らかな曲線なんだろうと、思ってしまうくらいに綺麗だった。
(おい僕!何見惚れてるんだよ!思考を元に戻せ!煩悩退散!)
(………ん?)
また新たに振動がスマホを揺らし、通知二件。今度はメッセージだ。
『おすそ分け』
『…………目、覚めた?』
この上なく覚めたよ!
そのまま隣に座る彼女へ抗議の視線を送るが、返ってきたのは心なしか楽しそうな彼女の表情だった。
ダメだ。目が覚めたのは良いけど、どうにも授業に集中できるかと聞かれれば、まったくと言っていいほど集中できそうもない。
僕はこのまま、終業のチャイムが鳴るまでの十分間。悶々とした気持ちを必死に抑えて、ただ耐え忍んでいた。
2
キーンコーンカーンコーン。
昼食の時間帯になり、クラス内にはやっと柔らかい雰囲気が流れてくる。
けれど――――――
「理津、ちょっといいかな?」
「…………ん」
了承を取るとそのまま彼女の手を引いて、僕は歩き出す。
廊下の端の端。この辺りなら人通りもまばらだろう。
「それで!なんで僕が呼び出したかわかるよね?」
いつもよりも一段強く彼女に言いだす。
「…………続き?」
「ちがーう!じゃなくて、こんなの送ってきちゃだめだってこと!」
スマホを大きく掲げ、先程の写真が理津にだけ見えるように目の前に差し出す。
「…………望になら見られても、だいじょぶ」
「うっ…………でも、僕は理津の下着姿が他の人に見られるのは嫌だ。何かの間違いで見られてしまうかもしれない」
それだけは嫌だ。理津の写真が僕以外の男子に見られていると思うと、なんかこうすごいむかむかする。
「…………わかった」
理津は数刻、返事に窮したのち頷く。
わかってくれたか…………。
「なら、今見せる」
「―――――は?」
理津はおもむろに望の腕を取ると、そのまま彼女のスカートの丈を捲し上げるように動かす。布の擦れる音が妙に扇情的で、思わず顔を逸らしてしまう。
「いや、何やって――――!」
「直接見てもらう」
上のボタンも2個外し、下に履いていたタイツはもものあたりまで下がっていた。
「だから、今日のやつは見せてもらったって!」
自分でもなに、最低なことを言っているのだと自覚しているが、こういうしかないだろ!それよりも今、彼女が目の前で下着姿を見せようとしているんだから!
赤のヤツでしょ?目に焼き付いてるよ!
「授業中だったからよく見ていなかったかもしれない」
「ないよ!そんな可能性は微塵もない!」
よく見たよ!見ちゃったよ!
「感想、聞いてない…………」
理津はぼそっと、ほんの少しだけ不機嫌そうに言う。
「―――――――――へ?」
まさかさっきまでの一連の流れは感想が欲しかったってこと?
いやいや、そんな彼女の下着姿を見て「それ可愛いね、似合っているよ。どこのブランド?」なんて聞くこと自体、一人の男子としてはとてもはばかられることなのだが…………。
「あー!もうわかったよ!言えばいいんでしょ!言えば!」
こうなったらもう自棄だ。
僕は大きく息をすって、彼女を真正面から見つめる。
「一度しか言わないから、よく聞いてね」
「…………ん」
「理津はいつも綺麗で魅力的で、だからあの写真の格好は刺激が強すぎるというか…………特に胸の当たりが。僕はちゃんと理津のことを見ているつもりだからその、そういうのはもっとちゃんとした機会にしよう」
言い切ると理津は頷きながら、
「…………ふふ、うん」
満足げに微笑んだ。
後日、感想が気に入ったのか定かではないが、毎日ではないにしろ新しい下着が増えると感想を求めて理津が写真を送ってくることが増えた。
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