1.5 文字の能力者

 やっぱり今日も夢をみた。

 男が浜辺で何か話してくれたような。

 朝食を摂り終わると、その程度しか覚えていなかった。

 と言うより、よく解らなかったような。


 いつも通りきわどい時間に家を出て、教室に着いたときちょうど始業のベルが鳴る。

 席に着いて、さっそく水原に問いただす。

「昨日、変な本をカバンに入れたのお前か?」

「はあ?」

 とぼけてる様子はなかった。

 たまに妙なことを知っているので、水原に本を見せてみた。

 本がなぜかカバンに入っていたことを話した。

「それで何で俺を疑うんだ?

 俺も隼も図書館にカバン持っていかなかっただろ。

 お前に気づかれず、こんなでかい本持ってこれるわけがない」

 確かに水原の言うとおりだ。

 サイズはA4くらいで、厚さは5センチぐらい。

 重さは1キロぐらいある。

「何で鞄持ったとき気づかなかったんだ?」

「全然重さも感じなかったし。

 開けてから初めて気づいた」

「能力を使われたんじゃないか」

「そうだな。

 それより何か解らないか?」

 水原に本を渡し、水原はページをめくりながら。

「いくら俺が物知りとはいえ、この字は読めないな」

「自分で言うなよ。

 解らないのに威張るな」

「っていうか、これ何語?」

「この頁の字は古典に出てくる草書のひらがなに似ているような気がするけど、よくわからん」

 本にはいろいろな文字のようなものの他にも、図形や落書きのような不規則な線など様々なものがかかれている。

「何、そう書って? 隼と違って、芸術で書道もやっていないし、古典にも興味ない。

 授業では直された文しか読んだことないし。」

「お前が知っているなんて期待してないから心配するなよ」

「本当に失礼なことを言うなあ。

 だけど知ってそうな人物ならいるぞ」

「そっ、そっちに期待してたんだ。

 それで誰?

 語学教師と言うなら覚悟してもらおうか」

 水原は大きく息をついて言う。

「本当に聞く側のセリフじゃないな。

 立場わかってるの?

 お願いしてるんだよな?」

「なーに言ってるの。

 僕と水原さんとの仲じゃん」

「こういうときばかり」

 水原はあきれたように言った。

「それで、どこの誰?」

 追求すると水原はあきらめたようで、なげやりに言う。

「わかったよ。

 名前は忘れたけど、文字を操る能力者がいるらしい。」

「どこかにはいるだろうな。

 肩書きは何だ?

 中央図書館長じゃないだろうな」

「あせるな。

 同い年だよ」

「さすが、よく知っているな」

 少し大げさに言ってみたが、水原は冷静に

「有名なんだよ。

 隼が世間に疎いだけ」

「それはおいといて、名前も知らずにどうやって探すんだ?

 顔を知っているのか」

 水原はうなずいた。

「だけど、この学年に何人居ると思っているんだ?

 写真があったとしても面倒だ」

「ダイジョーブ。

 出没ポイントがあるから。

 昼まで待て」

 周りの人に聞くと、名前は草薙ということが判った。

 やはり、有名ならしい。

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