第2話 日常の一コマ①

 「ふあ~あ」

 

 次の日。

 いつも通りに起床し、いつも通りに学校に来た。

 教室内に差す日が眩しくて、ついあくびを垂れる。

 

 「おっすー、あれ今日彼女はいないのか?」

 

 「別にセットなわけじゃないよ。今日は理津、部活があるって言ってたし」

  

 「なかったら、一緒だったんじゃねえか」

 

 にやにやと気持ち悪い顔をしながら、一人の男子が見つめくる。


 「うるさい」

 

 軽口を言いながら俺の前の席に座ったのは、春畑辰海(はるはたたつみ)。

 高校一年生の時からの友人で、俺と理津が付き合っていることも知っている。

 

 「今日って、提出物あったっけ?」

 

 「あるぞ、数学。やってないのか?」

 

 「いや~、まさか。もちろんやってるぞ。数Ⅱだろ?」

 

 「提出は数B。やっぱりやってないだろ」

 

 明らかな嘘をつく辰海を俺はジトリと見つめる。

 

 「すまん!やってなかった!ノート見せてくれ!」

 

 「はあ………次からちゃんとやってこいよ。ってあれ、ノートどこやったっけ?」

 

 バッグの中を手探りで探ってみるもそれらしきものは見当たらない。どっかに置いてきたか?

  

 「あらあら、のぞみちゃん。やってくるの忘れたの~」

 

 「待て待て、まだそうだと確定したというかその気持ち悪い口調をやめろ」

 

 提出物でもなければまず家に教材を持って帰らない僕のことだ。これだけ探して見つからなければ、ないのが必然。

 そういや、昨日どこで宿題やったんだっけ?

 

 「…………のぞみ」


 「うわぁ!いつの間に」

 

 気づけば机に顎を乗せる形で理津がいた。

 時計を見れば、HRまであと五分。朝の部活が終わったのだろう。

 

 「…………おはよう。のぞみ」

 

 「う、うん。おはよう。理津。…………そ、そういやさ、僕の数Bのノート持ってたりしない?いやー、持っているわけないよね。ごめんごめん「持ってる」って、あるえぇ!?なんで持ってんのー?」

 

 理津はがさごそとバッグを漁ると一冊のノートを出した。

 何とも言えない使用感。間違いない僕のノートだ。

 

 「…………昨日、家でやってそのまま置いてった」

 

 「ああ!そっか、昨日理津ん家でやったんだった。持ってきてくれたんだ」

 

 「…………ん」

 

 「ありがと!んでもって……じゃあ、はい。ちゃんと返せよ~」

 

 理津からノートを受け取ると、そのまま辰海に渡す。

 だが、当人の辰海は何とも言えない複雑な顔をしており、口元をわなわなと震わせていた。

 

 「いや、借りれるか!なんかこう、提出物よりも大事な何かを見せつけられた感じだよ!」

 

 「どしたの?頭打った?」

 

 何故辰海が叫んでいるのかわからない。明らかに抗議の念を感じるが、あいつに抗議したいのは僕の方だ。毎回のようにノートを貸す身にもなってくれ。

 

 「なにナチュラルに女子の家に上がってんの?まさかもう大人の階段登ったりして…………!?」

 

 「だから、何の話?」

 

 僕の疑問符に構いもせずに暴走列車は止まらない。

 

 「このマセガキ!ハレンチ!望のむっつり!」

 

 「言いたい放題だな!おい!」

 

 さすがにマセガキ呼ばわりは酷い。

 

 「だから、何もしてないって。ね!理津からも言ってやってよ!」

 

 女子である理津から僕の無罪が晴らされれば、さすがに辰海の誤解も解消されるだろう。

 

 「……………………ぽっ(てれてれ)」

 

 なにその照れ顔――――――!?

 

 「な、お前…………ほんとに何やったんだよ!」

 

 「それは僕が知りたいよ!理津もなんで紛らわしい表情するの!?」

 

 その直後、HRのため入ってきた担任によって中断され、結局辰海は提出物を出せずに終わった。




 

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