1.2 巨大学園イグドラシル、ホームルーム

 イグドラシルと学校全体を囲んでいる高さ2メートルほどの金属の柵が延々と続く道を歩き、高校の敷地に入いった。

 にぎやかな小学生ともすれちがわなくなり、遠くを走る自動車の音と、運動施設の方からのかけ声や様々なボールの音が聞こえてくだけで、見渡す限り誰もいない中央通路を歩く。

 幅20メートル位でイグドラの敷地を貫いている主要通路。

 このような大きな通路が六本あり、イグドラと学校を一辺1キロのマスで区切っている。

 それぞれ曜日の名前が付けられている。

 基本的に一般車両は通行できず、各通りの地下に車道がある。

 ホームルームがあるのは、屋上と地下一階付きの三階建ての建物。

 Hー2棟へ向かう。


 まだ七時三十三分。校舎には静寂が広がっている。

 ロックが外されてから三分。

 賑やかなわけがない。

 二階の2ー7の教室に入る。

 僕の学年は十六クラス約四百人だが、学年によってずいぶん人数が違う。

 一学年は六百人、三学年は二百人、四学年は三百人。

 中学高校は能力の訓練が授業に組まれているため四年制だ。

 学生証でもあるカードキーでロッカーを開けて荷物をしまい、散歩することした。


 校内に人が増えてきたが、まだ静かだ。

 モノレールが頭上を通過していった。

 その下にある「動く歩道」も動き出している。

 中央通路と学校を囲むように作られた東西南北通りに沿って走っている。

 普段、モノレールや動く歩道を使う道を自らの足のみで歩いてみる。

 イグドラの方まで行くと、いろいろなものが見えてきて、初めて通る道、初めて見る施設が以外と多かった。

 人通りも徐々に多くなってきて、樹に囲まれた芝生の公園で少し休むことにした。中央にある東屋とベンチがいくつか置いてあるだけの公園。

 同じような公園が1キロごとに設置されていて、計二十四カ所の公園は時間を意味しているらしい。


 東屋の椅子に座って落ち着くと、芝の香りや朝の香りを感じて気分が良くなった。 視線を上にずらすと木々の間から中央図書館が見えた。

 白い十二階建ての建物で外国の古い教会のような尖塔がシンボルだ。

 四つの尖塔が中央の大きな尖塔を囲んでいる。

 近代的な建物だがステンドグラスなどもあり、教会の聖堂の雰囲気を感じる。

 中央図書館はその名の通り、学校とイグドラの中央区画に建てられている。

 思っていたより歩いていたようだ。

 時間の経過が気になって時計を確認すると八時半五分前。

 周囲の騒がしさに気づいた。

 Hー2棟に向かって、動く歩道の中を走る。

 多少迷惑になったが、2キロ近くある道のりを二分で走り抜けて、早起きの特典を一つ失わずにすんだ。


 教室に着くと始業のベルが鳴った。

 隣の席の水原悠が毎度のセリフを言う。

「徒歩十分の距離で、何でいつもぎりぎりなんだ?」

「うるさいなあ。

 かえって油断するんだよ」

「俺は寮から歩いて五分だけど、いつも余裕があるぞ」

「ばか。

 徒歩十分が油断する距離なんだよ」

「はい、はい」

 水原はあきれたように言った。

 細身で長髪。

 最初はキモイと思ったけど人間慣れるものだと。

「それにお前は早く来ても寝ているだけだろ」

 そんな馬鹿な会話していると担任の佐藤が来た。

 まだ二十代で使いやすい。

 身長もやや低めで顔も年の割に童顔だと思う。

 来たばかりの時はよく学生と間違えられたらしい。

 伊達眼鏡をかけている。

 特殊能力を持っている。

「全員いますね」

 出席確認の際、僕を見て言うのがむかつくけど、無理はないかもしれない。


 午前の授業が終わり、お昼休みに食事を済ませて今日は余った時間、水原を連れて図書館へ本を返しに行くことにした。

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