1.6 隼の評価

「せめて食べさせろ」

 授業が終わるとすぐに教室から水原の腕を引っ張って中央図書館へ向かう。

「明日は土曜で休みだろ。

 見つからなかったら二日後だ。

 張って探す手間を省くんだよ」

「あの手の人物は毎日、図書館へ行くよ」

「お前が明日も来るわけないだろ。

 行くぞ」

「もういいじゃん。

 あんな本ほっておけば」

 嫌そうに水原が言った。

「調べると決めたら調べる。

 それにカバンに入れた奴の手がかりになるかもしれないしな」

「自分で入れたんじゃないのか?」

 さらに面倒くさそうに、適当なことを言った。

「そんなわけないだろ」

「わかったよ。

 手を離せ。

 ただしこれは貸しだからな。

 何かおごれよ」

「なに言ってるの? 僕と水原との仲じゃん」

「だまされないし絶対流されない。

 必ずおごらせるぞ」

 水原には落ちているガムでもあげることに決めた。


 そして中央図書館に着いた。

「さて、着いたけど意外と人がいないな」

「だからゆっくり食事をすれば良かったんだ」

 ロビーの椅子に座って待つがイグドラ関係者が少し来るくらいであまり人が来ない。

「仕方ない。

 一階ずつ見てまわるか」

「おい、十階あるんだぞ。

 貸し×2」

 二個あげることにした。

 エスカレーターで二階へ上がる。

「僕が二層を見るから、水原は一層見て」

「顔わからないんじゃないのか?」

「この歳で、ここにいる奴がそうだろう」

「そうだな」

 水原の微かな笑みが確認できた。

 六階までの一般図書の捜索が終わったときには数人ほど無関係な人に声をかけていた。

 水原の笑みが理解できた。

「隼。

 ずいぶん人も増えてきたし、時間もないぞ」

「うるさい。

 急げ」

「隼と違って肉体派じゃないんだからな」

 小走りで移動し、専門図書の窓口に学生証を提示して入室しようと思ったとき、手続きを終えて本を二、三冊抱えて出てくる男がいた。

 同じ年ぐらいで腰辺りまである長い髪。

 その男とすれ違った後、水原が

「あっ」

「どうした。

 金でも落ちてたか?」

「彼がそうだ」

「すぐ言え」

 草薙に声をかけようとすると「待て」と水原に呼び止められた。

「何だ」

「ひとまず後を付ける」

 水原は耳元で声を低くしてつぶやいた。

「なぜ?」

「隼に気づいたら逃げるぞ」

「何言ってるんだ?

 行くぞ」

「いいから、隼はここで待っていろ。

 俺が声を掛けてやるから」

「意味がわからん。

 とにかく行く」

 後を付けると、座って本を読み始めた。

「行くぞ」

「どうなっても知らないからな」

 水原と並んで草薙の向かいの席に座り、水原が声をかける。

「すみません」

 草薙は本から目を離さず、耳だけを傾けてるようだ。

「二年七組の水原です」

「それで、そちらの方は?」

 草薙は依然、本から目を離さずに今度は質問してきた。

「同じクラスの新山です」

「新山、陸上部の新山隼!」

 ついに本から視線を外した。

 少し驚いた様子だ。

「そうだよ」

 視線が合ってそう答えると、草薙が本を閉じて立ち上がり、霧に包まれていくように消えてしまった。

「ほーら、だから言ったんだよ」

「いったいどうやったんだ?

 これが文字の能力?

 それより何で名前聞いて驚くんだ?

 しかも消えるし」

「100m7秒で走る人は常識で考えると怖い人になるんだよ」

「8割でね」と心の中で言って反論する。

「僕は7秒台で走れるだけだ。

 突然目の前で消えたり、水を触れずに動かしたり出来る人の方が怖いと思うけど」

「それは隼自身だからだろ。

 俺達みたいな能力者は怖いの」

「まあいい。

 明日もここに来るだろう。

 これで顔も判った」

「どうせ、また逃げられるぞ」

「心配するな。

 明日は絶対捕まえる。

 そして今日のことを詫びさせる」

「かわいそうに」

 と水原の小さなつぶやきを聞き取った。

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